第13話「擬似魔人」
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角と尻尾が生えた少女達によって同時多発的に起きた謎の暴走事件。
事件自体はたまたま現場に居合わせたりした【チーム雪月花】や【チーム松竹梅】の先輩たち、それに地元の守衛隊の人達の手によって無事解決したが、謎は多く残された。
まず、事件を起こした少女達の共通点。
彼女達は住んでいる地域も違えば互いに面識も無いハズだという(これに関しては、事件以降当人達が意識不明で眠った状態なため、近しい人達からの聞き込みから分かった事実を元にした憶測となる)。
唯一の共通点は、彼女達は魔法師の才能があるにも関わらず魔法師育成学園には通わずに一般の学園に通っているという点だ。
次に、彼女達が魔石も持たずに魔法(魔石を使っていないので、厳密には魔術ということになる)を使っていたという点。
いくら魔法師の才能があっても魔石が無ければ魔法は使えないし、ましてや魔術となると体内に魔力を持った魔獣か、核戦争より遥か前にこの世界に|やって来た《『異世界転移』して来た》という魔人以外には扱えない。
そして、普通の少女が突如としてその魔人と呼ばれる特徴を持った人類によく似た特徴を持った姿に変化した点。
少女達は皆一般の高校に通う女子高生達ばかりで、当たり前の話になるが、普通の人間が突然その場で別の人類種に変化(進化?)するなんてことはあり得ない。
変身と言えば、つい先日の魔女教教徒達の魔獣人を思い出すが、あれは元になった魔獣の魔操細胞を埋め込まれた状態で、特殊な魔石を使うことで変身していたわけだが、彼女達はそういった特殊な魔石のような物を持っている様子は無かった。
これらの事実から俺達は、彼女達が十年前の魔女教による『幼児集団誘拐事件』の犠牲者であり、俺達と同じように魔女の細胞、つまりマジョリティ細胞を埋め込まれた人達だったのではないかと考えたわけだが…
「ああ、正しく彼女達は君達と同じ誘拐事件の犠牲者で、同時に魔女の細胞を埋め込まれた少女達だということが分かった」
週が明けて月曜日、緊急招集ということで俺達魔法少女クラスと魔砲少女くらす、そして戦乙女科の全員が集められた席で、緑川博士が単刀直入にそう言った。
「【魔女】の遺体を調べている矢先に、まさかその【魔女】の特徴に似た少女達が現れるなんて想定外の自体もいいところだ!おかげで日曜日は調査と研究で丸一日潰されてしまったよ!」
そう言う緑川博士の目の下にはクマが出来ており、髪の毛もボサボサで風呂にも入っていないのだろう(にも関わらず博士からはいい匂いがしているのは使っている香水がいいからなのだろう)。
そんな緑川博士のボサボサの髪を、翠山博士が後ろからセットしながら話を続ける。
ちなみに翠山博士の方は髪はキレイにセットされており、顔も一見するといつも通りに見えるが、緑川博士と同じように丸一日半近く調査と研究を続けていたわけだから、目のクマなどは化生で誤魔化しているのだろう。
「いきなり色々言っても皆さん混乱するでしょうから、一つ一つ順番に説明させて頂きます。
まずは魔法少女の皆さんが気になっているマジョリティ細胞についてからです」
緑川博士の髪をセットし終えた翠山博士はそこで一息つき、こう続けた。
「魔法少女の皆さんの体内にあるマジョリティ細胞は、【魔女】の細胞に非常に近い細胞だということが分かりました」
「非常に近い…?ってことは、俺達のマジョリティ細胞は【魔女】の細胞ではないということですか?」
「うむ、そうとも言えるし違うとも言える」
俺の疑問に対しては緑川博士が答えた。
「大きな括りで見れば、両者は同じ物だと言える。だが、より細かく分析してみたところ、両者には僅かながらに違いが見られたことから、別の物だと判断した」
「分かりやすく例えで説明するなら、我々人間とかつて並行世界からやって来た魔人は同じ人類種にカテゴリーされますが、両者は全く違う種属にあたる、という感じですね」
まず、大きな括りとして、魔操細胞というものがある。
その魔操細胞の種類として、魔獣達の身体に存在する物と、【魔女】が持つ物、そして俺達のマジョリティ細胞があるということらしい。
「だが、魔獣の持つ魔操細胞と君達のマジョリティ細胞はほぼ別物くらいの違いがあるのに対し、マジョリティ細胞と【魔女】の細胞はほとんど同じ物と言えるくらいに似た構造をしているため、君達のマジョリティ細胞が【魔女】由来の物というのはほぼ間違いないだろう」
「そして、土曜日の暴走した少女達、仮に〈擬似魔人〉と呼称しますが、彼女達の中にもまた別種の魔操細胞が確認されました」
そう言って翠山博士が黒板に三枚の写真を順に貼っていった。
その写真は何かの細胞のようなものを写した物らしく、最初は全部同じ物かと思ったが、よくよく見れば三枚共に微妙に違っていることが分かった。
その写真を緑川博士が指示棒で指しながら説明を続ける。
「右から擬似魔人の細胞、マジョリティ細胞、そして【魔女】の細胞となる。これを見て、諸君は何かに気付くかな?」
そう言われて写真をよく見るが、まるで某有名ファミレスの間違い探しを見ているような気分になってくる…
それくらいに三枚共によく似ていたのだ。
しばらくして、その何かとやらに気が付いたツキネ先輩がこう言った。
「あ…っ!?擬似魔人の細胞とマジョリティ細胞、そしてマジョリティ細胞と【魔女】の細胞はよく似てますが…、擬似魔人の細胞と【魔女】の細胞は明らかに違いが分かるくらいに違っています…!」
「その通りだ!さすがはツキネ君、よく気が付いたね!!」
緑川博士のテンションがいつもの授業中よりも遥かにヤバ目なのは徹夜明けだからだろうか?
いや、そんなことよりツキネ先輩に言われて俺も改めて写真を見比べてみたが……、
「アカン…、サッパリ分からん…」
「ボクも…」
「いや、どう見ても全部同じっちゃろ…」
「だ、だよな…?」
俺と同様、レンカやフレンダ、ユウト、ユウキ、それに他のメンバーも違いがよく分かっていなかった。
ただ、【松竹梅】先輩達だけは「あっ!なーる!」「言われてみれば確かにー!」「ツキネ様はさすがの慧眼ですね」と言っていた。
見た目ギャルだが風紀委員なだけあって頭も良いらしい…
「この事実から、恐らく君達のマジョリティ細胞や擬似魔人の細胞は【魔女】の細胞を元に作られた不完全な【魔女】の細胞であり、その中でもマジョリティ細胞はより【魔女】に近く、擬似魔人の細胞は不完全な上に不安定な物ということだ」
「不完全な上に不安定…」
「でも、何故そんな不完全な物が擬似魔人になってしまった人達に…?」
マリの疑問に翠山博士が答える。
「それは、魔操細胞とその細胞への適合率の問題です」
「適合率…?」
「ええ。本来、人間に魔操細胞という物はありません。
ですから、体内で未知の細胞に対する防衛反応と、魔操細胞による未知の体への適合反応が起こった結果、埋め込まれた【魔女】の細胞は変化し、適合率の高かった魔法少女の皆さんにはマジョリティ細胞として、適合率の低かった被害者の皆さんには擬似魔人の細胞として定着したわけです」
「そして、その適合率の低い被害者の体にとっては魔操細胞は異物となるわけだから、防衛反応としての拒絶反応が起こるわけだ。
被害者の関係者から聞いた話では、被害者の共通点として彼女達はここ数日謎の頭痛に悩まされていたようだ。これが拒絶反応からくるものだと言っていいだろう」
「そして、その拒絶反応はやがて魔操細胞の暴走を引き起こし、今回のような事件が起きてしまった、というわけです」
つまり、博士達の言う事をまとめると、【魔女】の魔操細胞を元に作られた細胞があって、それを俺達に埋め込んだ結果、適合率の高かった俺達魔法少女においてはマジョリティ細胞という形に変化して適合し、低かった被害者の少女達においては擬似魔人の細胞という不安定な形に変化し、それが暴走した結果として被害者達は擬似魔人に変貌してしまったということだ。
「しかし、では魔女教は【魔女】の細胞をどのようにして手に入れたんですか?大元の【魔女】の細胞が無ければ、そのクローニングなんかも出来ないハズですよね?」
二年生の石動蘭先輩がそんな質問をした。
クローニングとは、この場合は細胞を複製して増殖する技術のことを言う。
「それに関してだが、実は【魔女】の遺体は右手の親指が欠損した状態で保存されていたんだ」
「えぇ!?」
「これに関してシホ学園長は『妾が封印する前からその状態じゃったぞ』と仰っていました」
どうでもいいが翠山先生のシホ学園長のモノマネがやたらと似ていたので少し笑いそうになってしまった。
「ということは、【魔女】討伐時に付けられた傷かもしくは、討伐後から封印までの間に何者かが意図的に親指だけ切断して持っていった、ということですか?」
ラン先輩の質問に、緑川博士が頷きながら答えた。
「ああ、石動君の言う通りで、遺体の状況から見るに、どうやら後者のようだ」
つまり、【魔女】が討伐された後、封印される前に何者かが【魔女】の遺体の右手から親指だけを切断して持って行ったというわけか…
「誰が何のためにかは分からないが、その後巡り巡ってその親指を魔女教が入手して、その親指から【魔女】の細胞をクローニングし、【魔女】復活のためと称して十年前の誘拐事件を起こして君達にその細胞を埋め込んだわけだ」
そして、運良く【魔女】の細胞に適合した俺達は魔法少女となり、適合出来なかった人達は今回のように擬似魔人となってしまった…
「博士、その魔操細胞の暴走を防ぐことは出来ないんですか?」
セツナ先輩がそう質問すると、緑川博士はあっさりとこう答えた。
「それは簡単だ。魔法少女になればいい」
「ええ!?」
「これにはちゃんとした根拠があって、実はな、改めて君達のマジョリティ細胞を詳細に調べさせてもらったところ、海原君と青羽君のマジョリティ細胞は擬似魔人の細胞と同じ不安定な細胞だということが分かったんだ」
「えっ、ボク!?」
「あ、あたしも!?」
博士の発言に、フレンダと二年生の海原詩奈先輩は寝耳に水といった顔で驚いていた。
「ああ、魔法少女クラス設立時には個人差があるくらいの感覚でいたのだが、私の考えが少し甘かったようだ、二人には本当に申し訳なく思うよ」
「じゃ、じゃあフレンダちゃんやあたしもいずれは擬似魔人になるってことですか!?」
「まぁ落ち着きたまえ、海原君。先程も言ったが、君が魔法少女に変身し続けている限り、より正確にはマジストーンを常に持ち歩いている限りは君のマジョリティ細胞が暴走し、擬似魔人になることはない、それだけは保証するよ」
「そっ、それは一体どういう理屈なんですか!?」
自他共にマッドサイエンティストであることを認めるラン先輩が鼻息荒くそう尋ねる。
「それを説明する前に、まず魔人である【魔女】や擬似魔人が魔法ではなく魔術を扱えることに関して説明しよう」
ラン先輩の疑問に答える前に博士達は、魔人についての説明を始めた。
*
まず、魔獣が魔術を扱えるのは魔操細胞と、魔力を生み出す核という器官が存在するからだ。
それと同じように、魔人にも魔獣の核に近い器官があることが【魔女】の遺体を調べた結果分かった。
これを便宜的に〈魔核〉と呼ばせてもらうが、これと似たような器官が擬似魔人の体内に生成されていることが分かったんだ。
その魔核を〈擬似魔核〉と呼ばせてもらうが、これはより魔獣の核に近いもので、どうやら不安定な魔操細胞が体により適合しようとするために、魔操細胞自身が大気中のマナから魔力元素を取り込み、体内に作り出した器官のようなんだ。
これは、魔獣における核と魔操細胞の成り立ちとは逆の現象と言える。
魔獣の場合は、大量のマナが集まり、そのマナに含まれる四つの魔力元素の内の一つが核となり、残り三つの魔力元素が魔操細胞を始めとするあらゆる身体の細胞を構成することで生まれてくる。
何故そのような逆転現象が起こるのかは謎だが、魔獣においても年月を経て核が増殖する個体が存在するが、あれもひょっとすると体内の魔操細胞が身体の成長に合わせて新たな核を生み出した結果なのかもしれない。
ちなみに、マジョリティ細胞に関してはそういった現象は見られない。
体内に適合し、安定しているため魔核を必要としていないからなのだろう。
そして、青羽君と海原君の不完全な細胞に関しても、マジストーンを肌身放さず持っておくことで、他の魔法少女達と同様、安定した状態を保っていることが分かった。
これはマジストーンが魔核の役割を果たし、不完全な細胞は魔核があると勘違いすることで、体に擬似的に適合し安定化する。
一方体の方も、安定化した魔操細胞に対しては防衛反応を示さずに、拒絶反応も起こらないというわけだ。
*
「それじゃあ、一歩間違えばあたし達も…、」
「擬似魔人になってた可能性がある、ってことですか…?」
博士の説明を聞き終えたシイナ先輩とフレンダは少し引きつったような表情を浮かべていた。
無理もない、博士の説明が本当なら、二人は魔法少女にならなければ今頃は先日の少女達と同様に擬似魔人となって暴走していたかもしれないのだから。
「二人の言う通りではあるが、それでも可能性は限りなく低かっただろうな」
「お二人は魔法少女となる前から魔法師として、魔石を使って魔法を使ってきましたよね。魔石にもマジストーン程ではありませんが、不完全な魔操細胞を安定化させる効果がわずかながらあるようです。
故に、魔法師である限りは可能性はゼロとまでは言いませんが擬似魔人になる確率は低いかと」
「そ、そうなんだ…」
二人の博士の回答に、ホッとした表情を見せるシイナ先輩とフレンダ。
そして長かった【魔女】や擬似魔人に関する調査報告が終わると、今後のことについて緑川博士が話し始めた。
「さて、では今後のことに関してだが、まず最優先事項として魔高に通う生徒以外の、マジョリティ細胞を持つ人物を捜索し、彼女達を我が12魔高で一次的に保護する。
また、今回のような擬似魔人災害が起こった場合に備えて、【チーム雪月花】と【チーム松竹梅】の諸君らは勿論、二年生以下のメンバーもいつでも出動が出来るよう、今後一層実技訓練に励んで欲しい。
そして最後に、魔女教に関してだ」
そこで緑川博士は一旦言葉をとぎると、こう続けた。
「今回の【魔女】に関する調査から、朧気ながら魔女教のやろうとしていることが見えてきた。
魔女教の目的である【魔女】の復活、それを行うために連中は幼かった諸君らを誘拐し、【魔女】の細胞を埋め込む外科的手術を行った。
だが、これだけでは【魔女】には至らず、良くて魔操細胞はあるが普通の人間、悪くて暴走の恐れがある擬似魔人になるだけだ。
では、【魔女】に至るには後何が必要か…?」
緑川博士の問いかけのようなセリフに、セツナ先輩がポツリとこう言った。
「魔人となるための、魔核…?」
「その通りだ。
君達は魔操細胞を埋め込まれた後、何かの儀式を受けさせられようとしていたそうだね?」
その瞬間俺の脳裏に、黒頭巾の人間達が一人の少女を掴んで床の上に書かれた不気味な陣の上に寝かせ呪文を唱える様子と、その後陣の上に固定された少女が叫び声をあげ、じたばたと暴れた挙句に動かなくなった時の様子がフラッシュバックした。
「恐らくだが、その儀式とやらで【魔女】の細胞に適合した少女に魔核を埋め込み、その魔核に適合出来れば完全な魔人、つまりは【魔女】として覚醒するのではないか…?」
緑川博士の推測によると、【魔女】として覚醒するには、【魔女】の細胞に適合した上で、さらに儀式によって埋め込まれた魔核に適合しなければならないという。
【魔女】の細胞だけでなく、魔核も普通の人間にとっては異物に他ならないため、適合しなければ拒絶反応は当然起こる。
その結果、最初にその儀式を受けた数人の少女達は死んでしまった…
そして今回擬似魔人となった少女達も、死んでこそいないが、体内に生まれた擬似魔核の影響か、現在は昏睡状態に陥っている。
「要するに何が言いたいのかと言えば、君達魔法少女は【魔女】の細胞に適合した人物ということで、今後再び魔女教に狙われかねないということだ。
そして、すでに【魔女】として覚醒している可能性のある白瀬君の妹、その関係者である白瀬君と黒霧兄君に関しては、すでにターゲットとして認識されている可能性が非常に高いため、特に注意するように」
「「はい!」」
「もし万が一魔女教と遭遇した場合にはすぐにマギアコンパクトで私に連絡するように。
こちらと無理に会話をする必要は無い、コンパクトの無線通信スイッチを押すだけで十分だ、即座に対応する」
「「了解しました!」」
「というわけで、ひとまずこの場は解散とする」
こうして、この日の【魔女】と魔女教、擬似魔人などに関する報告会は終わった。
そうして部屋を出ようとした俺に、会議中は無言だった碧風博士が俺に近づいて来てこう言った。
「やぁ、マサト君!急な話で申し訳ないんだが、明日の放課後は時間あるかな?おっと!最初に断っておくけど、デートの誘いじゃないよ?私には瑠璃ちゃんと瑠衣ちゃんという大事な彼女がいるからね!」
「え、はい、それは分かってますけど、明日何かあるんですか?」
やっぱり博士達はそういう関係だったんだな〜と内心で思いつつ碧風博士に質問をすると、こんな答えが返って来た。
「うん、実はね、明日にも汎用型戦乙女、つまり量産型戦乙女の性能テストを行おうと思うんだけど、君も参加してみるかい?」
「それは是非っ!!」
ということで、俺は量産型戦乙女の性能テストに参加することになるのだった!
ひゃっほーう!楽しみだぜっ!!




