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刑場の娘  作者: 紫乃森 統子


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四.次期非人頭(3)

 

「ああ、軽いものなら大して苦でもないんだがな……」

「おまえは気が優しいからなあ。苦労しているんじゃないのか?」

 幼い頃からよく知る虎之助は、恭太郎の性質も熟知している様子で、眉尻を下げて気遣わし気な視線を寄越す。

「はは……そうだな、人別帳改方や詮議方ならまだましなんだがな。流石に刑場の検視役だけは未だに慣れぬ」

 乾いた笑いで返せば、虎之助はやはりそうかと痛まし気に目を細めた。

「惨い刑罰が多いからな。いくら罪人といえど、気の滅入るものだろう」

 そう言って同情してくれるのは、虎之助くらいだろう。

 この人事は、恭太郎の性格を長らく案じてきた父・帯刀の言によるところも大きい。

「親父様の荒療治か。功を奏するとは、俺には思えんなぁ」

「……父には父の考えがあるのだろう。私はそれに応えなければならん」

 苦笑すれば、虎之助はやや不満げに口元を歪める。

「そうか? 確かに帯刀様は俊才と評判の方だが……我慢に我慢を重ねて乱心する前に、配置換えを願い出るのも一つだぞ」

 人の痛めつけられる様や、血を見ることそのものを苦手とする恭太郎の性質を良く知るからこその助言だろう。

「だがまあ、実のところ、もっと憔悴しているかと思っていたから、意外に元気そうで安心した」

 白い歯を見せてにっかり笑うと、虎之助はひとつ恭太郎の背を叩く。

 またゆっくり話をしよう。

 そう言って、虎之助は再び学館のほうへと歩み出す。

 照り返しでゆらゆらと陽炎の立つ中、振り返りつつ片手を振るのを見送り、恭太郎は一人苦笑した。

 

 ***

 

 最近も、虎之助と似たようなことを言う者がいた。

 秋津には同情されるどころか叱り飛ばされてしまったが、あの気概に圧されて少し目の覚めるような感覚を覚えたのも事実だった。

 もう少し前なら、虎之助の目にも明らかに憔悴していたことだろう。

 それが何とか元気にやっているように見えるとすれば、他でもなく秋津のお陰だ。

 だが、何となく秋津のことを話題に出すことは憚られた。

 秋津も棲家を知られたくないと言っていたし、(いたず)らにその存在を打ち明けてしまうわけにもいかない。

 虎之助とは幼少から仲の良い間柄だが、非人の娘を心の支えにしていると知られれば、更に要らぬ心配をかけてしまう気もする。

 そして何より。

 郡代の嫡子である恭太郎が秋津を特別贔屓しているように思われては、秋津も今後がやり辛くなるに違いなかった。

 執行途中で刑場から逃れた日には、城でも咎められ、家に帰り着くなり父からもきつく咎められた。

 未だ見習いの立場であればこそ、目を瞑って貰えていたが、それも三度続けばもう後は無い。

(この調子で、本当に私に務まるのだろうか……)

 刑場での検視役に限らず、強盗、放火、殺し、様々な罪を犯す者がいる限り、犯人を炙り出し詮議し、時には拷問を指示することにもなる。

 町奉行や郡代には、深い洞察力に鋭い観察眼、豊富な知恵と知識を以て職務を遂行することが求められた。

 更には、凄惨な刑死や現場に耐え得る胆力も必要とされる。

 勿論、それが必要であることは承知しているし、罪は罪だ。犯した罪は贖わせるのが世の常でもある。

(これ以上、失態を見せるわけにはいかないな)

 恭太郎は、ぐっと顔を上げて唇を引き結んだ。

 

 

 【第五章へ続く】

 

作品にお付き合い頂き、ありがとうございます。

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