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#8 砲撃戦

『敵艦隊まで35万キロ! 接敵まで、あと10分!』

『主砲、セーフティロック解除! エネルギー伝導回路、接続!』


 緊迫した艦内放送が入る。聞けば、こちらの100隻の艦隊が、敵の100隻の偵察艦隊を発見し、これを攻撃するのだという。機関室は、この指令を受けて一気に慌ただしくなる。


「伝導回路つなげ!」

「了解! 回路、つなぎます!」


 ブライアン少尉が、大きなレバーを引く。すると機関室の壁から、大きな筒のようなものが突き出してくる。その太い筒は、核融合炉とつながった。


「回路、接続しました!」

「よーし、ロック作業、急げ!」


 私とブライアン少尉、それに先の戦艦補給時に新たに加わえられた2人が、その管の周りに集まる。

 管の周りにつけられた、ボルトのようなものを締める。しかしこの大きな管を核融合炉に取り付けて、一体何をするのだろうか? 


『敵艦隊まで32万キロ!』


 なんだかよく分からないけど、外にはおっかない敵がいるらしい。さっきから、周りの空気がピリピリしている。艦内放送の声が、徐々に高ぶるのを感じる。

 ところで、私は今、ぶかぶかな船外服と呼ばれる服を着ている。いや、これは服というより、全身を覆う寝袋のようなものだ。この暑苦しい機関室内でこんな分厚い服を着たら、暑くて倒れそうな気がするが、意外にも中は涼しい。

 ウォーレン大尉によれば、この船外服には、暑さ寒さを調整してくれる仕掛けがあるそうだ。それに空気のない宇宙空間に放り出されても、7時間は生きていけるという。万一に備えて、戦さの時には皆、この服を着用することになっていると言われた。


『敵艦隊まで30万キロ! 射程圏内です!』

『砲撃開始! 撃ちーかた始め!』


 ついに、戦さが始まったらしい。ウォーレン大尉が叫ぶ。


「砲撃開始だ! 核融合炉、出力最大!」

「了解! 出力上げます!」


 私は、核融合炉のレバーを思い切り引く。すると核融合炉に取り付けられたあの太い管から、キィーンという甲高い音が鳴り響く。

 と同時に、核融合炉がガタガタと震え始める。重くて大きくて、微動だにしないはずの核融合路が、まるで古い馬車のように音を立てて震え始めたのだ。

 私は、エネルギーゲージを見る。そして、驚愕する。

 ひえええぇっ! え、エネルギーが、みるみる吸い取られていく! 


「た、大尉殿! 核融合炉のエネルギーが!」

「大丈夫だ! 出力を維持し続けろ!」


 恐ろしいほどのエネルギーを、あの管が核融合炉から吸い取っている。レバーを目一杯引いたまま、私はその管を見る。一体、何が始まるの!? 


 と思ったその瞬間、猛烈な音が鳴り響いた。それは、雷のような音、ただし、すぐ真横で落ちた時のように、けたたましい音だ。


「きゃぁっ!」


 私はその音に驚いて、思わず叫ぶ。そして、その場に倒れ込んだ。


「おい、ジョルジーナ二等兵! 何をやっている!」


 ウォーレン大尉が、私に向かって叫ぶ。


「いや、物凄い音がしたもので……」

「あれは砲撃音だ、気にするな」


 いや、気にするでしょう。めちゃくちゃ大きな音ですよ!? あの音を間近で聞いてなんともないなんて、この人はどうかしている。

 でも、周りを見ると、怯えているのは私だけだった。他の人も何事もなかったかのように、黙々と自身の配置についている。私は立ち上がり、再びレバーを握る。

 にしても、また物凄い勢いでエネルギーが吸い取られていく。なんなのよ、この管は? この駆逐艦の中のあらゆるものを動かすために使われるエネルギーが、わずか10秒ほどの間に一気に半分以上も吸い取られるなんて、何が起きているのだろう? 

 また、あの雷音が響く。だけど、怖がっていても仕方がない。周りを見ると、皆平然としている。私も我慢して、レバーを握りしめる。


 徐々にこのけたたましい音には慣れてきたけど、今度は核融合炉が気になってきた。砲撃音の後に行われるエネルギー装填の度に、エネルギー伝導管と呼ばれるあの太い管と核融合炉が、ビリビリと揺れるのだ。

 おまけに、ものすごい量のエネルギーを吸い取られる。ゲージの落ち込みっぷりが激しすぎて、不安になる。


「おい! エネルギーの低下が著しいぞ! なんとかしろ!」


 相変わらず、無理難題を私に押し付けてくる大尉。しかし、なんとかしろって、レバーを引く以外にどうすればいいの? 


「あの、大尉殿。どうすればいいのでしょうか?」

「気合いだ! 気合を入れてりゃいい」


 そろそろ私は、大尉に何かを尋ねるのをやめるべきだと、いい加減学んだ方が良さそうだ。毎回そうだが、聞くだけ無駄だ。

 大尉の言う通り、気合を入れてはみるものの、私の気合いなど、この巨大な核融合炉の前ではものの役にも立たない。帝国の大宮殿の前の一枚の落ち葉に等しい。私の気合いなどとどこ吹く風で、あの伝導回路とかいう管が核融合炉のエネルギーを貪っていく。

 幸い、重力子エンジンはそれほど力を出していない。おかげで、この馬鹿げた大食漢な管の欲求に応えてあげられる。

 戦さが始まって、40分が経った。あの雷のような砲撃音にも随分と慣れてきた。が、さっきまでとは様子の異なる艦内放送がかかる。


『敵艦よりロックオン! 砲撃、来ます!』

『砲撃中止! バリア展開!』


 その直後、聞いたことのない音が響き渡る。

 ギギギギィーッという、頭の中まで響く不快な音だ。何か硬い物を擦り付けるような、そんな音がしばらく響き渡る。

 砲撃音に慣れた私でも、耐えられない音だ。船外服のバイザーを開けて手を突っ込み、耳を塞ぐ。

 周りを見ると、ブライアン少尉も同じように耳を塞いでいる。他の人も作業は続けているものの、さっきとは明らかに様子が違う。あの音には、ここの人達ですら慣れていないようだ。


「何をしている! さっさとレバーを握れ!」


 その中でも元気なのは、この人くらいのものだ。ウォーレン大尉は、あの不快音よりも大きな声で怒鳴りつけてくる。私は慌てて持ち場に戻る。


 砲撃は続く。砲撃の度に、核融合炉のエネルギーゲージが下がる。だが、コツというか、何というか、あの伝導回路の癖が分かってきた。伝導回路がエネルギーを吸収する直前にギリギリまでエネルギーの流出を絞り込めば、伝導回路がエネルギーを要求する時に、余裕を持って対処できる。

 砲撃の直後に一旦エネルギーの出力を下げて、要求が来た時瞬間に目一杯レバーを引くという操作を、いつのまにか私はこなしていた。時々、バリアが敵のビームを弾き返す時の不快音が響くが、不思議なことに、それも次第に慣れてくる。


『敵艦隊、後退していきます!』


 どうやら、戦さは終わったらしい。敵が逃げ始めたようだ。ああ、この不快な音と気難しい核融合炉のお守りもようやくおしまいだ。私は、胸を撫で下ろす。


 が、本当に大変なのは、これからだった。


『追撃戦に入る! 両舷半速!』


 艦長のこの指令を受けて、重力子エンジンが唸り始める。ギュオーンという唸り音が、この機関室内に響き渡る。

 だが、その直後だ。

 恐ろしい勢いで、核融合炉からエネルギーが減っていく。ちょっと待って、どうしてこんなに減るの!? 

 あの管だ。ただでさえ、重力子エンジンが核融合炉からエネルギーを奪い始めてるというのに、この伝導回路も、さっきまでのようにエネルギーを食い続けている。

 大食漢2人に挟まれて苦しくなったのか、核融合炉がヒィーンという悲鳴のような音を立てて震え始めた。私は、核融合炉が壊れるんじゃないかと怖くなってきた。


「おい! 出力が下がってきてるぞ! なんとかしろ!」


 なんとかって……私はレバーを引くしかないんですけど。しかも、すでに目一杯引いてますけど。が、このまま引きっぱなしだと、この核融合炉がどうにかなりそう。

 恐怖に震えながらも、私はただただレバーを引き続けた。ガタガタと震える核融合炉の前で、必死に耐え続けるしかない私。

 そんな時間が、30分も続く。追撃戦終了の放送が入ったときは、もうすっかり身体の力が抜けかかっていた。


「おい!」


 そんな私に追い討ちをかけるように、ウォーレン大尉が私に向かって叫んでくる。


「な、何でしょうか?」

「予備回路のスイッチが、入ってないぞ!」

「よ、予備回路……?」


 聞けば、この左機関は、砲撃用のエネルギーを一手に引き受けているため、重力子エンジンの出力が上がった時には、右機関からエネルギーの供給を受けることになってるらしい。それをするのが、この予備回路というやつだ。

 だが、そんなスイッチの存在を知らなかった私は、砲撃用のエネルギーと重力子エンジンのエネルギーを一手に引き受けっぱなしだったようだ。


 どうしてそういうことを、もっと早く教えてくれなかったのですか? 


 大尉からそのことを聞いた私は、それまでの疲れと緊張と、失意のようなものが重なり、その場で倒れてしまった……

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― 新着の感想 ―
[良い点] 七時間は生きていけるとは船外服すごいですね。 万一の場合、七時間は死の恐怖にさらされるわけか… 自害用の装備はあるのかな? [一言] 機関室って、戦況が全くわからないから余計に怖いですね。…
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