↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天気屋のお仕事~天気を売買する世界の物語~  作者: 相場 巴
第1部 第2章:天気屋の日常
PR
12/19

洗濯日和、予約済み③

 一仕事を終え、満足げに石畳を歩くめいと蔵。


 しかし、頭上を突如として不気味な暗雲が覆い、足元の石畳に大粒の雨がぽつぽつと落ちてきた。


「あれっ……? 空が急に暗く……!?」

「青嵐堂の広域高気圧の端に、気圧の乱れが出たのか……? まずい、ここに雨雲が流れ込んでくるぞ!」


 二人が走り出すと、すぐにザバァァァッ! 

 と叩きつけるような豪雨が降り始めた。


「こっちだ、めい! 軒下に入るぞ!」


 蔵は咄嗟にめいの手を取って引き寄せ、古いレンガ造りの建物の軒下へ駆け込んだ。

 屋根の端から滝のように雨が流れ落ち、激しい雨音が街に響き渡る。


 その一方、軒下に並んで立つ二人の間には、雨音に包まれた静かな時間が流れていた。

 息を整えるめいの隣で、蔵は髪や肩についた水滴を払った。


「軒下に入れてよかった。しばらく雨宿りしましょう」

「まったく、他人の作った天気の尻拭いは面倒だな」


 めいは濡れた髪の先を指でつまみ、水滴を落とした。


「あはは、ちょっと濡れちゃった。でも、洗濯屋さんのシーツを干し終えた後で、本当によかった」

「……ああ……」


 走って火照った頬。首筋やまつげにきらめく水滴。


 無防備なめいの姿に、蔵は思わず息をのんだ。

 慌てて視線をそらしたものの、頬がほんのり赤くなっている。


 ---


 雨宿りを始めてしばらくすると、冷たい風が吹き込み、めいは寒そうに身を縮めた。


「くしゅんっ。ちょっと風が冷たくなってきたかも……」


 蔵はめいのくしゃみを聞くと、おもむろに自分のジャケットを脱ぎ、彼女の肩にかけた。


「これでも羽織っておけ」


 めいは、蔵のジャケットの襟元をぎゅっと握りしめた。


 風と革の匂いに包まれ、頬がぽかぽかと赤らむ。

 隣では蔵がそっぽを向き、腕を組んでいた。

 耳まで真っ赤なのは、冷たい雨風のせいだけではなさそうだった。


「勘違いすんなよ。アマギ屋の店長のお前が風邪をひいて寝込んだら、営業ができないだろう? 俺の給料が減るから、さ」

「うん。蔵の上着……すごく温かい」


 めいはジャケットに頬を寄せ、蔵の不器用な優しさを感じながら、嬉しそうに目を細めた。


「素直じゃないんだから。ありがとう、蔵」

「……ああ」


 照れくさそうに返事をする蔵を見て、めいは小さく笑った。


「早く雨が止まないかな」


 そうつぶやく蔵の横顔を、めいはそっと見上げた。

 雨音の響く軒下で、二人のぎこちなくも温かな時間が過ぎていった。


 ---

 やがて雨雲が流れ去り、空には美しい虹がアーチを描いた。


「雨が止んで、気温も上がったな。めい、俺の上着返せよ」

「ちゃんと工房で乾かしてからお返しします!」


 めいはジャケットを抱え、にこりと笑った。


 二人は足取りも軽やかにアマギ屋へ戻った。


 工房の暖炉のそばでは、濡れた蔵のジャケットが干されている。

 その横で蔵は、洗濯屋の店主から受け取った銀貨の山を満足げに積み上げていた。


「特急料金に撥水エプロン付きだ。文句なしの大成功だったな。これはめいの取り分な」

「ありがとう、蔵。成功してよかったわ」


 めいは銀貨を受け取り、ほっと胸をなで下ろした。


 本日の業務を帳簿に記録しようと、めいは作業台に古い『東街区微気流図』と総括府の公式路線図を広げた。


 二枚を見比べていためいは、ふとペン先を止める。


 古い地図には、今日使った路地の風の抜け道が細い線で記されていた。

 しかし、公式路線図にはその道が存在しない。


(あれ? おかしいわ。青嵐堂の高気圧を避けるように、巧妙に計算された風の通り道……。どうして総括府の地図には載っていないの? 一体、誰がこの道を記したのかしら……?)


 めいは古い地図をじっと見つめた。

「隠された大気の抜け道」の正体が気になりながらも、今日の業務を終えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。