晴天、返品不可 ①
ここは、エルグノア帝国。
天気を生産・保管・輸送・販売する技術が発達した世界。
「今日も統括府の晴天コードは定刻通りか。帝都には雲ひとつ寄りつかせねえってんだから、お上(統括府)の管理魔導ってのは大したもんだよな」
「おかげで傘の心配をせずに仕入れができるが……毎月の気象税が引かれるのは財布に痛えよ」
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「うん、この瓶の『雨』は粒がそろっていて最高!」
「メイ、のんきに鑑定してる場合かよ?今日の配達分が山積みだぞ」
カウンターの向こうには、配達を待つ瓶がずらりと並んでいる。
約100年前に「気象結晶」という物質が発見された。
それ以来、雨や晴天、風、霧などの『天気』を結晶に蓄え、瓶詰めして売買できるようになった。瓶を開ければ、蓄えられた天気を取り出して利用できるのだ。
そんな世界で私、天城めいは、気象結晶を瓶詰めした天気を売買する小さな天気屋「アマギ屋」の店長をしている。
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「だからさ、めい、今日の配達分が山積みだぞ!」
配達用の瓶を抱え、文句を言っているのは、「アマギ屋」で一緒に働く天気の運び屋、時雨蔵。ちょっと言葉がきついこともあるけれど、頼れる相棒だ。
「ねえ、蔵。この瓶に入っている『結晶』の瓶底に見たこともないような番号が刻まれてる」
蔵は荷物を下ろすと、カウンターに身を乗り出し、めいの持つ瓶を覗き込んだ。
「この瓶には『晴天』のラベルが貼ってあるな。瓶の底には確かに見覚えのない番号が刻まれている。あと、中身が妙に重い。変な混ざりものでも入っているのか?」
蔵は瓶を持ち上げ、光を受けて輝く結晶をじっと見つめた。確かに、いつもの『晴天』とは何かが違う。
一方、めいは帳簿を見つめていた。
記載された番号を確かめていくと、通常の流通番号とは異なる特殊な刻印を発見した。
「この瓶の底に刻まれている番号、通常の流通番号じゃないみたい。特殊な刻印番号ね。こういうものは大抵、大きな天気屋に納品されるから、うちみたいな小さな天気屋には入ってこないの。こんなの、初めて見た」
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めいと蔵が物珍しそうに瓶を眺めていると、突然、店先の鈴が鳴った。
「おーい! アマギ屋! さっき買った『晴天』を返品させてもらえないか?!」
原則として、天気屋から購入した『天気』は返品不可となっている。
そんな決まりを知っているはずの客からの、思いがけない申し出。
めいと蔵は驚き、店先へと顔を向けた。
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そこにいたのは、息を切らして駆け込んできた農家の客だった。
手にした瓶を、慌てた様子でカウンターに置いた。
「アマギ屋の嬢ちゃん、すまないな! 畑で使おうと買った『晴天』を開けようとしたら、黒いモヤが噴き出してきてよ! おっそろしいから返品したいんだ!」
「黒いモヤだって?」
蔵は瓶を受け取り、ラベルと封緘シールを確認した。シールは正規出荷品のものだ。ところが、瓶の底を覗き込んだ途端、その表情が曇った。
「おい、めい。瓶の底を見てみろ」
「これ『晴天』の結晶の下の方に、『雷雨結晶』が紛れ込んでいるわ。そんなもの、絶対に混ざるはずないのに」
「明日までに晴れないと、作物が全滅してしまうんだ。頼む、新しいものと交換してくれないか?」
農家の客は、切羽詰まった様子で二人に訴えた。
蔵は客の瓶を見つめたあと、めいが調べていた瓶へと視線を移した。
「めい、さっきお前が見ていた例の瓶と同じ特殊な刻印番号が付いているぞ」
めいは二つの瓶を見比べた。
偶然なのだろうか。
「どういうことなのかしら……」




