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第62話 出来る人材は直ぐに欲しい

 そして、とうとう進水式になった。

 この時の為に「レッドリリィ」号が祝福に来てくれた。しかし、その後に「レッドリリィ」号はエンジンの換装作業に入る。

 単に祝福のためだけに来た訳ではない。

「宇宙ドック空気を抜きます。作業員は全員退避、全員退避」

 宇宙ドック内にアナウンスが響く。

「作業員、全員退避確認済。宇宙ドック内減圧開始」

 宇宙ドックから空気を抜く音がしたが、直ぐに音は無くなった。ある程度空気が無くなれば、音が伝わる事も無い。

「宇宙ドック内空気ゼロ。隔壁解放開始します」

 宇宙ドック内のランプが赤の点滅を繰り返すと、宇宙ドックの隔壁が徐々に開き出した。

 扉が完全に開き、宇宙ドック内のランプが赤の点滅がなくなり、前進可能の表示が赤から青に変わる。

 艦橋では俺が発声する。

「補助エンジン起動」

 艦橋内にあるモニターに補助エンジン起動の表示がされる。

「抜錨する。微速前進」

「アルテミス発進!」

 ジョンの声が少し震えているが、その声には自信が溢れている。

 アルテミスが徐々に発進していく。艦橋にはチャーリー博士やタシューさんを含め、この船の建造に関わった人が何人か乗艦しており、発進の様子を見ている。

 それ以外にもキャロットリーダーも居る。

「アルテミス、宇宙ドックを出ました」

「メインエンジン起動」

「メインエンジン起動、10秒前、5、4、3、2、1、起動」

「ウィーン」

 艦橋にメインエンジンが起動した微かな音が響くと、複数のモニターにメインエンジンが起動した事を示す表示が現れ、それに伴い全ての武器が使用可能になった事の表示も合わせて表示された。

 機関士の席にはチャーリー博士が座っている。

「『粒子融合反転リアクター』および『反転融合粒子加速ワープドライブ』異常無し」

「ワープ試験に入る。鑑定士ワープ座標を航海士に伝送」

「座標伝送」

「座標確認。ワープイン」

 戦艦アルテミスの外の景色が真っ暗になり、直ぐに明るくなった。

「戦艦アルテミス、帝都ワープエリア航空圏に出ました。100,000宇宙ノットで帝国宇宙港に向かいます。

 識別信号発信確認」

 識別信号を発信していないと不明艦として撃墜される可能性がある。

 そして、6時間後に宇宙港に到着した。

 ここでの目的は、戦艦アルテミスの帝国への登録と冒険者パーティの登録だ。

 戦艦アルテミスの登録は、帝国宇宙管制局にタシューさんと俺が行く必要がある。

 冒険者登録は、俺だけが冒険者ギルドに行く必要がある。

 帝国宇宙管制局での登録は簡単だ。設計図面と建造主、建造者を申請すれば良い。

 冒険者登録もパーティ登録をすれば良い。ただしパーティ名を登録しなければならない。

 パーティ名はあらかじめ決めていた母艦名の「アルテミス」にした。

 登録が完了したら再び宇宙ドックに引き返すが、その前に食料や水など資材を購入する必要がある。

 このため、管制塔に地上降下の許可を得ると管制官がびっくりしつつも地上港への着陸が許可された。

「これより『アルテミス』は地上港に降下する。降下開始」

「二重反転重力コイル降下モードに設定。アルテミス降下開始」

 帝国軌道上からアルテミスが降下し出した。

 地上がどんどん近づいて行く。雲の隙間から下に宇宙港が見えて来たと思ったら、アルテミスは無事地上港に着陸した。

 それを見た宇宙港の人々はびっくり仰天だ。宇宙船はその重量から地上に降下できないのが常識だったのに、ここに宇宙船が降りて来たのである。

 驚くなという方が無理な話だ。

 戦艦アルテミスは高さ1メル(1m)の高さに浮いている。これは「二重反転重力コイル」によって、空中に浮く事が出来るためだ。

 もっとも300メル(300m)級の宇宙船の重量があれば、車輪で車体を支えるのは無理である。

 俺はキャロル商会の「エイチェル・エーシー」を連れてキャロル商会に行く。そこで、必要な資材を整えるためだ。

 エイチェルはこの商会の従業員であった事から、その資機材の手配には色々と都合が良かった。

 2日後には全ての資機材の用意が整う事であった。エリーさんにも挨拶しようとかと思ったが、丁度不在だったため、秘書の方に訪問した事を告げてキャロル商会を後にした。

 アルテミスに戻ってしばらくした時だ。俺のアームデバイスにエリーさんから連絡が入った。どうやら、秘書の方が俺が訪れた事を伝えてくれたらしい。

「アルディさん、こちらに来られたという事を伺いました」

「はい、ご不在のようでしたので、秘書の方に伝言をお伝えし、今帰って来たところです」

「エイチェルの件については、本人とも話してみないと何とも言えません」

「はい? エイチェルさんが、どうかしました?」

「いえ、退職届が置いてありましたので」

「えっー? どういう事ですか?」

「どういう事って、こちらが聴きたいです」

「いえ、話が全く見えません。ちょっと、エイチェルさんに聴いてみます」

 俺はアームデバイスでエイチェルさんをリーダー室に呼んだ。

「エイチェルさん、退職届を出されたそうですが、その件でエリー会長が困惑しておられましたけど、話が分かるように話して貰えませんか?」

「私はキャロル商会を退職したいと思います」

「それについてはエリー会長が困惑しておりました。それで退職してどうするのですか?」

「戦艦アルテミスの通信士としてこの艦に乗りたいと思います。アルディさん、どうか許可して頂けませんか?」

「ええっー。でもどうして冒険者になろうと?」

 俺は驚くと同時に、その理由も知りたくなった。

「私は冒険者になりたかったのです。ですが、現実的な選択として会社に勤める事を選びました。

 ですが、戦艦アルテミスの建造に携わった事で、冒険者としてこの宇宙に出てみたいと強く思ったのです。

 幸い、私は通信士の資格を持っています。ぜひ、通信士としてアルテミスに乗せて下さい」

 確かに現在は、通信士の席は空席になっている。正直、エイチェルさんの申し出は有難いが、エリーさんにも一言断る必要がある。

「今から、キャロル商会に行きましょう」

 俺はアームデバイスでエリーさんに連絡を行い、会談の約束を申し出た。

 艦橋でエイチェルさんの事を話すと全員が行くと言う。チェルシーも行くと言ったが、コパイロットとして艦の面倒を見てくれと言ったら、素直に従ってくれた。

 最近、学習能力が向上したためか、俺の言う事を素直に聴くようになっている。

 キャロル商会の会長室に行くと秘書の女性が案内してくれた。

 俺達はエリー会長と向かい合って席に着席する。

「エイチェルさんの事ですが、彼女に事情を聴いたところ、戦艦アルテミスの通信士として乗艦したいとの事で、そのために御社を退職したいとの希望です」

「それについては、エイチェルの退職届にも書いてありました。ですが、私としては、このまま我が社で経験を積んで貰い、将来は重役になって貰いたいと思っています」

 エリー会長の話を聴いていたエイチェルさんが、自分の気持ちを話し出す。

「会長のご配慮は有難いのですが、正直この宇宙に出てみたいと思っていました。そして、この戦艦アルテミスの建造に携わって、この艦なら私の夢を叶えられるのではないかと思ったのです」

「エイチェル、このままキャロル商会に残るという選択はないのかね?」

「ありません」

「そこまで、きっぱり言われるとはな」

「私だって正直、悩んだのです。このままキャロル商会に居れば将来は安泰でしょう。ですが、そのままで良いかという別の心がざわつかせるのです。

 この気持ちは、もう我慢ができない程なのです」

「私も正直な話、現在キャロル商会の会長という立場でなかったら、アルテミスに乗ってみたいという気持ちはある。

 だから、エイチェルの言う事は非常に良く分かるのだ。だが、私にはキャロル商会従業員の生活を放り出して、アルテミスに乗る事はできない。

 だから、エイチェル私の代わりにアルテミスに乗ってくれ」

「会長・・・」

「アルディさん、と、いう訳でエイチェルをアルテミスに乗せて貰えるだろうか?」

「そう言う事であればこちらとしても有難いです。丁度、通信士がいなかったので助かります」

「会長!」

 今まで、エリー会長の隣に立っていた秘書の女性がエリーさんに言う。

「何だね、ケリー君。失礼、まだ紹介してなかったね。こちらは秘書の『ケリー・ハーバー』だ」

「お話の途中で失礼します。アルディさんの戦艦アルテミスには、今回のような資機材の手配、貴族惑星との交渉、離発着の許認可などの手続きに交渉人が不在なのでは、と思いまして」

「確かに、ケリーさんの言う通りですが、まだそこまで対応出来ていません。今のところは俺が自ら当たろうと思っています」

 ケリーさんの意見は最もだが人手不足なので、まだそこまで配慮できる段階ではない。

「そう思いました。実はそれに秀でた人物が居るのですが、採用になりますか?」

「それは是非、採用したいと思います」

「と、言う事で会長、私も退職させて頂きます」

「な、何? ケリー君、君も退職して、アルテミスに乗るというのかね?」

「アルディさん、私もよろしくお願いします」

「い、いや、さすがにそれはエリー会長が許さないんじゃ・・・」

「ええい、もう二人共好きにすれば良い。だが、アルディさん、私にも条件がある。

 一つ目は二人がキャロル商会に戻りたいと言ったら、それを優先する事。二つ目はアルテミスの資機材は我がキャロル商会から購入する事。我々はアルディさんのご要望に応じて、いかなる資機材をも手配する予定です」

 さすが商人。このような場合も商売の事を優先するか。

「その条件を拝承しました。アルテミスの資機材調達はエリーさんにお願いします」


 キャロル商会を後にした俺は、エイチェルさんとケリーさんを冒険者ギルドに連れて行って冒険者登録を行った。

 アルテミスに戻ったら、既に大型エアロコンテナが資機材を運び込んでいた。

 さすが、エリーさんの手配は素早い。

 水タンクローリーも到着した。こちらもホースで水をアルテミスの水タンクに供給する。

 早速、エイチェルには通信士の席に座って貰う。ケリーさんにはコスモファイター。アトラスアクターそしてイカロスの艦載機の離発着を受け持って貰い、それが無い時は資機材の手配等の資材調達をやって貰う事にした。

 と、なると残るは機関士だけだ。艦橋を見渡しても機関士の席だけ決まっていない。

 するとチャーリー博士が俺の所に来た。

「アルディ、機関士の事だが、実は推薦したい人物が居る」

「チャーリー博士の推薦なら間違いないでしょう」

「では、呼ぶとしよう」

 チャーリー博士はアームデバイスで連絡を取っていたが、10分ぐらいすると若い男性が入って来た。

「紹介しよう。今回、私の片腕としてアルテミスの建造に携わった『ベリー・グッドマン』君だ」

「『ベリー・グッドマン』です。よろしくお願いします」

 「ベリー・グッドマン」って、何と良い名だ。これだけで、この艦の出来が分かるような気がして来た。

「俺は・・・」

「いえ、既に存じています。奥様方も含めて」

「そ、そうか。それで艦橋に居なかったけど、今までどこに?」

「エンジン室でワープ時とかの負荷状況を確認していました。艦橋からは分からない事もありますので」

「そ、そうか。では、冒険者登録を・・・」

「いえ、私は冒険者訓練校の航海士課程出身なので、既に冒険者登録は済ませています」

「それは助かる」

 もう一度冒険者ギルドに行かずに済む。


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