第40話 赤髪の女性戦士
帝都から離れて2週間もすれば、帝国の辺境地帯と言われる地域に入って来た。
名前を「カイマー海峡」と名付けられている。
この海峡は多くの恒星が集まり、中には中性子星や赤色矮星もあって、それに伴いガンマ線バーストや電子流れが多く発生するとともに、ワープで越えようとしても重力異常が発生するため、ワープ航行が出来ない地帯である。
もちろん迂回する手はあるが、カイマー海峡を通ると1週間で済むところが、この海峡を避け大回りすると5か月位かかる事から、カイマー海峡の航路を取る商船は多い。
前世で言うと、マラッカ海峡やホルムズ海峡のようなものだと考えれば良い。
だが、そんな場所だと船の航路が読まれ易いので、海賊の格好の餌食となる場所でもある。
そして、お約束通り海峡の出口で5艦の海賊船に行く手を阻まれた。
「停戦せよ。停戦せよ。無駄な抵抗は諦めよ」
艦橋に海賊からの無線通信が入る。
「ベッチ艦長、どうしますか? ワープで逃げますか?」
俺が艦長に戦うか逃げるか尋ねる。
「アルディさんの意見は?」
「4つの案が考えられます。
まず、一つ目は海賊の言う事を聴く事。しかしこれは、物資を取られるだけでなく、女性は奴隷に売られ、男は皆殺しされる可能性もあります。
二つ目はワープで逃げる方法。この場合、この船は1000光年ワープ出来ますが、その先で6時間のエネルギー補充時間が必要になります。
対する海賊船は、300メル(300m)級のため、300光年しかワープできませんが、エネルギー補充時間は2時間で済みます。つまり、1000光年先に先に行ったとしても、後から海賊船に追いつかれてしまいます。
それに、1000光年先に仲間を待機させておかない訳がないでしょう。エネルギーが切れた船ではどうにもならないし、こちらには「レッドリリィ」がいます。彼女達は300光年しかワープ出来ませんので、見捨てる訳にいきません。
三つ目は再び「カイマー海峡」に逃げ込む方法です。しかし、図体の大きいこの商船では狭い海峡を高速で移動するには無理があります。捕まるのは時間の問題です。
そして、四つ目は戦う事ですが、相手は5艦、こちらは護衛の「レッドリリィ」1艦です。戦力としてはとても対抗できないでしょう」
「アルディさんの言う通りだ。私もその4つの案しかないと思う。それでアルディさんはその4つのうち、どれを選択するのが良いと思いますか?」
「ワープで逃げましょう」
「ですが、ワープで逃げても追いつかれると言ったのはアルディさんですよ。『レッドリリィ』も見捨てるのですか?」
「いえ、見捨てません。良いですか。これからは私の指示に従って下さい。『レッドリリィ』の操縦はまだカップリングされていますか?」
「まだ、カップリングされています」
「ですと、『レッドリリィ』の操縦もこちらに同期していると言う事で、こちらの操縦で『レッドリリィ』も同じように操縦できますね」
「その通りです」
「では、これからは私が指示しますので、その通りに動いて下さい。艦長、よろしいでしょうか?」
「分かった指揮系統を移譲しよう。ユーハブコントロール」
「アイハブコントロール」
「通信を通常回線で『レッドリリィ』に伝達」
「つ、通常回線ですか? それだと海賊にも筒抜けですが」
「海賊に知らせる為に通信するんです」
「分かりました。通常回線開きます」
回線が開いた。
「こちらは商船『フォルテウス』艦橋。これよりワープにて逃走する。『レッドリリィ』の操縦はこちらで行う」
「な、何を言っている。こちらは300光年しかワープ出来ないぞ」
「それで十分です。議論している場合ではない。直ちにワープに移る。ワープ」
船がワープインしたが、直ぐにワープアウトした。
「ここは?」
「ぐずぐすするな。直ちにエネルギー補充を開始する」
「は、はい」
「アルディさんどういう事だ。どうして海賊船はいないのだ」
「我々がワープしたのは50光年だけです。50光年だけだと、レーダーでも発見する事はできません」
「しかし、ここより先に進んでもいつかは捕まるが」
「なので、やや右側の方に今度は300光年ワープします。それを3回ほど繰り替えした後、従来の航路に戻ります」
「な、成る程」
俺のこの案を「紅い百合」のリーダーキャロットにしたところ、「そんな方法で逃げるなんて」と感心された。
「では見つからない内に、さっさとワープしましょう」
「エネルギーは既に充填済です。ワープ開始します」
「ワープイン」
俺達は航路よりやや右側の300光年先にワープした。
300光年のワープを行うと2時間のエネルギー充填時間が必要になる。フォルテウス号は3分の1の消費だけで済んているので、ここで充填すると満タンになる。
そして、このエネルギー充填の時間にキャロットさんがスペースコミューターでフォルテウス号に来た。
「アルディさんとやら、あなたは凄く頭が回るな。関心したよ」
「いえ、本番はこれからです。このまま逃げても良いですが、相手の戦力を削っておきたいと思います。
恐らく相手はワープで逃げる事を想定して300光年先と1000光年先に別艦隊を配置していたハズです」
「うむ、そうだろうな。そうじゃなきゃワープで逃げられるだけだからな。海賊共も頭が無い訳ではないから、それぐらいやるだろう」
キャロットさんが同意して言う。
「と、するとキャロットさん300光年先と1000光年先には、どのくらいの艦隊が配置されていると思いますか?」
「そ、それは行ってみないと分からないだろう」
「いえ、そんな事はありません。我々の前に5艦来ました。と、言う事はワープ先にも同じくらいの艦船が待機していると見るべきです」
「そうか、ワープする先が分かっているなら、艦船を集中して配置すれば良いが、ワープ先が分からないから2分するしかないと言う訳だな」
「その通りです。そして、もし戦闘になった時も考慮すると3分化したと考えて良いでしょう」
「ふむふむ。それで5艦ずつだとして、どうやって相手をするんだ?」
「まず優秀な鑑定士が必要です。そしてこの航路に詳しい方」
「この航路は何度も行き来しているので私が詳しいだろう」
ベッチ艦長が名乗りを上げた。
「では艦長、1000光年先のワープアウト地点はどこになりますか?」
艦橋ディスプレイにワープ先の航路図と地点地図が表示された。
「大体、ここにワープアウトする。と、言うのもこの海域には氷山があるから、それを避ける意味で平穏なこの海域がワープアウトし易い」
「氷山ですか?」
宇宙に氷山というとおかしいかも知れないが、本当の氷山ではない。恒星系に所属していた惑星が、巨大隕石の衝突で弾き飛ばされ、恒星系の外で漂うようになった星だ。
岩石惑星でない場合、窒素でもメタンでも水でも気温が低いためすべてが氷となり、一見すると氷の惑星のようになる。
これが目で見ると氷山のように見える事から宇宙を航海する者はいつしか氷山と呼ぶようになった。
「分かりました。では、氷山の裏やや右側にワープアウト地点を設定しましょう。直ぐに鑑定士にその座標計算をさせて下さい」
「何故、氷山の裏側にワープアウトするんだ?」
キャロットリーダーの疑問は最もだ。
「奇襲するのはワープアウトを狙うのが一番です。ワープアウトしてくる船は無抵抗ですからね。
だとすると、ワープアウトして来る船を狙い易い位置が最適です。しかも、後ろに氷山があれは、後ろからの攻撃を意識しなくて良い」
「なるほど、そこで右後方にワープアウトして後ろから攻撃すると」
「その通りです」
「そうなると、『レッドリリィ』が攻撃する事になるから、アルディ殿は『レッドリリィ』に乗船して攻撃の指示を出してくれないか」
「分かりました。もしかしたらアトラスアクターでの戦闘が有るかもしれませんから、アトラスアクターも持って行きたいと思いますが、良いでしょうか?」
「うむ、許可しよう。それでは、私は『レッドリリィ』に移動して格納庫ハッチを開けておくからアトラスアクターで着艦してくれ」
キャロットリーダーはスペースコミューターで「レッドリリィ」に帰って行った。
その後ろを追うように俺と嫁2人は各自のアトラスアクターに乗って、「レッドリリィ」の格納庫に入った。
レッドリリィの格納庫では冒険者パーティ「紅い百合」のメンバーが出迎えてくれ、艦橋まで案内してくれる。
迎えに来たクルーが聴く。
「変わった機体ですね」
「カスタムになっています」
「プロテクションスーツは脱ぎますか?」
「いえ、お気遣い無く」
我々が着用しているのはプロテクションスーツではなく、パワードスーツであり、着脱用のプロテクションBOXという装置が必要ではない。
しかし、空気が加圧されている空間に来たため、パワードスーツは脱ぐ。
「「「アクセプトアウト」」」
すると、パワードスーツが脱げて行く。それを見た冒険者パーティ「紅い百合」のメンバーは驚いている。
「プロテクションスーツはプロテクトBOXでないと脱げないのでは?」
「これは、カスタマイズしたもので『パワードスーツ』と言います」




