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第1話 お約束のように転生します

 日本人で平凡な男性として生まれた俺は、最後に病院の一室で、その生涯を閉じた。

 俺の一生は、それこそ平凡を絵に描いたような一生であり、どちらかというと貧しい家庭に生まれたが、父母のお陰で工業高校を卒業し、機械関係の製造会社に就職した。

 そして、同じ会社で総務に入って来た女性を妻とし、これも平凡に生活を営み、子供にも恵まれた。

 仕事はこれと言って注目される事も無かったが、かと言って不手際も無かったので、会社での評判も普通だった。

 そして、会社を定年となり子供達はそれぞれ独立し、子供達も平凡な生活を送っている。

 定年後は年金暮らしとなり、俺の一生は日本人の男性の平均年齢である80歳で幕を引こうとしている。

「死んだら天国に行くのか、それとも地獄に行くのか? 三途の川って本当にあるのか? 閻魔様に舌を抜かれるような事はしてないだろうか? そんな事を考えてしまうが、俺の思考の中にあったのは、本当に転生ってあるのだろうか? だった。

 もし、転生出来たら、やはりヒーローになれる魔法使いなんて良いなって、考えていた。

 そんな脳内活性運動も、そろそろ終わりになりそうだ。病室の白い壁が、今ではもう暗くなってきている。

 なんだか、とても眠い。身体も動かない。でも、息は苦しくない。ああ、身体が軽くなった。

「ご臨終です」

 医者の感情の無い声が病室に響き渡る。だが、その言葉は自分の耳で聴き取る事は出来なかった。


 俺の意識がはっきりとしたのは、最後の病室の白い天井を見てから、そう時間は経過していなかっただろう。

 目を開くと同じような白い天井がある。

 あれっ? 確か俺は死んだんじゃなかっただろうか?

 首を動かすと、どうにか首が動いた。そしてその目で見た場所は病室ではなく、無機質な部屋の中だった。

 無機質と言う点では病室と似ているかもしれないが、置いてある什器が俺の覚えているようなものではない。

 その時、部屋のドアが開く音がして、誰か入ってきたようだ。

「アルディ、気が付いたの?」

 女性の声だった。

 日本語ではないが、不思議と言葉は理解できた。しかし、言葉を発する事は出来ない。

「う、ううっ」

「まだ、声が出ないようね。無理もないわ、エアロパイロットから落ちたんですもの」

 女性の言葉から俺の認識できない単語が出ている。

 エアロパイロットって何だ?

「ちょっと待っててね。今、お父さん達を呼んで来るから」

 そう言うと女性は部屋から出て行ったが、直ぐに男性を連れて帰ってきた。

「アルディ、気が付いたか? 心配したんだぞ」

 恰幅の良い男性が言うが、先程からの流れでこの男性は俺の父親らしい。すると、先程の女性は母親だろうか?

「そうよ、私だって心配したんだから。ちゃんと人の言う事を聴かないとダメよ」

 今度は若い女性の声がする。この女性は家族だろうか。もしそうなら、姉になるのかそれとも妹だろうか?

「そうだぞ、姉さんの言う通りだ。いきなり俺のエアロパイロットに乗って動かすから怪我するんだ。

 今度は若い男性の声だ。

 すると先程の声は姉になって、この男性はその姉の弟であり、俺は更にその下の年齢と言う事なのか?

「ああっ、ううっ」

 声を出そうとするが、声が出ない。

「アルディ、無理するな」

 父親が言うと他の家族も同意し、俺はベッドに寝かされ、そのまま眠りに落ちて行った。


 再び気が付いた時、今度は自分の身体は前に意識が戻った時より軽かった。

 身体を起してみると身体の節々に軽い痛みはあるものの、身体は動く。

「ここは一体・・・?」

 今度は首を回してみるが、以前目が覚めた時と同じように見慣れない家具、家電のようなものがある。

 そして、左手にはスマートフォンを腕輪にしたようなデバイスがあるが、それは自分が使っていたスマートフォンとは明らかに違うデバイスだ。

 俺はスマートフォンと同じように右手の指でその黒い画面をなぞってみる。

「ご用件は何でしょうか?」

 いきなりスマートフォンから音声が出た。形は違うが、やはりスマートフォンだろう。どうやら音声認識に対応しているようである。

「えーと、僕は誰?」

 恐る恐る聴いてみる。

「あなたは『アルディ・モーディスター』です」

「アルディ・モーディスター」それが俺の名前らしい。そう言えば、母親や父親も俺の事を「アルディ」と呼んでいた事を思い出した。

 すると、俺は前の世界で死んで、どうやら転生したようだ。ライトノベルの世界が実際にあったようでびっくりはしたが、取り乱すほどでもない。

 こういう時は、現状の把握をしておくべきだろう。

 俺はアプリにある鏡の機能を探し出そうとしたが、そのアプリが見当たらない。

「鏡の機能はないなぁ」

 独り言のように呟くと、画面に見たことのない顔が映し出された。

 その顔は日本人の顔ではなく、白人の幼い男児の顔だった。

「えっ?」

 俺が顔を動かすと、画面の顔も同じように動く。どうやらこの顔が今の自分の顔のようだ。

 そうなると、現状を知る事が重要だ。

「俺の現在の状況を教えてくれ」

 俺はスマートフォンに語り掛けると、自分の事が分かって来た。

 俺の名前は「アルディ・モーディスター」と言い、12歳の男性だ。

 ここ「ヘーデルランド」という国の農家の次男であるらしい。父と母、それにモニカという姉とクワイデルという兄がいると言う事が分かった。

 そして、俺は兄のエアロパイロットにいたずらで乗ったところ、そのエアロパイロットを急発進させ、振り落とされたらしい。

 その時、頭を強く打って医療センターに運びこまれ、3日間意識が戻らなかったと言う事がスマートフォンからの回答で得た。

「と、言う事はここは病院か?」

「いえ、治療は2時間で終わり、その後自宅に戻りましたので、ここは自宅の部屋になります」

 スマートフォンから答えが返って来る。

「それで、今は西暦何年なんだい?」

「西暦は分かりませんが、現在はペテルメギウス帝国歴846年です」

 はっ、ペテルメギウス帝国歴? 何だそれは?

「いやいや、ペテルメギウス帝国歴って何だよ」

「初代皇帝、エリザベス・フォン・ぺテルメギウスが建国を宣言された年を1年とカウントしてから846年目となり、公式に用いられてる暦年となります」

 どうやら、ここはペテルメギウスという国らしい。と、言う事は俺はそのペテルメギウスの国民と言う事か。

「俺はペテルメギウスの国民と言う事だな」

「いいえ、『ヘーデルランド』男爵様の領民となります」

 男爵と言う事は貴族と言う事か。すると俺は貴族の領地の領民と言う事か。するとヘーデルランド男爵とペテルメギウス帝国の関係はどうなっているんだろう。

「そのペテルメギウス帝国とヘーデルランド男爵家について詳しく教えてくれ」

 すると驚くべき答えが返って来た。

 ペテルメギウス帝国はペテルメギウス銀河団に存在する銀河帝国であり、ヘーデルランド男爵領はその中にあるヘーデルランド恒星系を成す恒星系帝国と言う事だ。

 ヘーデルランドはその中の第4惑星で重力は1Gが9.8m/s、大気は酸素が21%、窒素が79%であり、直径は12,000キル(12,000km)あり、陸地と海から成り、陸地が約3割、海が約7割と言う事だった。

 これは俺の居た地球とほぼ同じだ。

 そう言えば、知らない単語もあったっけ。

「エアロパイロットって、何だ?」

 スマートアォンからは同じように質問の回答が出て来た。それによると「エアロパイロット」とは人が乗車して動く移動装置らしい。

 画像もあったが、二次元に表示されるのではなく、フォログラムで三次元に立体表示され、上下左右に動かして見る事が出来る。

 エアロという名が表す通り、地上約1mの高さに浮いて移動するようだ。

「エアロバイクのようなものか?」

「いえ、エアロバイクは別にあります。エアロパイロットは別のものです」

 エアロパイロットの速度は最高秒速5m/sで、これは言わば自転車と同じくらいの速度らしい。

 そして、このエアロパイロットはエアロバイクやエアロビークルにそのままドッキングさせることで、エアロバイクやエアロビークルを操縦する事が出来るようになるということだ。

 つまり、昔のアニメにあったマジンガーZのようにエアロパイロットがパイルダーでエアロバイクがマジンガーZであり、パイルダーとマジンガーZがドッキングすることで動くようになるものと同じだと思って良い。

 ただ、パイルダーとマジンガーZは1:1で対応していたが、エアロパイロットは1:多で対応する。

 エアロパイロットはエアロバイクやエアロビークルだけでなく、農作業用の機械であるアグリコンバインや工事用の重機であるコンストバインというものにも対応するらしい。

 逆に言えば人が乗って操縦する物は、このエアロパイロットが無ければ何も動かすことが出来ない。

 そう言えば俺は12歳ということだが、12歳と言えばやんちゃ盛りの頃だ。兄貴の持っている物を欲しがる事も頷けよう。

 俺は前世の記憶の隅にあった少年の時代を懐かしく思い出した。


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