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落語家の目指すモノ  作者: するめ
第二章 
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二章2 [声の張れない高座]

楽屋働は忙しいものでさっきまでいた人がいつの間にか帰ってしまっている。

さっきまで高座に上がっていた人がいつの間にか楽屋に戻っている。


そんな風に感じるほど忙しく、それでいて学びも沢山ある。

学びと言っても、少し余裕があるときに聞き耳を立てて高座を聞いたり、世間話の中で師匠たちの好みが分かるなどの小さく感じるが、大きな学びだ。


師匠たちの好みが分かると仲良くなれて、噺を教われたり、独演会や勉強会のお声がかかったりする。

楽屋はネタの宝庫でもあり、コミュニケーションを図る社交の場でもある。


忙しくてそれどころじゃない、と思っていたが丁度仕事が落ち着いたので高座を聞くと【寿限無】をやっていた。


【寿限無】は、ある家に子どもが産まれ縁起のいい名前を付けようとするが、それが思いつかずお寺の住職につけてもらうことに、住職に縁起のいい名前を沢山教えてもらい家に帰ってどれにするか考えていると、せっかくなので全部つけてしまうことに、そして決まった名前が、


「寿限無寿限無五劫の擦り切れ海砂利水魚の水行末、雲来末、風来末食う寝るところに住むところやぶらこうじのぶらこうじパイポパイポパイポのシューリンガンシューリンガンのグーリンダイグーリンダイのポンポコピーのポンポコナーの長久命の長助、やぁい泣き止んでおくれ」


子どもをあやすそぶりと口調。

落語を聞いていた俺の頭に強い衝撃が走った。


「テメェ仕事もせずに聞いてんじゃねぇ」


その声の主は桐丸兄さんであった。

確かにボーッとしていたが殴る必要は無いだろう!


そんなことは口が裂けても言える訳はない。

そのゲンコツの後からは仕事をしながら落語を聞くことにした。

そして師匠の噺をまた聞き始める。


「名前のせいか、病気も怪我もなくすくすくと育ちました」


左手でノックを右の手の扇子で床を叩く。


「寿限無寿限無五劫の擦り切れ海砂利水魚の水行末、雲来末、風来末食う寝るところに住むところやぶらこうじのぶらこうじパイポパイポパイポのシューリンガンシューリンガンのグーリンダイグーリンダイのポンポコピーのポンポコナーの長久命の長助君、学校行くよ」


子どもの辿々(たどたど)しい口調。


「金ちゃんごめんね、うちの寿限無寿限無五劫の擦り切れ海砂利水魚の水行末、雲来末、風来末食う寝るところに住むところやぶらこうじのぶらこうじパイポパイポパイポのシューリンガンシューリンガンのグーリンダイグーリンダイのポンポコピーのポンポコナーの長久命の長助はまだ寝てるの、ちょっと待ってて起こしてくるから」


「ほら、寿限無寿限無五劫の擦り切れ海砂利水魚の水行末、雲来末、風来末食う寝るところに住むところやぶらこうじのぶらこうじパイポパイポパイポのシューリンガンシューリンガンのグーリンダイグーリンダイのポンポコピーのポンポコナーの長久命の長助、金ちゃんが迎えに来たわよ」


「ちょっと、寿限無寿限無五劫の擦り切れ海砂利水魚の水行末、雲来末、風来末食う寝るところに住むところやぶらこうじのぶらこうじパイポパイポパイポのシューリンガンシューリンガンのグーリンダイグーリンダイのポンポコピーのポンポコナーの長久命の長助が起きないのよ、あんた起こして」


「なにぃ!寿限無寿限無五劫の擦り切れ海砂利水魚の水行末、雲来末、風来末食う寝るところに住むところやぶらこうじのぶらこうじパイポパイポパイポのシューリンガンシューリンガンのグーリンダイグーリンダイのポンポコピーのポンポコナーの長久命の長助がまだ寝てるだと、俺に任せとけ」


「おいじゅげ、ゴホォッ…これは失礼」


声を張り父親が起こす場面で咳が出てしまったようだ。


「ごい、寿限無寿限無五劫の擦じ切れ海砂利水魚の水行末、雲来末、風来末食う寝るどごろに住むどごろやぶらこうじのぶらこごうじバイボバイボのシューリンガンシューリンガンのグーリンダイグーリンダイのボンボゴピーのボンボゴナーの長久命の長助、起ぎろ」


先程の大声で喉が潰れたようだが、それでも無理をして続けている。


「おじさん、あんまり遅いがら夏休みになぢゃった」


この声では、子どもというよりオタクだな。

そんな事を思っていると噺を切り上げてしまった。


この師匠の持ち時間は最低でも15分ほどはあるのに10分程度で切り上げて帰って来た。

それも仕方がないだろうと思うほどに声が出ていなかった。

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