捜査と賭博と激突――7
現れるヘルブレアのメンバーを斬り伏せながら、教会の地下を奥へ奥へと進む。
しばらく走っていると大広間にたどり着いた。
目測で一〇〇メトロ×五〇メトロ×一〇メトロほどの、長方形の空間。おそらくは地下墓地だろう。
「やつらも面倒な相手を連れてきたものダ」
地下墓地の中央にたひとりの男が、溜息とともにぼやく。
存在感の濃い男だ。
推定四〇歳前後。
体つきは中肉中背で、灰色の髪をオールバックにしている。
紺色の双眸は猛禽ほど鋭い。
まとうのは黒一色のスーツ。腰には魔銃のホルスターと魔剣の鞘がつるされていた。
「お前がヘルブレアの頭か」
「いかにモ。ディーン=カリオスといウ」
「俺たちは総力を挙げてお前たちを潰しにきた。悪いことは言わん。投降しろ、ディーン」
「そういうわけにはいかン。喧嘩を買わずに逃げおおせたところで、恥を晒すだけだからナ」
「それに」とディーンが続ける。
「こちらには切り札があル」
ディーンの言葉とともに、地下墓地の奥からひとりの男がやってきた。ホワイトガードから脱走した、男のうちのひとりだ。
俺の隣にいるセシリアが絶句する。
無理もない。男の右腕には大砲が装着されているうえ、さながらゾンビのごとく、うつろな目でうめいていたのだから。
「あの大砲は『バンパー・アンデッド』という代物ダ。威力は申し分ないのだが、装着した者の意識が乗っ取られるのが玉に瑕でナ」
「そんな危険な代物を仲間に装着させたんですか!?」
「自警団などに捕らえられる役立たずダ。俺は無能は好かン」
ディーンに悪びれる様子は一切ない。
セシリアが、「ひどい……」と口元を覆った。
意識を乗っ取る兵器。尋常ならざる代物だ。
十中八九、あの大砲こそが、ヴァリスがこの街に送った顕魔兵装だろう。
「おしゃべりはここまでダ。俺は少々気が立っていル。俺の城を荒らしたお前たちには、むごたらしく死んでもらおウ」
ディーンが魔銃を抜き、バンパー・アンデッドに乗っ取られた男が砲口をこちらに向ける。
応戦すべく、俺とセシリアはそれぞれ、刀と魔剣を抜き、構えた。
ディーンが冷たく言い放つ。
「ちょうどよかったナ。ここは地下墓地。寝床には困らン」
バンパー・アンデッドの砲口から、青白い光弾が放たれた。
光弾が俺目がけて迫り来る。
問題ない。
刀に魂力をまとわせ、魔法を打ち消す武技『破魔』で、俺は光弾を迎え撃った。
刀を振るう。
刃が閃く。
が、刃に切り裂かれる直前、光弾は蛇のかたちに変わり、弧を描くようにして回避した。
「むっ!」
青白い蛇が顎を開き、俺を食い殺さんとする。
即座に俺は疾風を用いて跳び退る。
攻撃は空振りに終わり、青白い蛇が食んだのは虚空だった。
それでも青白い蛇は止まらない。光の体をくねらせて、俺を追いかけてくる。
判断能力を持つ自律型の砲弾……召喚師系魔族の魔族核でも使っているのか?
推察する俺に、青白い蛇が再び牙を剥いた。
青白い蛇が俺に食らいつく。
「させません!」
寸前、俺をかばうように割り込んだセシリアが、セイバー・レイの腹で青白い蛇を防いだ。
「大丈夫ですか、イサム様!」
「ああ。助かった、セシリア」
「助かってなどおらんヨ」
ディーンが俺たちに魔銃の銃口を向ける。
「喜ぶには早すぎル。あれで終わりと思ったカ?」
ディーンの魔銃が火を噴いた。
撃ち出された赤い弾丸が飛来する。
赤い弾丸と俺のあいだにはセシリアがいる。これでは破魔で打ち消すのは不可能だ。
判断。
即、指示。
「回避だ、セシリア!」
「はい!」
俺とセシリアは左右に跳び、赤い弾丸を回避する。
寸前まで俺たちがいた場所を赤い弾丸が通過し、地下墓地の壁に直撃した。
轟音と炎光。
赤い弾丸が起こした爆発が、地下墓地を震撼させる。
凄まじい威力だ。おそらくディーンの魔銃には、炸裂魔法の魔法式が組み込まれているのだろう。
相手は遠距離武器の使い手。しかも連携してくる。一カ所に固まっていてはやられてしまう。
ならば、最善の戦い方は――
「二手に分かれよう、セシリア。俺はバンパー・アンデッドを叩く。ディーンはきみに任せた」
「わかりました!」
「いい返事だ」
力強い返答に俺は頬を緩める。
ディーンが眉をひそめた。
「いまのを凌ぐカ。やはり、お前たちはやっかいダ」




