捜査と賭博と激突――8
行く。
駆ける。
風を切る。
わたし――セシリア=デュラムは疾風を用い、ディーン=カリオスさんに猛スピードで迫っていた。
カリオスさんは強力な魔銃を使っているが、接近すれば、有利なのは魔剣士であるわたしだ。
だから、行く。
「させんヨ」
接近されたら不利なことをカリオスさんもわかっているのだろう。走り来るわたしに向けて魔銃を構えた。
回避!
引き金が絞られる寸前、直進していたわたしは左斜めに方向転換する。
赤い弾丸が放たれた。
わたしは怪訝を得る。
赤い弾丸の軌道が、斜め下に向いていたからだ。
ちょうど、方向転換前のわたしの、進路上に着弾する向き。
なにが狙いでしょう?
わたしが眉をひそめた直後、赤い弾丸が地面で炸裂した。
爆発が地面を粉砕し、爆風によって砂煙が舞い上がる。
わたしは察した。
目くらましですか!
カリオスさんは、わたしを迎撃するつもりなんてなかった。
カリオスさんの真の狙いは、砂煙を巻き起こしてわたしの視界を封じることだったのだ。
「く……っ」
砂煙にのみこまれ、わたしの視界が灰一色になる。
慌ててはいけません! 視界が封じられたのなら聴覚に頼ればいいんです!
思考を切り替えたわたしは、カリオスさんの次の手に備えるべく、まぶたを伏せた。
――終わりだ!!
ふと、苦い記憶が蘇る。
一ヶ月ほど前、わたしはイサム様とペアを組み、ケニー=ホークヴァン先輩と戦った。
その際、いまと同じような展開になった。ホークヴァン先輩はカリオスさんと同じく、砂煙でわたしの視界を封じてきたのだ。
あのとき、わたしもいまと同じく、視覚の代わりに聴覚を用いて対応しようとした。しかしホークヴァン先輩は、攻撃する方向とは真逆の位置で音を立てることで、わたしの裏をかいてきた。
もし、カリオスさんがホークヴァン先輩と同等以上の実力者だとしたら? ホークヴァン先輩同様、わたしの裏をかいてきたら?
聴覚に頼るのは悪手!
そう判断したわたしはまぶたを上げ、両目に魂力を集中させて審眼を発動させた。
同じ轍は踏みません! 砂煙の流れを観て、カリオスさんの攻撃に備えるんです!
神経を研ぎ澄まし、心を静め、わたしはただ、砂煙の流れを注視する。
砂煙が揺らめいた。
「――後ろ!」
即座にわたしは対応する。左サイドにステップを踏み、すぐにも来るだろう攻撃の、回避を試みる。
右肩に鋭い痛みが走った。
直前までわたしがいた場所を、カリオスさんが魔剣で薙いだのだ。
カリオスさんの斬撃を躱しきれず、わたしの右肩には裂傷が刻まれている。
けれど、まともに食らわなかっただけ御の字だ。聴覚に頼っていたら、いまごろ、わたしの命はなかった。
「浅かったカ」
わたしを仕留め損ねたことに苛立っているのだろう。カリオスさんが舌打ちする。
ズキズキと痛む、肩の傷。歯を食いしばってそれを意識の外にやり、わたしはカリオスさんに魔剣を振るった。
「はあっ!」
「食らわン」
カリオスさんがバックステップでわたしの剣戟を躱す。
終わらせない。
一歩踏み込み、手首を返し、わたしは二撃目を放った。
「思った以上にやるナ。ここは慎重に行くとしよウ」
カリオスさんが、魔銃をわたしの足下に向ける。
このまま踏み込んでは、赤い弾丸の爆発で大ダメージを食らってしまう。
悔しいが、追撃は諦めるほかにない。
斬撃をキャンセルし、わたしはその場から飛び退いた。
発砲。
着弾。
爆発。
再び砂煙が巻き起こり、わたしの視界が封じられた。
これでは堂々巡りですね……。
わたしは歯がみする。
カリオスさんの戦術はヒット・アンド・アウェイ。そこに、砂煙による妨害を組み込んだものだ。
砂煙を起こし、わたしの視界を封じ、気づかれないように接近して攻撃。のちに、わたしから距離をとり、再び砂煙を起こす。
加えて、足音も物音も一切しませんでした。おそらく、カリオスさんの魔剣には音魔法の魔法式が組み込まれていて、その効果で音を消しているのでしょう。
つまり、わたしはこれから延々と、カリオスさんの不意打ちを凌ぎ続けなければいけないということだ。
わたしには、ご先祖様である『聖女』マリー様から受け継いだ治癒能力『聖母の加護』があるため、負った傷は自動的に治癒される。実際に、先ほど受けた肩の裂傷も、すでに塞がっている。
しかし、命に関わるような傷は流石に治すことができない。一瞬でも油断したらお仕舞いだ。
それでも、わたしがカリオスさんを引きつけておけば、イサム様が戦いやすくなる。わたしが耐え凌ぐことが、イサム様のためになるのだ。
なら、わたしがやるべきことはひとつです。
ふぅ、と息をつき、わたしは決意した。
「望むところです。いくらでもかかってきてください。そう簡単にはやられませんよ」
長期戦になろうと、防戦一方になろうと、決して倒れてはやらない、と。




