捜査と賭博と激突――2
入場した俺たちは、軍資金をチップに交換してからカジノのなかを歩き回った。
カジノ内には、トランプゲームエリア、ダイスゲームエリアなど、計六つのエリアがあった。
一通りエリアを巡り、行われているゲームを確認し、最終的に俺たちが向かったのはダイスゲームエリアだ。
ダイスゲームエリアの一画で、俺は足を止めた。
「このゲームならいけそうだな」
そこで行われていたゲームは『チョウ・ハン』だ。
チョウ・ハンとは、ダイスの出目を予想するゲーム。
手順としては、まずディーラーが黒いカップに三つのダイスを投げ入れ、振る。
ディーラーがカップを逆さまに置いたら、ダイスの出目やその組み合わせを予想し、チップをかける。
予想が的中したら、それに応じた配当が支払われる――というものだ。
チョウ・ハンのテーブルで、壮年男性のディーラーがダイスを投げ入れ、カップを振っている。
俺はその様子をつぶさに眺めた。
テーブルにつかず、ただじっとゲームを眺めている俺の姿に、エミィが不思議そうに首をかしげる。
「イサムさん、なにをしているの?」
「いまは話しかけてはだめです、エミィさん」
セシリアが唇に人差し指を当て、エミィに沈黙を促した。
「イサム様は勝利の準備をしているのですから」
流石はセシリア。俺の狙いがわかっているな。
俺はディーラーから目を離さないまま、ふ、と口元を緩める。
セシリアの言葉の意味がわからないのか、エミィが逆向きに首をかしげた。
それから四〇分後。
「よし。把握した」
準備が完了し、俺はいよいよテーブルにつく。
ディーラーが、ちら、と俺に目をやり、ダイスをカップに投げ入れた。
カップがテーブルに置かれる。
テーブルにある三つの円盤。そのうちのひとつを操作して、俺は『四』の番号を表示させた。ダイスのうちのどれかが『四』になるという予想だ。
俺はチップをかけた。
どよめきが起こり、テーブルについていたプレイヤーたちが呆れたような笑みを見せる。
当然だろう。俺がかけたチップは、手持ちのすべてだったのだから。
「えっ? だ、大丈夫なの?」
「はい。問題ありません」
ギャラリーと同じくエミィも動揺するなか、ただひとり、セシリアだけは悠然と微笑んでいる。
ディーラーがカップを持ち上げた。
出目は『六』・『三』・『四』。すなわち的中。
再びどよめきが起きた。呆れていたプレイヤーたちが愕然と目を剥く。
配当として、かけたチップの倍が支払われた。これでまず、俺の手持ちは三倍だ。
ディーラーが次のゲームに移行する。
カップが置かれ、俺は『二』を表示させた。
的中。
三度目のゲームに移行する。
俺は『四』を表示させた。
的中。
俺が予想を的中させるたび、起こるどよめきは大きくなっていった。
この時点で、俺のチップは二七倍。
ディーラーが目つきを鋭くした。
ふむ。仕掛けるつもりだな。
ディーラーがカップを振り、テーブルに置く。
俺はそれまで触れていなかった残りふたつの円盤も操作して、『一』・『一』・『一』と表示させた。
ディーラーが瞠目する。
「どうした? 手が止まっているが」
涼しい顔で俺が指摘すると、ディーラーは震えながらカップを持ち上げた。
出目は『一』・『一』・『一』。
あたりが静まりかえった。
エミィがパクパクと口を開け閉めし、セシリアが誇らしげに胸を張っている。
俺のチップが一気に三〇倍以上に増えた。
なぜここまで予想を当てることができるのか? そのタネは、テーブルにつく前の四〇分にある。
あの四〇分のあいだ、俺は武技『審眼』を用いていたのだ。
審眼は、視力・動体視力・視野など、視覚に関するあやゆる能力を強化する武技。
高まった視覚能力をもって、俺はディーラーの動作を観察した。ダイスの投げ入れ方、カップの振り方、カップの置き方、その結果としての出目。
それらすべてを観察した俺には、カップ内のダイスの動きが手に取るようにわかる。だからこそ、予想を的中させられるのだ。
先のゲームでディーラーは俺を警戒し、ゾロ目――すなわち、数字ひとつ賭けでもっとも正解率が低い出目になるよう、カップ振りのテクニックでダイスを操作したようだが、相手が悪かったな。
ディーラーだけでなく、ギャラリーやプレイヤーまでもが青ざめるなか、俺はニッ、と口端を上げた。
「さあ、次のゲームと行こうではないか」




