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捜査と賭博と激突――1

 賭(か)け事(ごと)に必要な軍資金を集め終え、俺たちがゴールドラッシュを訪れたのは四日後の夕方だった。


 ゴールドラッシュの敷地は、ホークヴァン魔導学校のそれよりも遙(はる)かに広大だ。少なく見積もっても四倍はあるだろう。


 敷地内の建物は街中(まちなか)にあるものとは比較にならないほど高く、きらびやかな装飾がなされていた。さながら、胴元(どうもと)であるヘルブレアの、醜(みにく)い思惑(おもわく)をごまかしているかのように。


「ついに来ましたね」

「ちょっと緊張する」

「うむ。心してかからねばなるまい」


 俺の両隣にいるセシリアとエミィが、硬い面持(おもも)ちで頷(うなず)いた。


 俺たちの衣服は普段のものとは異なっている。


 俺は黒いタキシード。


 セシリアはシャンパンゴールドのドレス。


 エミィはアイスシルバーのドレスだ。


 二〇〇年前の世界でもそうだったが、上等な場所にはそれ相応(そうおう)の服装が必要となる。現代で『ドレスコード』と呼ばれているものだ。


 ふたりのドレスはそれぞれに非常に似合っており、セシリアは姫、エミィは妖精のようだった。囮捜査(おとりそうさ)などという物騒(ぶっそう)な状況で拝(おが)めたことが皮肉(ひにく)ではあるが。


「それにしても、やはり心許(こころもと)ないです」

「うん。魔導兵装、持ち込めないから」


 セシリアとエミィが眉を下げ、小さく溜息(ためいき)をつく。


 セシリアとエミィの言葉通り、ふたりは魔導兵装を携(たずさ)えていない。俺も愛用の刀を置いてきていた。


 仕方(しかた)ないことだ。カジノ内に武器を持ち込めば、即刻(そっこく)追い出されるだろうからな。


 だが、なんら問題はない。


 ふたりには俺がついているのだから。


「心配はいらぬ。たとえ無手(むて)であろうと、たとえどれだけの凶事(きょうじ)に見舞(みま)われようと、セシリアとエミィは俺が守り抜く」


 俺が決然(けつぜん)と告げると、セシリアとエミィの顔からこわばりがとれた。


「ありがとうございます。けど、いざ戦うとなったらわたしもお手伝いします。わたしはイサム様の弟子ですから」

「ああ。頼りにしているぞ」


 俺が微笑(ほほえ)みかけると、セシリアが両手を胸元で握りながら「はい!」と笑い返してきた。


 よい弟子に巡(めぐ)り会えた。俺は幸せ者だな。


「さて。では、そろそろ参(まい)るとしようか」


 俺はカジノの入り口を目指して歩き出す。


 セシリアも俺のあとをついて歩(ほ)を踏む。


「イサムさん、セシリアさん」


 そんななか、立ち止まったままのエミィが不意(ふい)に呼びかけてきた。


 俺たちが振り返ると、エミィは深々(ふかぶか)と頭を下げる。


「まずは謝らせてほしい。ごめんなさい」

「ど、どうして謝っているんですか、エミィさん?」

「巻き込んでしまったから」


 突然の謝罪にうろたえているセシリアに、エミィが頭を下げたまま言った。


「本当は、ヘルブレアの構成員を逃がしてしまった、あたしが責任をとるべきなのに……謝っても謝りきれない」


 エミィの声色は弱々しく、後悔と罪悪感がにじんでいる。


 謝罪の理由を聞いたセシリアは、目を丸くしたあと――


「謝る必要なんてどこにもありません」


 包み込むような優しい声とともに、エミィの両肩にそっと触れた。


「わたしは巻き込まれたなんて思っていません。自分の意思で名乗りでたんですから」


 エミィに顔を上げるよう促(うなが)して、セシリアが続ける。


「それに、エミィさんをひとりにしたら、きっとわたしは後悔します」

「うむ。そちらのほうがよほどつらい。エミィに囮捜査を押しつけたとなれば、末代(まつだい)までの恥(はじ)となっただろう」


 エミィが目を見開き、「ありがとう」と頬(ほほ)を緩(ゆる)めた。


「セシリアさんも、イサムさんも、優しいね。あたしも、できるだけのことをしたい」


 言いながらエミィが、肩にかけた小さな鞄(かばん)(ポシェットと呼ぶらしい)から、ふたつの小箱を取り出す。


 小箱の真ん中には魔石(ませき)が、その周りには、円を描くように十二個の小石が埋め込まれていた。


「これ、ふたりにもらってほしい」


 エミィが差し出した小箱を目にして、セシリアがギョッとする。


「『ダウジング・アミュレット』ですか!?」

「魔導具かなにかか?」


 目と口を大開きにしているセシリアに俺は尋(たず)ねる。


 セシリアはコクコクと頷き、俺に説明してきた。


「あらかじめ魂力を読み込ませることで、その方(かた)がいる方角を示(しめ)す魔導具です」

「ふむ。捜索用(そうさくよう)の魔導具といったところか」

「けど、いいんですか、エミィさん? ダウジング・アミュレットは相当(そうとう)高価な魔導具ですよね?」

「いい」


 エミィに迷いはなかった。


「イサムさんとセシリアさんに、危ない目に遭(あ)ってほしくないから。これがあれば、たとえ離ればなれになっても大丈夫だし」

「エミィさん……」


 感じ入るセシリアに、エミィがダウジング・アミュレットを手渡す。


 俺もまたダウジング・アミュレットを受け取りながら、エミィに力強い眼差(まなざ)しを向けた。


「かたじけない。俺たちもエミィの思いやりに報(むく)いろう」

「はい! 困ったときは絶対に助けますから!」

「やっぱり、イサムさんとセシリアさんは、優しいね」


 エミィがはにかみ、顔つきを真剣なものに改(あらた)め、カジノのほうを見やる。


「まずは、ゲームに勝たないとはじまらない。長い戦いになりそう」

「いや。そうはならん」


 俺が首を横に振ると、「ほぇ?」とエミィが目をぱちくりさせた。


 不敵(ふてき)に笑いながら、俺はきっぱりと言い切る。


「俺がいるから問題ない」

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