友の子孫と子孫の事情――6
三時間後。俺とセシリアはティファニーと合流し、ピースメーカーの本部に向かった。
昨日と同じように、俺、セシリア、ティファニー、ウォルスが会議室に集まり、ヘルブレアの本拠地を探すための作戦会議が開かれた。
「報告がある」
冒頭、俺は切り出す。
ティファニーとウォルスの視線が向けられるなか、俺は知らせた。
「ティファニー。昨日、俺たちはふたりの暴漢を撃退したと伝えたな」
「はい。それがなにか?」
「その者たちがヘルブレアの構成員のようなのだ」
ティファニーとウォルスが目を丸くする。
「こ、これ以上ない手がかりじゃないですか!」
「その暴漢たちはいまどこニ!?」
「慌てるな、ティファニー、ウォルス。ホワイトガードが捕らえている」
身を乗り出すティファニーとウォルスに、俺は苦笑した。
「ホワイトガードは俺たちに協力してくれるそうだ。暴漢たちの尋問に、俺たちも立会わせてもらえる」
「「おお!」」
期待を寄せるように、ティファニーとウォルスが相好を崩す。
俺もふたりと同じ気持ちだ。ヘルブレアの本拠地探し、ひいては顕魔兵装の破壊に、大きく近づいたのだから。
「失礼しまス」
展望が明るくなったとき、会議室にピースメーカーの団員が入ってきた。
「どうしタ?」
「エミィ=アドナイと名乗る方がいらっしゃいましタ」
対応したウォルスに団員が答える。
団員の知らせに、俺とセシリアは顔を見合わせた。
「エミィが?」
「なんの用でしょうか?」
会議室に招かれたエミィは浮かない顔をしていた。
「エミィ、どうかしたのか?」
尋ねる俺に、エミィが頭を下げる。
「ごめんなさい。捕らえていたヘルブレアの構成員たちを、逃がしてしまった」
俺、セシリア、ティファニー、ウォルスが瞠目した。
「今朝、看守が確認したら、脱走してたみたい」
「手がかりが失われてしまったか……」
俺は歯噛みする。
セシリア、ティファニー、ウォルスも顔を曇らせていた。期待が大きかった分、失望も大きいのだろう。
ひとつ息をつき、俺は気持ちを切り替える。
「フリダシに戻ってしまったが、落ち込んでいてもはじまらない。改めて作戦を練ろう」
「でしたら、考えていた作戦がひとつありまス」
ウォルスが手を挙げて、作戦の内容を語り出した。
「パンデムの南部に、『ゴールドラッシュ』っていう大型娯楽地が――いわゆるカジノがあるんですけど、胴元がヘルブレアみたいなんス」
俺、セシリア、ティファニー、エミィが、「ふむふむ」と相槌を打つ。
「ゴールドラッシュにはホテルが併設されているんスけど、カジノで大勝ちした者は、VIPとしてスイートルームに招かれるそうなんでス」
ただ、
「VIPとして招かれた者は、忽然と姿を消すらしいんですヨ」
「え? ど、どうしてでしょうか?」
セシリアが戸惑う。
理由を察し、俺は口を開いた。
「殺められたのだろう」
セシリアとエミィが息をのみ、俺と同じ予想をしていたのか、ティファニーとウォルスが頷いた。
「本来、カジノは運営側が得をするように設計されている。だが、時として、運が味方をして大勝ちしてしまう者が現れるのだ。運営側としてはたまったものではない」
「だから、VIPとしてスイートルームに招き、そこで消すわけですね」
「大勝ちしたのは、実は不運だったってやつッスネ」
煌びやかなイメージとは裏腹に、カジノには闇が潜んでいるのだ。
残酷な真実を知ったセシリアとエミィが身震いする。
俺は話を戻した。
「いまの説明で大方わかった。作戦とは囮捜査のことだな、ウォルス?」
「はい。VIPとして招かれた者は消されル。逆を言えば、ヘルブレアの構成員と接触できるってことッス」
「その者を返り討ちにして、ヘルブレアの本拠地を吐かせる、といったところか」
ウォルスが首肯する。
俺は腕を組んで思考した。
ウォルスの作戦は効果的だ。ただし、懸念すべき点がある。
ヘルブレアの構成員は、VIPとして招いた者を殺めにくる。囮になった者には死の危険が伴うのだ。
作戦の危険性に皆も気づいているのだろう。会議室に集まった者は、いずれも険しい顔をしていた。
「なら、囮はあたしがやる」
そんななか、エミィが名乗り出る。
「もともとは、ホワイトガードが捕まえた構成員たちを尋問して、ヘルブレアの本拠地を聞き出す予定だった。囮捜査しないといけなくなったのは、構成員たちの脱走を食い止められなかったホワイトガードの責任。だから、あたしが囮になる」
「いいの、エミィちゃん? どうしても危険は伴うよ?」
「覚悟はできてる」
心配するティファニーに、エミィは迷わず頷いた。
「わたしもやります!」
エミィに続き、セシリアも志願する。
エミィが目を丸くした。
「いいの? 危ないよ?」
「危ないのはエミィさんも一緒じゃないですか。エミィさんだけを危険にさらすわけにはいきません」
セシリアは決然とした眼差しをしている。心底からエミィを気にかけているようだった。おそらく、エミィが自分と似ているからだろう。
セシリアは、下級貴族に降格されてしまったデュラム家を上級貴族に戻するため、日々努力している。
エミィもまた、ホワイトガードの団員になるため、努力を重ねている。
ふたりとも、己の目標を果たすため、たゆまぬ努力を続けている。
セシリアはエミィにシンパシーを感じているのだろう。だからこそ、エミィを気にかけているのだ。
では、俺はどうする?
決まっている。囮捜査の話が出たときから決めていた。
「俺も参加しよう。セシリアとエミィに危機が迫ろうと、すべて俺が払ってみせる」
「イサム様……!」
俺が名乗り出たことで、セシリアが嬉しそうに目を細める。
「セシリアさん、イサムさん……ありがとう」
心を打たれたように唇を引き結び、エミィが深々と頭を下げた。
「決まりッスネ。ピースメーカーは、ヘルブレアの構成員を返り討ちにしたあと、皆さんが速やかに脱出できるよう準備しておくッス」
「頼んだ」
それぞれの役割を決め、俺たちは頷き合った。




