友の子孫と子孫の事情――1
「――それで、その子を助けたら家に招かれたと」
「うむ」
夜。パンデム北東部にあるホテルのロビーにて、俺はティファニーに繁華街での出来事を伝えていた。
飲食店の店主が暴行にあっていたこと。
店主を庇うため、エミィが暴漢たちに立ち向かったこと。
暴漢たちがエミィに危害を加えようとしたので、俺とセシリアが助けたこと。
エミィがアドナイ家の者だったこと。
そして、助けられたエミィが、お返しとして俺たちを家に招待したこと。
「エミィは俺とセシリアを一晩泊めてくれるそうだ。部屋を取ってくれたティファニーには悪いが、俺たちはエミィに甘えたい」
「構いませんよ」
勝手を言う俺に、それでもティファニーは気分を害さず、和やかな表情をしていた。
「エミィちゃんは『白騎士』アレックス様の子孫。イサムさんは、かつての仲間の子孫と過ごしたいんですよね?」
「ああ」
頷くと、ティファニーが目を細めた。
「だったら、わたしはイサムさんの気持ちを優先します。キャンセルするのは流石に申し訳ないんで、わたしはホテルに泊まりますね」
「かたじけない」
「いえいえ、お気遣いなくー」
俺が礼を言うと、ティファニーは手をヒラヒラと振る。
ティファニーに別れの挨拶をして、セシリア・エミィと合流するため、俺はホテルをあとにした。
セシリア・エミィと合流し、俺たちはパンデムの西にある住宅地を歩いていた。
「もうすぐ着くよ」
先を行くエミィの知らせに、否応なしに期待が高まる。
エミィの両親もまたアレックスの子孫。友の子孫に会えるのは、やはり楽しみだ。
ただ、気になることがひとつあった。
周りの建物が民家ばかりなのだ。
魔王討伐の報奨として、勇者パーティー(俺を除く)には貴族位が与えられた。だとしたら、デュラム家と同様、アドナイ家も高級住宅街にあるものではないだろうか?
セシリアも俺と同じく不思議に感じているらしく、首を傾げている。
エミィが足を止めた。
「ここがあたしの家」
「ここが……」
「ですか?」
俺とセシリアはポカンとした。
三角屋根を持つ二階建て。周囲に溶け込むような一軒家。
エミィが示した自宅が、どう見ても民家だったからだ。
「アドナイ家は貴族位を得たはずではなかったか?」
困惑のあまり尋ねると、エミィは自嘲するように苦笑した。
「貴族位は、一〇〇年前に剥奪された。いまのアドナイ家は平民なの」
俺とセシリアは言葉を失った。




