友の子孫と子孫の事情――2
「兄ちゃんも嬢ちゃんもドンドン食ってくれよ!」
「おかわりもあるわよ~」
アドナイ家のダイニング。
俺とセシリアの対面の席についている男が豪快に笑い、キッチンから顔を覗かせた女性がのほほんとした口調で言った。
男の名はギース。女性の名はアン。ふたりはエミィの両親だ。
ギースは二メートル近い大男で筋骨隆々。角張った顔立ちに口ひげを生やし、瞳は紺色。銀の髪は刈り上げにしている。
アンは中肉中背。ライトブラウンのボブカットに灰色の瞳。柔和な顔立ちからは、優しげな雰囲気がにじみ出ている。
エミィから事情を聞いたギースとアンは、俺とセシリアを快く迎え入れ、夕餉を馳走してくれた。
テーブルに並ぶのは、鶏肉のシチュー、色とりどりの野菜を用いたサラダ、ライ麦パン。決して豪勢とは言えないが、素朴で温かい味わいだった。
「あんたたちにはいくら礼を言っても言い足りねぇよ! エミィを助けてくれて、本当にありがとうな!」
「構わぬ。エミィのように優しく勇敢な子を見捨てては、目覚めが悪いのでな」
「嬉しいこと言ってくれるじゃねぇか!」
ギースが、ニッ、と人好きのする笑みを浮かべる。
「兄ちゃんの言うとおり、うちのエミィはちっこいけど肝っ玉がデカくてよぉ! 自慢の娘なんだよ!」
「将来はホワイトガードの団員になるって言って、毎日努力しているのよ~。親孝行な子でしょ~?」
「お、お父さんもお母さんもやめて。恥ずかしい」
娘自慢をはじめた両親を、エミィが赤い顔で止める。
エミィに訴えられたギースとアンは、それでも娘自慢をやめない。アルバムまで持ち出して、娘の素晴らしさを俺たちに伝えてくる。
エミィはしばらく抵抗していたが、どれだけ言っても無駄だと悟ったのか黙り込み、身を縮めてプルプル震えていた。
ギースもアンも一人娘を大切に思っているようだ。行き過ぎな感はあるがな。
微笑ましい思いでギースとアンの娘自慢を聞きながら、俺は同時に一抹の寂しさを覚えていた。
ギースもアンもエミィも、俺が『剣聖』であると、勇者パーティーの一員であると、アレックスの友人であると、知らないようだからだ。
エミィたちはアドナイ家でも分家筋らしいので、そのためかもしれない。ホークヴァン分家の生まれであるケニーも、俺のことを知らなかったからな。
「ところで、兄ちゃんと嬢ちゃんはどうしてパンデムに来たんだ?」
エミィの顔色が茹で蛸のようになった頃、ひとしきり娘自慢をして満足したギースが、俺たちに訊いてきた。
顕魔兵装や『魔の血統』のことは明かせないので、俺は言葉を選んで答える。
「スキール=ホークヴァンを知っているか?」
「ああ。ホークヴァン魔導学校の校長だろ?」
「そのスキールの頼みで捜し物をしているのだ。スキール曰く、パンデムに危険物が持ち込まれたらしい」
「面倒事の臭いがするな」
ギースが険しい顔つきになる。
「うむ」と頷き、俺は続けた。
「どうやら危険物はヘルブレアの手に渡ったそうでな。俺とセシリアはピースメーカーと協力して、ヘルブレアの本拠地を探そうと考えている」
「なるほどなぁ。それなら朗報があるぜ」
俺の話を聞いたギースが、ニヤッと口端を上げる。
「兄ちゃんたちが懲らしめたふたりの暴漢。あいつら、ヘルブレアの構成員らしい」
「む! まことか!?」
「つっても下っ端みたいだけどな。それでも、問い詰めれば本拠地の手がかりくらいは吐くかもしれねぇぜ?」
勿怪の幸いだ。
まさか、あの不届き者どもがヘルブレアの構成員だったとは。
まさか、こんな展開で手がかりにありつけるとは、思いもしなかった。
ギースが自分の胸に拳を当てる。
「ホワイトガードは罪なき人々の盾。悪党どもから市民を守るのが使命だ。ピースメーカーが協力してるってのに、俺たちが黙ってるなんてできねぇ」
「ホワイトガードも協力してくれるのか?」
「あたぼうよ! ひとまず、引っ捕らえた下っ端どもの尋問からだな」
「心強い。感謝するぞ、ギース」
「いいってことよ! 兄ちゃんたちは、可愛いエミィを助けてくれた恩人だからな!」
ギースが破顔した。
俺は温かい気持ちになる。
『俺たちは罪なき人々の盾』か――俺を知らずとも、ギースはやはりアレックスの子孫だな。友の子孫は、友の信条をしかと受け継いでいるようだ。
感じ入っていると、ビールが注がれたジョッキをギースが手にし、傾ける。
「かぁ――っ!!」といかにも美味そうに一気飲みして、ギースが俺に勧めてきた。
「兄ちゃんもどうだ? 美味ぇぞ? ま、恩人にはもっと上等な酒を振る舞うべきなんだろうけどな! 用意できなくて悪ぃ!」
「蓄えがなくてなぁ!」と、ギースが自虐を肴にして笑う。
大笑するギースを眺めつつ、俺はエミィの言葉を思い出した。
――貴族位は、一〇〇年前に剥奪された。いまのアドナイ家は平民なの。
『高貴なる者の務め』が設けられた現代では、社会に貢献しない貴族は許されない。位が下げられ、剥奪される場合もある。
実際、デュラム家は上級貴族から下級貴族に格下げされている。勇者パーティーの一員といえど例外ではないのだ。
アドナイ家もデュラム家と同じく、社会に貢献できなかったのか? だから、貴族位を剥奪されたのか?
どうしても気になり、俺はギースに尋ねた。
「つかぬことを訊くが、なぜアドナイ家は貴族位を剥奪されたのだ?」
動揺したように、アンとエミィの肩がピクリと動く。
それまで快活に笑っていたギースが、気まずそうに表情を曇らせた。
「あー……悪ぃな。詳しいことは俺たちにもわからねぇんだ」
「そうか……俺のほうこそすまぬ。不躾なことを訊いた」
「いや、気にするこたぁねぇよ」
「がははは!」とギースが笑い飛ばす。
どことなく、空笑いのように映った。




