デートと討伐と邂逅――8
「は、はぁ?」
「たった三人で挑もうっての!?」
「三人?」
女性魔兵士の指摘に俺は眉をひそめる。
三人? ここにいるのは俺ひとり。ふたり多いのではないか?
「任せてください!」
怪訝に思っていると、背後から声がした。
顔を向けると、魔導兵装を手にしたセシリアとティファニーが立っている。
「オアー・ドラゴンはわたしたちが倒します!」
「あなたたちを見殺しにはできないしね」
「……俺はひとりで挑もうと思っていたのだが」
「イサム様が戦っているのに、わたしたちが傍観していられるわけないじゃないですか」
「と、セシリアちゃんが言ってますから」
セシリアが、フンス! と鼻息を荒くして、ティファニーが、タハハ、と苦笑した。
俺はポリポリと後頭部を掻く。
「やれやれ。仕様のない子だ」
そう言いながらも、俺の口元はほころんでいた。
俺はセシリアとティファニーを見つめる。
「油断するなよ」
「「はい!」」
セシリアとティファニーが力強く頷いた。
俺たちが団結するなか、魔兵士たちのリーダーと思しき男が口を開く。
「任せられるわけないだろ。あんたたちを守るのが俺たちの仕事だ。傷ひとつでもつけたら、依頼主に顔向けできねぇ」
「敵わないとわかっていても、か?」
「言っただろ。それが仕事だ」
男は揺らがなかった。
男の決意に鼓舞されたのか、ほかの魔兵士たちも頷く。皆、眼差しに火が灯っていた。勇敢な者たちだ。
ならばこそ、惜しい。
彼ら、彼女らは、ここで散っていい者ではない。
ここで散らせてなるものか。
「案ずるな」
俺はオアー・ドラゴンを見据える。
「傷ひとつ負わんさ」
魔兵士たちの肌が粟立った。
俺の放つ闘志に当てられたのだろう。一瞬で察したのだろう。
目の前にいる男は、オアー・ドラゴンなど比較にならないほどのバケモノだと。
身動きひとつ、反論ひとつできず、魔兵士たちはゴクリと唾をのんだ。
彼ら、彼女らを守るため、前に出る。悠然と歩を進める。
オアー・ドラゴンの双眸が俺を捉えた。
オアー・ドラゴンが大口を開け雄叫びを轟かせる。雄叫びの音圧により、大気と大地がビリビリと震撼した。
俺は腰に佩いた刀を抜く。
鈍く輝く刀を一振りして、俺は肉食獣の如く笑った。
「さあ、死合おうではないか」
返答の代わりに、オアー・ドラゴンが鱗を飛ばしてきた。一枚が騎兵盾ほどもある、巨大な鱗が十二枚。
飛来してくる鱗に対し、俺は刀を中断に構えた。
セシリアもまた、セイバー・レイを構え、俺に並び立つ。
「魔導機関車に被弾させるわけにはいかん。すべて弾くぞ」
「はい!」
俺とセシリアは地を蹴り、風となった。
武技『疾風』。
刀を振るう。鱗を弾く。
長剣が振るわれる。鱗が弾かれる。
弾く。弾く。弾く弾く弾く弾く。
呼吸を合わせ、視線を交わし、何度となく位置を入れ替えながら、俺とセシリアは剣を振るった。
端からは、黒色と金色が舞踏しているようにしか映らなかっただろう。
一秒にも満たないあいだに、俺とセシリアはすべての鱗を弾いていた。
背後で魔兵士たちが絶句する気配がする。
俺は刀を鞘に収め、ゆっくりと息を吸った。
調息で魂力を練りながら、セシリアに訊く。
「一太刀で決める。隙を作れるか?」
「もちろんです!」
頼もしい返事とともに、セシリアが飛び出した。
金色の長髪をたなびかせ、空気を切り裂いて速度に乗る。
セシリアを迎撃するため、オアー・ドラゴンが鱗を放った。
意にも介さない。
セシリアは右に左に方向転換し、速やかに滑らかに鱗を回避していった。その様、さながら豹のよう。
オアー・ドラゴンがいくら鱗を放とうと、セシリアはすべて危なげなく避けきる。
鬱憤が溜まったのかオアー・ドラゴンは咆哮し、向かってくるセシリアを叩き潰さんとばかりに左前足を振り上げた。
オアー・ドラゴンの前足が振り下ろされる。華奢なセシリアがまともに食らえばひとたまりもない。全身の骨を砕かれ、ぼろ切れのように裂かれるだろう。




