デートと討伐と邂逅――7
「――見切った!」
「あっ!」
ティファニーがキラン、と目を光らせて、二枚あるセシリアの手札のうち、右のカードを引き抜く。
カードに描かれた模様を確かめ、ティファニーがニマッと唇を歪めた。
「イェーイ! 上っがりーっ!」
「ま、また負けました……」
ティファニーが万歳をして、セシリアがガクリと肩を落とす。
パンデムに到着するまでのあいだ、俺たちはトランプに興じることにした。小一時間、ババ抜きで遊んでいるのだが、セシリアが勝てたのはわずか一回。あとは全敗だった。
「うぅ……どうして勝てないんでしょうか?」
「セシリアちゃんは顔に出すぎなんだよねー。もっとずる賢くならなくちゃ」
「わたし、そんなにわかりやすいですか?」
「うん。だからこそ、わたしもセシリアちゃんの秘めたる想いに気づいたわけで」
「ふゃっ!?」
セシリアが謎の鳴き声を上げながら肩を跳ねさせて、ティファニーがケラケラと至極おかしそうに笑う。
そんなふたりのやり取りを、俺は微笑ましい気分で眺めていた。
ジェインを発ってから二時間。時刻は一時過ぎ。予定では、あと三〇分ほどでパンデムに到着する。
そのとき、魔導機関車が、ガタンッ、と激しく揺れた。
突然の衝撃に、乗客たちが悲鳴を上げる。
「ひゃっ!?」
「おっと。大丈夫か、セシリア?」
「は、はい」
前方につんのめりそうになったセシリアを、咄嗟に右腕で支える。セシリアがほんのりと頬を赤らめた。
魔導機関車は速度を急激に緩めていき、やがて停車する。
何事かと眉をひそめていると、車両前方のドアが勢いよく開き、乗員と思われる男が入ってきた。
「大変申し訳ありません! モンスターの出現により、当列車はしばらく停車いたします!」
乗員の知らせに乗客たちが息をのむ。
車両内にざわめきが広がるなか、状況を確認するため、俺は車窓から身を乗り出した。魔導機関車の進行方向に目を向ける。
巨体があった。
体長は推定一〇メトロ。
石柱の如く太い四本の脚には、剣のように鋭い爪。
爛々と光る双眸。口腔にはズラリと牙が並んでいる。
黒光りする鱗に覆われたそのモンスターを目にして、俺は顔をしかめた。
「『オアー・ドラゴン』か。大物が出たな」
モンスターでも最上位とされる『ドラゴン属』。その一種がオアー・ドラゴンだ。鉱石を食べて育ち、爪・牙・鱗の強度はどんな鉱物にも勝る。最硬のドラゴンと称され、危険度はSクラス。もちろん、一筋縄では討伐できない。
俺に続いて車窓から身を乗り出したセシリアとティファニーが、目を丸くした。
「どうしてオアー・ドラゴンがここに!?」
「たしかにおかしいね。オアー・ドラゴンは地中で過ごしているはずなのに……」
「おそらく、地震の影響だろうな」
動揺しているふたりに、俺は推測を述べる。
「六日前に地震が発生し、ジェインとパンデムを繋ぐ魔導機関車は運休を余儀なくされた。当然ながら、地中にいたオアー・ドラゴンも地震を感じただろう。地震の衝撃に危機感を覚え、地上に避難した。そう考えるのが妥当だ」
「なるほど……厄介なことになりましたね」
「まさか危険度Sクラスのモンスターが現れるなんて思わなかったしね」
俺たちが苦虫を噛みつぶしたような顔をしているあいだにも、車両内のざわめきは大きくなっていく。
狼狽える乗客たちに向けて、乗員は声を張り上げた。
「ご安心ください! 当列車には、モンスター討伐サークルの魔兵士方が、護衛として乗り合わせております!」
乗員の言葉を証明するように、先頭車両から六名の男女が降りていった。彼ら、彼女らの手には、いずれも魔導兵装が握られている。
乗員の知らせに安堵したのか、車両内のざわめきが収まっていく。
しかし、俺は気づいていた。
「厳しいな」
護衛の魔兵士たちの様子を見るに、そう判断するほかない。
魔兵士たちはいずれも体を強張らせており、冷や汗を頬に伝わせている。
彼ら、彼女らは察しているのだ。自分たちはオアー・ドラゴンに敵わないと。
それでも魔兵士たちは引かなかった。乗客・乗員を守るため、己の使命を果たすため、死を覚悟でオアー・ドラゴンに挑もうとしている。
ならば、見捨てることなどできはしない。
「待たれよ」
俺は車窓からひらりと飛び出し、魔兵士たちに声をかけた。
緊張していたからだろう。魔兵士たちがビクリと体を震わせて、振り返る。
いきなり声をかけられて困惑している様子の魔兵士たちに、俺は告げた。
「やつの相手は俺がする」




