デートと討伐と邂逅――2
鉱山で採掘される『魔石』を主な財源にしているパンデムは、山岳地帯にあり、行き来には専用の『魔導機関車』に乗車する必要があるらしい。
魔導機関車とは、魔導車と同じく『魔導機関』を用いた乗り物で、一度に大人数の乗客を運べるそうだ。二〇〇年前では考えられない。技術の進歩には驚かされるばかりだ。
魔導機関車は、駅から駅へと続く線路の上を走るとのこと。
俺とセシリアはティファニーに連れられ、ジェインの北にある駅を訪れていた。付近の建物のなかで、もっとも巨大な施設だ。
これから俺たちは、パンデム行きの魔導機関車に乗る――はずだったのだが。
「運休?」
駅の改札口。駅員から話を聞いたティファニーが、困惑の表情を浮かべる。
駅員は申し訳なさそうに首肯した。
「二日前に地震が発生しまして、その影響で線路が傷んでしまったんです。早急に対応にあたったのですが、復旧まであと三日はかかると思います」
「大変申し訳ありません」と駅員が頭を下げる。
ティファニーが眉と唇をひん曲げて、腕組みした。
「予定通りには行かないもんですねー……」
「うーん」と唸るティファニーの後ろで、俺とセシリアは小さく嘆息する。
「参ったな」
「そうですね」
顕魔兵装の脅威は身をもって味わっている。放っておけば多くの被害者が出てしまうだろう。顕魔兵装を破壊するためにも、できるだけ早くパンデムにたどり着きたい。
かといって、どれだけ急いても復旧が早まることはない。予定の変更が必要のようだ。
現状を踏まえ、俺は口を開いた。
「……しばらくジェインに滞在せねばなるまい」
駅を出た俺たちは、駅前にある時計台の下で今後の相談をしていた。
「さて。ジェインに滞在することになったけど、どうします?」
「まずはジェインの街になにがあるか、確かめるべきではないでしょうか?」
ティファニーの問いに、セシリアが挙手しながら答える。
「ジェインに滞在する以上、どんな場所にどんな施設があるか、把握しておいたほうがいいと思うんです」
「俺もセシリアと同じ意見だ。旅の期間が延長するとなると、事前に準備した荷物だけでは足りなくなるやもしれぬ。買い足す可能性を考慮すると、ジェインの街について詳しくなっておくべきだ」
俺が賛同すると、ティファニーも頷いた。
「たしかにそうですね。じゃあ、ジェインの街を歩きまわって――」
そこまで言って、ティファニーが言葉を切る。
かと思うと、なにかを閃いたような表情をしてから、新しいおもちゃを見つけた子どもの如く、ティファニーはにんまりと笑った。
「あーっと! そういえば、スキール様への報告が必要でした!」
大袈裟な口調でそう言って、ティファニーが、ポン、と手を合わせる。
「ホテルも確保しないといけませんし、ここからは二手にわかれませんか? わたしはスキール様への報告とホテルの確保を行いますから、イサムさんとセシリアちゃんはジェインの街を探索してください」
「ティファニーが単独行動をとるのか?」
俺が訊くと、ティファニーは「むふふ」とどこか出歯亀じみた笑みを見せた。
「ええ。イサムさんもセシリアちゃんと一緒にいたいでしょう? ほら、デートっぽいじゃないですか」
「デデデデート!?」
セシリアの顔が一瞬で赤くなる。あまりの赤面具合に、セシリアの頭から湯気が上る様を俺は幻視した。
「はわわわ……!」と口を開け閉めしているセシリアに、ティファニーがパチン、とウインクする。
「ナイスアシストでしょ?」
「ティファニーさん!」
「じゃ、三時間後、ここに集合ってことで!」
プレイボーイの如く無駄にいい顔をして、ティファニーが走り去っていく。からかわれたのかと思われるセシリアは、涙目でプルプル震えていた。
ティファニーはなにを面白がっている? セシリアはなぜこんなにも動揺している? 気にはなるが、触れていいものか悪いものか……。
俺はポリポリと頬を掻く。
セシリアの慌て様を見るに、詳しく尋ねると追い込んでしまいそうだ。そっとしておくのが吉だな。
そう結論付けた俺は、気持ちを切り替えるために息をついてから、セシリアに呼びかけた。
「では行くか、セシリア」
「ひゃ、ひゃいっ!」
「どうした? 緊張しているのか?」
「そそそそんなことないですよ!?」
「これでもかというほど目が泳いでいるぞ? セシリアは嘘が下手だな」
俺は苦笑する。
図星だったのか、セシリアはうつむき、拗ねたように唇を尖らせた。
セシリアが恨めしげな目で俺を見上げてくる。
「イサム様、イジワルです」
「すまぬな。セシリアが愛らしいもので」
「~~~~~~っ! そういうところですよぅ……」
セシリアがさらに顔を赤くした。流石にからかいすぎただろうか?
少し反省していると、セシリアが躊躇いがちに手を伸ばしてきた。
「手を繋いでくれたら許してあげます。その、は、はぐれたら、困りますし……」
パチパチと数回瞬きをして、俺は笑みをこぼす。
「喜んで」
姫に仕える騎士のように、俺はセシリアの手を取った。
俺とセシリアは歩き出す。
ふと横目で窺うと、セシリアの頬が緩んでいた。




