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恋慕と使命と旅立ち――5

 セシリアに頷き返し、俺は手を差し伸べる。


「戻るか。朝餉(あさげ)の準備ができている頃だ」

「楽しみですね。運動のあとのご飯は美味しいですから」


 ニッコリ笑ってセシリアが俺の手をとった。


 俺は腕を引き、セシリアが立ち上がる手伝いをする。


 そのときだった。


「あっ」


 疲れていたからだろう。立ち上がったセシリアがよろめいた。


 俺に引っぱられた勢いを殺せず、セシリアの体が前のめりになる。


 咄嗟(とっさ)に俺は、セシリアを抱きしめるようにして受け止めた。


 セシリアを腕のなかに収め、俺は安堵(あんど)の息をつく。


「大丈夫か?」


 腕のなかにいるセシリアをのぞき込む。


 セシリアが俺を見上げ、パチクリと目を(しばたた)かせて――その顔が()だるように赤らんでいった。


「~~~~~~っ!!」


 セシリアが唇をわななかせて、パッと俺から離れる。


 セシリアの行動に、今度は俺が目を瞬かせた。


「む? どうした、セシリア?」

「いいいいえ! その、ち、近づきすぎましたので……」

「近づいたら不都合があるのか?」

「え、えっと……」


 それらしい理由を探すかのようにセシリアが視線を泳がせて、ピン、と人差し指を立てた。


「そ、そう! 汗です! 稽古のあとで汗をかいていましたから!」

「そのようなこと、俺は気にしないぞ?」

「け、けど、汗臭くありませんか?」


 俺は首を横に振る。


「まったくだ。むしろ、いい匂いがする」

「ふぇ!?」

「俺はセシリアの匂いが好きだぞ。心が安らぐ」

「~~~~~~っ!!」


 顔を一層(いっそう)赤くして、またしてもセシリアが唇をわななかせた。


「あぅあぅ」とよくわからない声を上げ、セシリアが俺に背を向ける。


「そういうのはズルいと思います……」

「ズルいとは?」

「な、なんでもありません!」


 セシリアの言動が理解できず、俺は首を(かし)げた。


 いまだにリンゴのように赤い顔をしたセシリアが、チラリとこちらを見やる。


「イサム様? そういうこと、ほかの女性の(かた)に言ってはダメですからね?」

「なぜだ?」

「と、とにかくダメなんです! わかりましたか!?」


 セシリアが俺に対してこんなにもムキになるのははじめてだ。


 謎の迫力に気圧(けお)されて、「う、うむ」と俺は頭を縦に揺らした。

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