恋慕と使命と旅立ち――6
「遅くなってしまったが、武技の修得に入ろう」
翌日の昼前。ホークヴァン魔導学校のグラウンド。
集まった、魔兵士科:魔剣:Sクラスの二年生たちの前で、俺は教鞭を執っていた。
前回の授業が、顕魔兵装である『バイパー・ダンサー』と『エヴィル・クリムゾン』の襲撃により中断され、襲撃を受けた生徒たちの精神状態を考慮してしばらく休校されていたこともあり、俺の授業が開かれるのはひさしぶりだ。
セシリアも所属する2―Sの生徒たちに、俺は改めて、武技の修得について説明する。
「武技は魂力を用いた戦闘術であるため、前提として魂力の認識が必要となる。その手段が『調息』だ」
俺は手本を見せるため、説明を続けながら目を閉じた。
「『調息』は、言ってしまえば深呼吸だ。一〇秒かけてゆっくりと息を吸い、一〇秒かけてゆっくりと吐く。息を吸うときは、全身を流れている魂力がへその下――丹田に集まり、息を吐くときは、丹田に集まっていた魂力が、全身へと戻っていく様をイメージする」
呼吸に合わせ、俺の全身を巡る魂力が丹田に集まり、練り上げられ、再び全身に戻っていく。
「調息は魂力の認識法であり、同時に魂力を練る手段でもある、すべての武技の基礎となる技術だ」
俺はまぶたを開けた。
「そして、練り上げた魂力を望む部位に送れば――」
練り上げた魂力を両脚に集め、俺は地を蹴る。
生徒たちが目を丸くした。
俺が飛鳥の如く大跳躍したのだから当然だろう。
ホークヴァン魔導学校の校舎よりも高い上空。人間が本来到達できないほどの高みから生徒たちを見下ろし、彼ら、彼女らの驚き様に笑みを漏らす。
やがて自由落下。
スタンッ、と軽やかに着地した俺に、生徒たちはポカンと大口を開けていた。
「このように、身体能力を大幅に引き上げることができるわけだ」
「さて」と、俺は生徒たちに促す。
「次はきみたちの番だ。今日の授業では、魂力を認識するため、一〇分間の調息を二回、休憩を挟んで行おう」
授業開始から四〇分が経った。
間もなく授業が終了するが、魂力を認識できた生徒はいない。残念がるように肩を落としている生徒も数名いた。
とはいえ仕方ないことだ。魂力の認識には時間がかかる。一朝一夕でできることではないのだから。
逆に言えば、最初の調息で魂力を認識したセシリアは、それだけ才に恵まれているということだ。
「落ち込まずともいい。魂力の認識には時間がかかるからな」
「どれくらいかかるんですか?」
「早くて一週間。一年以上かかる場合もある」
俺の答えを聞いて、生徒たちが「「「「うげっ」」」」と渋い顔をした。魂力の認識には、想像以上に時間がかかるとしらされたからだろう。
正直な反応に苦笑しながら、俺は諭す。
「きみたちの気持ちはわかる。だが、進歩や成長は努力の先にあるもの。努力は避けて通れないものなのだ」
説く。
「一〇〇の才を持つ者も、一の努力を怠れば成長はない。一の才しかなくとも、一〇〇〇の努力を積めば天才を超える。努力は嘘をつかぬのだ」
俺の言葉で気持ちを改めたのか、生徒たちが顔つきを引き締めた。
生徒たちの真剣な眼差しに満足してから、俺は伝える。
「俺はしばらくラミアを離れる。授業を開くこともできん」
「用事でもあるんですか?」
「ああ。込み入った事情があってな」
『魔の血統』や顕魔兵装については明かせないため、質問してきた生徒に対し、俺は手短に答えた。
「俺がいないあいだ、きみたちには自主的に調息をしてもらいたい。俺が戻ってきたとき、その成果を見せてくれたら嬉しい」
生徒ひとりひとりに目を配りながら、俺は締めくくる。
「強制はせぬ。ただ、期待はしている」
生徒たちがしっかりと頷いた。
向上心のある生徒たちを持てて、喜ばしい限りだ。




