混乱と裏切りと戸惑い――6
演習場の舞台は阿鼻叫喚の体を成していた。
逃げ惑う生徒たち。
粉砕された岩場。
あちこちで立ち上る黒煙。
演習場に災いをもたらした元凶は、宙を羽ばたいていた。
コウモリのそれに似た翼。
爛々と光る双眸。
幾本もの牙が並ぶ大口。
丸太の如き太さの、腕と脚。
鞭のように長い尾。
ドラゴンの姿をしたバケモノだ。
バケモノの肉体は、胴体にある逆三角形の器具を中心として、炎で形成されていた。逆三角形の器具には魔族核が埋め込まれている。あのバケモノも顕魔兵装なのだろう。
魔導兵装には、魔剣・魔銃・魔精の三つが存在する。あのバケモノは魔精型の顕魔兵装ということか。
演習場の外周から状況を確認しつつ、俺はそう推察した。
生徒たちは混乱のただ中にあるが、ケガを負った者はいない。おそらく、演習場の効果によるものだ。
演習場は巨大な魔導具で、内部にいる者が一定以上のダメージを負うと、障壁で守る仕組みになっている。
魔精型の顕魔兵装に襲われながらも、演習場の術式を維持してくれている者がいる。その者のおかげで、生徒たちは助かっているのだ。
「うーん。これじゃあ、実験にならないよ。逃げ回ってないで反撃してほしいなぁ」
舞台の中央にいるエリュが、残念そうに唇を尖らせた。
エリュの隣には、大砲のような兵器が置かれている。
エリュは腕組みして唸り――なにか閃いたかのように顔を明るくした。
「そうだ! 演習場の障壁が解除されれば、死に物狂いで挑んできてくれるかも!」
エリュの視線が演習場の外周:南部に向く。
そこにはひとりの女性教師がいた。女性教師は必死の形相で、目の前にある台座に手をかざしている。彼女が演習場の障壁を発動してくれているのだ。
「『エヴィル・クリムゾン』、やっちゃえ!」
エリュが、宙で羽ばたく魔精――エヴィル・クリムゾンに命じる。
エヴィル・クリムゾンが大口を開け、火炎弾を吐き出した。
岩石ほどもある巨大な火炎弾が、女性教師に迫る。
女性教師は恐怖に顔を引きつらせ、それでも逃げようとしなかった。自分より生徒たちを優先したのだろう。
火炎弾はもはや女性教師の目前。彼女が消し炭になるまで間はない。
させぬ。
俺は体を前傾させ、風を超えた。
自らを神速へと導く武技『縮地』。
一瞬で女性教師のもとまで移動し、火炎弾に袈裟斬りを見舞う。
「破ぁっ!」
両断。
魔力により発生した事象を打ち消す武技『破魔』により、火炎弾は大気に散った。
俺は振り返り、青ざめた顔をしている女性教師に尋ねる。
「無事か?」
「は、はい」
「きみのおかげで生徒たちが傷つかずにすんだ。よく持ちこたえてくれたな」
女性教師に礼を言って、俺はエリュとエヴィル・クリムゾンを見据えた。
「あとは俺に任せろ」
演習場の外周から飛び降りる。
タンッ、と軽い音を立てて着地した俺は、疾風を用い、一〇秒と経たずしてエリュのもとにたどり着いた。




