新たな出会いと彼女の変化――12
ホークヴァン魔導学校の一日のカリキュラムが終わった。
俺とセシリアは帰路につくため、校舎の廊下を歩いていた。
「教師業ははじめてだが、授業は上手くできていただろうか?」
「はい! とてもわかりやすかったです!」
「それはよかった。ところで、セシリア?」
「なんでしょう?」
俺は傍らにいるセシリアを見やる。
「なぜ俺の腕を抱いているのだ?」
俺の左腕を抱きしめている、セシリアを。
ずっと疑問に思っていた。
2―Sの授業を終えてから、俺に密着したり、腕を絡めたりと、セシリアの距離感がやたら近いのだ。
「ねえ、あのふたりってもしかして……」
「だよね? そういう関係だよね?」
「イサム先生はセシリアさんの執事って聞いてたけど、そうだったんだねー」
「教師と生徒、かつ、ご主人さまと執事の関係……燃えるわ」
加えて、俺とセシリアの様子に、周りの生徒がざわついたり、興味津々と眺めてきたり、黄色い声を上げたりしている。
一体、なにが起きているのだろうか?
「その……わたしにもよくわからないんです」
俺が首を捻っていると、セシリアが戸惑ったように視線を逸らしながら、答えた。
「イサム様の側にいたくて、くっつきたくて仕方ないといいますか……」
「どうしてそのような心情になったのだ? 思い当たる節はないか?」
「イサム様が授業をされていた途中、女子生徒に触れていましたよね? そのとき、ムシャクシャといいますか、モヤモヤといいますか、不快な感覚がしまして……くっつきたくなったのはそれからです」
言われてみれば、俺が女子生徒に指導していたとき、セシリアは頬を膨らませていた。あれは苛立っていたからのようだ。
しかし、俺が女子生徒に触れたら、なぜセシリアがくっつきたがるようになったのだ? まったく無関係ではないか。因果関係が見えないぞ?
「うーむ」と唸っていると、セシリアが気落ちしたようにうつむいた。
「最近、自分で自分がわからないんです。先日、マルクール教授がイサム様に身を寄せたときも、今日みたいにモヤモヤした気分になって……申し訳ありません」
「なぜ謝る?」
「勝手に機嫌を悪くしたり、くっついたりして、イサム様に迷惑をおかけしているからです」
セシリアは迷子のように不安そうな顔をしている。
俺はセシリアの頭に手を置いた。
叱られると思ったのか、セシリアがビクリと震える。
俺はゴールデンブロンドの髪を優しく撫でた。
「迷惑などではない」
「本当、ですか?」
ビクビクしながら見上げてきたセシリアに、「ああ」と微笑みかける。
「二〇〇年後の世界に飛ばされ、孤独に襲われていた俺を、セシリアは救ってくれた。あのときから、俺の居場所はきみの隣なのだ。どうして迷惑などと思えようか?」
「ですが、イサム様を救うように命じたのは、わたしのご先祖様ですよ?」
「たしかにその通りだ」
セシリアの眉が下がった。
「だが」と俺は続ける。
「実際に俺を救ってくれたのはセシリアではないか。俺の面倒を見てくれているのもセシリアではないか」
そう。きっかけはロランとマリーの言い渡しだろうが、俺を救ったのはセシリア自身の意思なのだ。
「だから、俺の側にいたいなら、いくらでもいてくれて構わない」
「よろしいのですか?」
「ああ。俺も、セシリアと触れ合っていると心地がよいからな」
「そうですか」
安堵したように、セシリアの頬がゆるむ。
委ねるように、甘えるように、セシリアが身を寄せてきた。
俺はセシリアの頭を撫で続けた。




