私をお呼びくださるのでしたら
仰け反りそうになったし、腕を両手で掴まれてちょっと怖かったが、ベルザーはうんうんと頷いた。
というより、ここで否定すると刺されそうな迫力である。
「欲しい、とっても欲しいです!」
今度は、切なすぎる声音でねだるエレナである。
……おまえつい十秒前に、俺からもらうならなんでもいい的なことを言っただろうにっ――と思わないでもなかったが。
若い番号を狙うのは、レアアイテム好きのベルザーグとしては理解できる。
とはいえ、そういうこだわりは自動的に課金地獄の一丁目が約束されるので、本当はお勧めはしないのだが。
「では、二番でいいかな?」
「……え」
切ない顔から、今度はどっと暗くなった。
中の人である一郎ですら、「むう……トップナンバーは手元に温存という個人的なこだわりは、今回は諦めるか」と即座に思ったほどに。
「よしよし、可愛い娘のためだ。ナンバリングにこだわりがあるなら、おまえにはトップナンバーをあげよう」
「あ、ありがとうございますっ、ありがとうございます!!」
……なんという、よい返事。
ベルザーグは辛うじてため息を我慢し、エレナから指輪を取り返した。
代わりにまたマジックボックスに手を入れ、シリアルナンバー1を探し出し、渡してあげた。
「一番一番……うふふ」
機嫌の計測メーターがあれば、おそらくマックスまで振り切れていそうな声音で、エレナが独白した。
「ははは、よほどトップナンバーが好きと見えるな」
まあ……うん。ここまで喜んでくれるなら、これでよかったか。
おうおう、俺に任せてくれ。
一番から十番まで、全部持ってるしな!
唐変木なベルザーグは、ドヤ顔の上に内心で自慢たらたらだったせいか、先程新たな指輪を探している間、エレナが感激のあまり涙ぐんでいたことに気付かず仕舞いだった。
紆余曲折を経て、ついにもらったシリアルナンバー1のピュアハートを、エレナは一瞬の迷いもなく左手薬指にはめた。
すると、魔法効果でアームの部分が瞬く間にサイズを変え、ぴたりとエレナの指に最適なサイズ変換がされた。
「ぴったりです!」
眼前にかざして嬉しそうに微笑する。
「……そうなる仕組みだからな」
一郎が非モテだったために、指輪についての恋愛知識が皆無であるベルザーグは、朴念仁な返事をして快活に笑う。
ちなみに、この指輪問題のせいで忘れた頃に騒ぎが勃発するのだが、もちろん彼はそんなこととは知らずにいる。
「さて、今日はこれから各地の支配状況も見に行かねばならない」
最後にとびきりの笑顔を見られたので、機嫌よく立ち上がった。
「ファニールに会えなかったのは残念だが、また近々寄るとしよう」
「ぜひそうしてくださいませ! 私達もハイランダーへちょくちょく寄りますからっ」
慌ててエレナも立ち上がった。
……片手でまだ薬指の指輪を弄りつつ。
「あ、それで思い出しましたっ。ファニールちゃんが冒険者登録したいと言ってました。あの、私も」
「ほう?」
エレナはともかく、フェニールは危なくないか?
しかし、あの子も立派な神官職だし、むしろ実地訓練は必要か。素早く考えを巡らせ、ベルザーグは頷いた。
「わかった。おまえと二人で仕事を受けるなら、構わないとも。アリオンに伝えておこう」
「ありがとうございますっ」
「そうだ、エレナ。最後に訊いておこう」
肝心なことを思い出し、ベルザーグはエレナの肩に手を置いた。
「私にとってはファニールもおまえも大事な娘だ。だからおまえにファニールと共に暮らすことを強制する気はない。今は魔獣もついていることだし、おまえがなにか考えがあるなら、好きな道を選んでも大丈夫だぞ」
「ファニールちゃんは大好きだし、私も一人よりはファニールちゃんと一緒の方がいいです」
エレナは笑顔で答えてくれて、ベルザーグは内心でほっとした。
「そうか!」
しかし、すぐにエレナがそっと続けた。
「でも、もしも創造主様が私をお呼びくださるのでしたら――」
そこまで口にして、エレナはあたかも顔を隠すかのように深々とお辞儀した。
「うん、そうだな。近々、実際におまえの力を借りることになるかもしれない」
娘が発した言葉の深遠な意味には気付かず、ベルザーグは大仰に頷いた。




