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無名ゲームデザイナー、ゲーム世界の神となる  作者: 遠野空
第六章 創造主(父)を愛する娘達
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敵の暗躍


 深々と一礼するエレナの見送りを受け、ベルザーグは教会を後にしたが……しばらく歩いて、「そういえば、布教活動が順調かどうか、訊くのを忘れたな」と思い出した。


 戻って尋ねてみるかと思ったものの、その場で振り返ると、まだエレナが一礼したままの姿勢を崩してなかった。

 もう歩き出してから、相当の距離があるのに。

 ファニール同様、えらく真面目な子である。


 こうなると今更戻るのもバツが悪く、ベルザーグは尋ねるのはまたの機会とすることにした。

 それに、忘れていたくらいで、本当は布教活動にそれほど関心があるわけではない。ファニール達が満足してやってくれているなら、別に信者の数など増えなくても問題ないのだ。


(俺にはあの子達がいるからな……これ以上を望むのは、贅沢というものだ)


 だいたい、まだ会っていない子もいるのだし、これ以上訪問先が増えるのもまずかろう。





 ……などと、普通の男が聞いたら「ふざけるなっ」と憤慨するようなことを考えていたベルザーグだが、いきなり怒鳴り声が聞こえて水を差された。

 まだ転移しないまま、いつしか帝都のメインストリートまで戻ってきていたのだが、立派な看板を出している店先で、何名か騒いでいる。

 レザーアーマーを上衣に着けた戦士風の男を、二人の男女が取り押さえ、口々に喚いているのだ。

 眉をひそめたベルザーグの耳に、「こいつは魔族軍の魔人だっ」だの、「今、銀細工をネコババしようとしやがった!」だのという怒声がガンガン聞こえた。


 どうも様々なアクセサリーを扱う高級志向の店らしく、店主らしきスーツの中年も開いたドアのそばに立っていたが、途方に暮れたように這いつくばされた男を見下ろしていた。


「あの……その辺で。その方が手にしているのは確かにうちの商品ですが、その……私は盗むところも見ていませんし」


「なんだよっ、せっかく事前に盗人を押さえたのに、その言い方はないだろっ」

「あたし達が悪いみたいじゃん! まさか、占領されたからって、魔族を恐れてんのっ!?」


 女の方の言い草に、店主のみならず、集まりつつある野次馬達でさえ、そっと顔を見合わせた。いや、それは恐れて当然じゃないだろうか、という表情で。


「しっかりしなさいよ、あんたらっ」


 冒険者っぽい姿の若い女が、軽蔑の目つきで周囲を見渡す。


「魔族は帝都に立ち入らないし、住民達の生活も乱さないって立て札に書いてあったんでしょうが! のっけからこれで、腹が立たないのかいっ」

「そうだそうだっ」


 同じく冒険者らしき男の方も、わざとらしく声を張り上げた。


「こいつら絶対、わざと盗んで反応見てるんだぜ! これでお咎めナシなら、今後はどんどんこういう事態が増えて、最後はみーんな、クソッタレ魔族の奴隷にされちまうぞっ」


 甲高い男の声に、今度は別の意味で野次馬達が顔を見合わせる。

 それもそうかもしれない……と思っているのが、一目瞭然だった。

 なにより、取り押さえられた盗人――とされる男が、一言の抗弁もしないのが大きいだろう。





 ベルザーグは顔をしかめたが、ふとある可能性に思い至り、その場で創造主用のステータス画面を開き、彼ら三名をまとめてその場から引き上げられるかどうか、やってみた。


 予想通り、全く反応がない。


 創造主の干渉を受けないということは、もう確定である。つまり彼らは元々、この大陸の住民ではないということだ!

 ベルザーグは軽く頷き、もう遠慮せずに人垣を掻き分け、ずんずん前へ出て行く。

 見物を邪魔されて迷惑そうな声を上げるものもいたが、それもたちまち静まり、代わりに感嘆の声や驚きの声に染め上げられていく。


「ねぇ、まさかとは思うけど、あの優しそうな人も冒険者?」

「……冒険者にも、ちゃんと二枚目がいるんだ」

「クラバットはしてないけど、スーツ姿が素敵!」


 一郎の頃にはついぞ聞いたことがないような囁き声が周囲から聞こえ、ベルザーグは人知れず気後れしてしまう。

 とはいえ、もはやこの長身で鋭い目つきの青年が、自分そのものであることは間違いない。

 むしろ、魔獣や人外の種族にアバターを設定しなかった当時の一郎を、褒めてやるべきだろう。

 苦笑して肩をすくめ、一番前まで出た。


「よし、そこまでだ、他国の諸君!」


 いきなりガツンと声を張り上げると、三名が一斉にこっちを見た。

 どの顔からも、拭ったように作り物の表情が消え、警戒心が湧き出ていた。


「おい、一体なんの――」


 最初に喚いた男の方がなにか言いかけたが、ベルザーグは無視してこっそり魔法を使った。


『マインドコントロール!』


 無事にかかり、今度は三人とも、虚ろな目でベルザーグを見る。





「まずは君達の正体と、どこの国から来たか、さらにはなにが目的か、全て語ってもらろう。……そうだな、代表して君だ」


 紅一点のショートパンツ姿の女を指差すと、彼女はすらすらと答えてくれた。


「はい……あたし達はクレアデス共和国から来たスパイで、この国に騒乱を起こすように命令されています」


 途端に盗み聞きしていた住民達がざわついたが、ベルザーグは予想外の答えを聞き、考え込んでしまった。

 クレアデス共和国……それは、つい先日、ヴァレリー達魔族が撃退した、大陸北方の国家のはずだ。さしたる力もないと思っていたが、スパイをこっそり送り込んでいるとなると、認識を改める必要があるだろう。


「う……うおおおおおっ」


 いきなり怒声が響き、盗人だと二人から罵られていた男が、路上から跳ね起きた。 

 脂汗を掻いてはいたが、素早く懐からダガーを抜き、まっしぐらにベルザーグに向かって走ってくる。


「そうか、おまえがリーダーだったか」


 呟いたと同時に喉元にダガーの切っ先が来たが、ベルザーグは落ち着いて二本の指で刃を挟み、止めてしまった。


「ば、馬鹿なっ」


 驚愕したように、男の目が見開かれる。

 往生際悪く押したり引いたりしているが、根本的なSTR値(筋力値)に天地の差があるので、無駄もいいところである。


「悪いが、この世界に私の敵はいない」


 当たり前のことなので、別に勝ち誇るでもなく告げた後、トランセンダンスマジックのタイムストップを使ってその場で時間を止めた。


 こいつらは全員、尋問の必要があるようだ。



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