遅すぎる到着
明らかに、先程を上回る轟音が響き渡り、そして大地が激震で揺れまくった。
コンマ数秒後には、荒れ狂う破壊の余波となる衝撃波が広がり、ヴァレリーが急いで自分達のためにシールドを展開したほどだ。
ヴァレリー的には、敵との間には十分な距離があったと思ったのだが、あいにくそうでもなかったらしい。
ここまで強大な攻撃魔法を使う機会が皆無に等しかったので、被害を見積もり損ねた。
不気味な亀裂が四方に走っている部分はまだマシな方で、中庭の広範囲――それころ、遥かに離れた城壁の近くにまで達する、巨大なクレーターが生じている。
もちろん、シールドを張った直後のあの女を中心点にしてだ。
敵の生死はまだ不明だが、濛々たる土埃のせいで、とてもではないがどうなったか確認できない。
(あいつ、寸前でシールドに頼らずに飛び退こうとしたようだ。それは褒めてやってもいいが……まあどのみち、無駄だったな)
別名、虚無の刃とも呼ばれる攻撃魔法であるブラックブレイド・オブ・ダークネスは、飛来スピードも速いが、基本的にロックした敵に追従する。
つまり、飛び退いたところで簡単に避けることはできない。
どうしてもダメージを回避したいなら、あの魔法を使える最低レベル――つまり同じくレベル90クラスのシールドが必要なはずだ。
「ただ、命中した直後に、なにやら奇妙に空間がブレたように見えたが……」
ヴァレリーが考え込んでいると、バーンズが満面の笑みで寄ってきた。
「お見事です、陛下!」
思わず肩をすくめた。
「おまえが思うほど弱敵じゃないぞ、あいつは。少なくとも私のレベルシールドが突破されたということは、レベル50以上……あのブラインドフューリーとやらの攻撃魔法からして、おそらく本人のレベルは80を越えていたはずだ。こうまで近い実力の持ち主に出会ったのは、初めてのことだな」
そこでヴァレリーは、ふと嫌な予感がした。
それほどの実力を持つ相手となると……創造主様の関係者ということは考えられないだろうか?
「……しかし、それなら私を攻撃する理由がないはずだ」
思わず独白すると、バーンズがこれに答えた。
「我々に退かせたかったようですが……」
「なぜだ?」
「そこは謎ですな」
バーンズも、彼女と初対面なのは同じなので、首を振るしかなかった。
「だいたい――むっ」
言いかけたヴァレリーは、大きく息を吸い込む。
ようやく収まりかけた土埃の向こうから、ふらふらと女が近付いてくる。体型からして、あの女に間違いないだろう。
「生きていたか!」
さすがに多少は驚いて声に出すと、相手は押し殺したような声で言い返した。
「あ、当たり前……ですわ。だいたいわたくしには、大神のご加護により、戦死を回避する『デスイベージョン』のスキルが備わっています。簡単に倒れませんわよ! しょ、勝負は……これからですっ」
言葉とは裏腹に、満身創痍のせいで足がガクガク震えていた。
それは置いて、こいつの言い草に、ヴァレリーの嫌な予感はにわかに増大した。
「そのスキルは知らぬが、大神のご加護だとっ。貴様の言う大神とは誰の――」
問いかけようとした瞬間、なぜかギチッと敵が固まった。
固まったというのは、そのままの意味で、今まで荒い呼吸を吐いて左手で右肩を押さえていたあの女が、そのままの姿勢で静止している。
しかもバーンズの方をさっと見ると、忠実な臣下の巨体も、同じくその場で静止した……というより、世界全体が動きを止めている!
「案ずるな、ヴァレリー。これは私のトランセンダンスマジックの、タイムストップによるものだ」
その声に、今度こそヴァレリーは飛び上がりそうになり、振り向く。
予想通り、彼女が崇拝する創造神が立っていた。
「ベルザーグ様!」
このタイミングのよすぎる光臨に、ヴァレリーは恐れていた危惧が現実になったのを知った。
焦って跪き、真っ先に尋ねた。
「まさか、彼女はっ」
「いやいい、いいんだ。シャロンもスキルのお陰で無事だったんだし、喜ぶべきだろう」
ベルザーグはちらっと辛うじて立つ敵の女を見て、首を振った。
どうやら、ヴァレリーが言おうとしたことを察したらしい。
「あの子の出現については、ついさっき、ハイランダーのアリオンから連絡がきた。全ては誤解が招いたことであり、私の責任だ。おまえには、苦労かけたな」
「……そのようなことは」
「いいから、立ちなさい。シャロンも後で診るとして、まずはおまえだ」
遠慮しようとしたヴァレリーより先に、静かに歩み寄ったベルザーグが両手を握ってくれ、彼女の冷静な思考はたちまち吹っ飛んでしまった。
尊敬する創造主は、手を握ったまま軽々と引き起こしてくれた。
「おまえのやってくれたことに感謝する。必要なこととはいえ、汚れ役をやらせて悪かった。怪我などなかったか?」
その言葉に、ヴァレリーは夢見心地になり、慌てて首を振っていた。
ぼおっとしていると、ベルザーグが見つめてふと首を傾げ、スーツのポケットからハンカチを出して顔を拭いてくれた。
「少し砂埃がついていた。魔法の方が早いけど、味気ないからな」
照れたように笑う。
「ほら、これで綺麗になったぞ」
「お、畏れ多いことです……ですが、ありがとうございます!」
私はこの方のためになら、いつでも死ねる!
……いつも思うことだが、この時のヴァレリーも夢中でそんなことを考えていた。
いつもありがとうございます。
ご感想を下さった中名加奈様が、↓で本作を紹介してくださいました。
http://ncode.syosetu.com/n9884dh/
本当にありがとうございます!
○ついでに、知らなくても困らない用語
デスイベージョン(スキル)
死亡確率高い攻撃を浴びた瞬間、その効果を半減させる。
ファニールのリザレクションリングと違い、連続二回まで有効。




