ニキアと
街の内外を物色しては赤い物を見つけて真っ黒なのと発光する白の球を連続して作る。
その行動は、道行く人の目には奇異でしかなかった。
魔術の学都だけに、何かしら魔術関係のことをしているということは、誰もが理解する所なのだが、何のためにやっているのかは、誰にも理解できない。まして、黒と白の球が何なのかを知る者は館生にすら居ないだろう。故にユーナ達に向けられるのは、珍しい動物でも見るかのような目だった。時々は見物人が出る始末。魔術を使った大道芸と間違えられている可能性もあった。
ユーナ達は至って真剣に取り組んでいる。恥ずかしさもあって、いつも周囲の視線が気になった。
「何やってんの?」
ユーナが発闇を終えたところで声をかけてきたのはニキア。その瞳は明らかに面白がっていて、首を突っ込みたそうに見えた。
課題がなかなかうまくいかないことに苛立ちを感じ始めていたユーナは、ニキアの顔を見て、挨拶代わりに頷いて見せただけだった。
「課題をやっているんです」
代わりにクリスが答えた。
「課題? なんの?」
「それがお教えできないんです」
『赤色師』の位階変え代理競争であることを考えると、簡単に明かして良いとも思えなかった。
「へえ」と答えるニキアの顔はさらに生き生きとし始めた。教えられないと言われれば尚更聞きたくなるのが人情というものだが、ニキアの場合、それが度を超している。
「そんなことを言わないでさあ。教えて教えて。でないと邪魔するぞ?」
「具体的に何をしてくれるっての?」とユーナが切り返す。
ニキアは顎に手を当てて真面目に考え込み、
「くすぐる」
ニキアらしいと言えばニキアらしい安直な答え。ユーナはため息をついて応じる。
「なんだよ、その態度は。ほんとにくすぐるぞ?」
「お好きにどうぞ」
ユーナはクリスに『番外の緋』を渡す。クリスはそれを受け取り、躊躇いがちに発光を開始した。
「『第2の緋』? でも、なんか違うな」
ニキアにしては鋭い。
「これは『番外の緋』と言うの」と応じてから、「もう大丈夫だよ」とクリスに声をかけた。
「『番外の緋』? って、聞いたことないな」
「でしょうね。あたしもそんなものがあるなんて知らなかったし。試してみる?」
「え? 良いの?」
クリスが不安そうにユーナを見る。
「これくらいなら問題ないと思うよ」
実際、他者に使わせてはならないとは言われていない。
ニキアは嬉嬉として緋の棒を受け取った。
「おう、これが黒とか白の玉がでる緋か!」
「いや、まあ、確かに外れてはいないけど……」もっと言い方があるだろうに、とユーナは少し呆れる。
「黒いのと白いの、どっちも出せるの? あたしとしては黒いのが格好いいと思うんだけど」
「いや、どっちかしか出来ないよ。どっちが出るかはやってみないと判らない」
「そっか。で、どうすれば良いの?」
「目は開けたままで、」
「うん」ニキアはカッと目を開けてまばたきを止める。
「気合いを込めて持力を緋に通して」
「うおおおお!」
「そうすると黒か白の球ができるから」
ユーナが言い終えるよりも早く、『番外の緋』から光る白い球が現れ、膨張を始める。それはニキアの顔を包み込む直前で止まった。
つまり、ニキアは白球の光を間近で見続けている状態。
「ちょっと、これいつまで続ければ良い?」
目を大きく見開いたままのニキアは助けを求めるように言った。
「あ、もう持力通すのやめて良いよ」
ユーナの一言を待っていたようにニキアが作り出した白球が消える。
「うあー! 目が! 目が!」
途端にニキアは目を瞑り、涙を流しながら瞼をこすってのたうち回る。確かに、強い光を見ればこうなるのは目に見えていた。
「あれ、クリスはどうして大丈夫なの?」
ニキアと同じ『光の持力』のクリスも同じ目に遭うはずなのに、彼女が辛そうにしているのを見たことがない。
「あ、いつもは薄目を開けているので」というのがクリスの解答。
「なるほど」
「ちょっと、これなんの拷問なんだよ!」
立ち直ったニキアがユーナに詰め寄る。
「いや、拷問じゃなくて、持力量を計ったのよ。今出てきた白い球の大きさがニキアの持力の大きさってこと」
「へえ。で、あたしのは大きいの? 小さいの?」
「えーと、普通?」
「普通? って、どいうこと?」
「あたし達も、どのくらいだと大きいとか小さいとか、よく判ってないのよね。でと、ニキアの球は、だいたいアンナと同じくらいだったよ」
「ふーん。じゃあ、クリスのは?」
「わたしのはもっと小さいです」
「そっか」
ニキアはばつが悪そうに頭を掻いて、
「じゃあ、ユーナのは?」
「え、あたし?」
言って良いものなのだろうか。不安がよぎる。
「ユーナさんのはすごく大きいですよ、こーんなの!」
クリスは両手を広げて、更に伸びをしてユーナの発現量を示そうとする。
「うーん、よく判らんが、とにかくすごくでかいんだな?」
「はい」
クリスは嬉しそうに頷き、ニキアは悔しそうな顔をして負け惜しみを言う。
「ま、まあ、ユーナの持力量が多いのは前から判ってたことだしな」
勝負事が好きなニキアにしては、簡単に負けを認めた。謝るのも変な話だと思ったユーナは黙っていることにした。
「それで、2人はこれを使って何をしてるわけ?」
ニキアなら多少明かしても問題ないだろう、ユーナは判断した。多分、ユーナが言うことの半分も理解できないだろうし。
「『自分の赤』を探してる」
「るぼるいぷせうす……。赤色ってこと? それを探すとどうなるの?」
「持力が増えます!」とクリス。
「正確には、持力が増幅される」
「ぞうふくされる……。ほう」
ニキアは感心した風を装っているが、本当のところはよく判らずに頷いているだけ。
「一応、説明しておくけど、あたしとクリスは、誰も使っていない『赤色』を探してる」
「ほほう」
何か思い当たることがあるのか、ニキアは頬に手を当てて考える仕草をした。
「じゃあさ、ペテルス聖堂の墓地にあるせいいぶつは調べた?」
「聖遺物って、『聖ペテルスの袖』のこと? 確かに赤いって噂はあるけど。でも、あれって秘蔵物のはずでしょ? 見せてもらうのは難しいんじゃない?」
「そうですね」とクリス。
つまり、人の目に触れることはまずないということ。
「だからじゃないか。誰も使っていないのを探してるなら、当てはまるでしょ?」
「なるほど」
ニキアの言葉には一理ある。聖遺物だったら赤色保管庫には所蔵されていないし、そう簡単に触れられるものでもない。
しかし、秘蔵物をどうやったら持ち出すことが出来るのか。
とにかく、ディトーに相談してみることにした。




