表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
30/57

第26話「少女と月の中枢」

紅い光が、空を覆い隠す。


無数の光刃。

雨のように。

流星のように。


逃げ場のない死の群れ。


その中心で、ヴァル・レガリアが静かに剣を構えている。


「終わりだ」


アウレリウスの冷たい宣告。


次の瞬間――


紅の豪雨が降り注いだ。


「っ――アーク!!」


ノアが叫ぶ。

蒼き巨人が咄嗟に腕を交差させ、防御姿勢を取る。


だが。


一撃。

二撃。

十撃。

――さらに続く。


凄まじい衝撃が装甲を削り、砕き、穿つ。


轟音が塔内を揺らす。

蒼の装甲片が火花と共に四散した。


――左腕部に深刻な損傷。

――胸部装甲損耗率四十二%。

――各部駆動系に障害発生。


警告が乱れ飛ぶ。


「くっ……!」


ノアが歯を食いしばる。


まだだ。

まだ倒れない。

けれど。


立ち上がろうと前を向いた刹那。

その胸部に、最後の一閃が深く突き刺さった。


轟音。


蒼き巨人の巨体が吹き飛び、塔の側壁へ叩きつけられる。

白い石壁が砕け、外縁部の床に大きな亀裂が入った。


次の瞬間。

床が裂け、足場そのものが音を立てて崩れ始めた。


「あっ……!?」


ミリアの足元が大きく傾く。


「っ! ミリア!!」


ノアが叫ぶ。


手を伸ばす。

だが届かない。


白い床が割れ、その裂け目へミリアの身体が吸い込まれるように落ちていく。


「ノア――!!」


悲鳴だけを残して。

暗く深い、奈落へ。


「ミリア――!!」


届かない。

掴めない。


その一瞬の隙。

ヴァル・レガリアの巨剣が、アーク・ギガントの胸へ叩き込まれた。


凄まじい衝撃。


蒼き巨人が力なく膝をつく。


――中枢機構に深刻な損傷。

――強制停止まで残余時間、不明。


視界が赤く染まる。

膝をつくアーク・ギガント。


その前に立つ、皇帝。

完全なる敗北だった。



その頃、ミリアは暗闇の中を一直線に落ちていた。


「わああああああ――っ!!」


上も下も分からない。


砕けた白い石片が、周囲をばらばらと落ちていく。

遠く上方では、まだ戦いの轟音が響いていた。


ノアの声が聞こえた気がした。

けれど、もう届かない。


「どうしよう……!」


ミリアは必死に手を伸ばす。

掴めるものはない。


暗闇だけが広がっている。

どれほど落ちたのか。


次の瞬間。


ふわり。


身体が柔らかな光に包まれた。


「……え?」


落下の勢いが、羽のように軽くなる。


恐怖で強張っていた身体が、淡い蒼白の光に支えられていく。


衝撃が消える。

音が遠のく。


ミリアはゆっくりと、床へ降り立った。


「……あれ?」


尻もちをついたまま、きょとんと辺りを見回す。


そこは、白く静かな空間だった。


球状の巨大空洞。

壁面には無数の青白い光の線が流れている。

まるで都市そのものの血管のように。


中央には、巨大な蒼白い球体。

月のように淡く輝く中枢核。


光は強すぎず、冷たすぎず、どこか優しい。


塔の上層を染めていた深紅の警告光とは違う。

静かに、長い時間を経てなお輝きを失わない光だった。


「ここ……どこ……?」


ミリアが立ち上がる。


その時。


球体の前に、ひとりの少女が立っていることに気づいた。


腰まで届く、透き通るような蒼銀の髪。

月光を編んだような薄衣。

瞳は淡い蒼。


儚げで、静かで、けれど不思議な温かみがある女性。

少女は穏やかに告げる。


『ご無事ですか?』


鈴のような声。

ミリアが瞬きを繰り返す。


「えっと……うん、多分」

『多分?』

「幽霊になっちゃったのかも……?」


少女が、くすっと笑った。

その笑顔は、どこか安心するものだった。


彼女は静かに一礼する。


『中央補助人格端末、識別名〈ルナ〉と申します』


そして柔らかく微笑んだ。


『お待ちしていました』

「……え?」

『王の、帰還を』


ミリアは首を傾げる。


「えっと、王子様はノアで……私は違うよ?」

『はい』


にこり。


『ですが、あなたは鍵です』

「鍵?」


ルナの瞳が、静かにミリアを見つめる。


その眼差しは優しい。

けれど、どこか長い孤独を抱えているようにも見えた。


『私は長い間、この深層中枢に留め置かれていました』

「留め置かれて……?」

『完全停止ではありません。けれど、自由に都市へ干渉する権限はほとんど失われていました』


ルナは月の中枢へ手をかざす。


壁面を走る光の線が、弱々しく明滅した。


『王都の大半は、私の手を離れています。表層の防衛機構も、塔の主制御も、今の私では直接動かせません』

「じゃあ、あの白い機兵たちは……?」


ミリアは思い出す。


砂漠で現れた五機の白き機兵。

白亜の船。

ノアたちを助け、王都へ導いた者たち。


ルナは少しだけ目を伏せた。


『現在の砂漠方面に残されたまま、休眠していた護衛の者たちです』

「護衛……」

『私が動かせたのは、あれが限界でした。五機の機兵と、小型浮航艇一隻』


静かな声だった。

けれどそこには、確かな意志があった。


『アーク・ギガントの再起動反応を検知しました。続いて、王統信号の微弱な波形を確認しました』

「それって……ノア?」

『はい』


ルナは頷く。


『だから、迎えに行かせました。王の御子を、王都へ導くために』


ミリアは息を呑む。


あの白い機兵たちは、偶然現れたのではない。

誰かが、深い場所から手を伸ばしていたのだ。


ずっと封じられたまま。

わずかに残った力だけで。


「でも……」


ミリアは拳を握る。


「今、王都はノアを襲ってる」


ルナの表情に、わずかな影が落ちた。


『はい』

「あなたがやったんじゃないんだよね?」

『はい、違います』


即答だった。

その声には、穏やかながらもはっきりとした強さがあった。


『私は王子を迎えるために彼らを送りました。拒むためではありません』


ミリアはルナを見る。


『ですが、結果としてそれを“敵”に利用される形となってしまいました』


その言葉に嘘はない。

なぜか、そう思えた。


「じゃあ、今ノアを襲ってるのがその“敵”ってこと……?」


ルナは答えなかった。

いや、答えられなかったのかもしれない。


代わりに、彼女は上を見上げる。


遥か上層。

戦う蒼と紅。

深紅の光が、遠い場所で脈打っている。


『このままでは、王子は敗北します』


ミリアの顔色が変わる。


「助ける方法があるの!?」

『あります』


即答だった。


ルナが月の中枢へ手をかざす。

光の線が一斉に輝く。


王都全域の立体光図が、空間へ浮かび上がった。


白い街並み。

中央の塔。

幾重にも走る制御回路。


その最上部に、蒼い一点。

ノアとアーク・ギガント。


そして、それを覆うように広がる深紅の制御領域。


ミリアは唇を噛む。


「赤いところが……敵?」


『現在、王都の主制御権限は深層上位系統により閉ざされています』

「しんそうじょうい……?」

『簡単に言えば、私より上位の権限です』

「じゃあ、ルナよりえらい誰かがいるってこと?」


ルナは少しだけ沈黙した。

そして、静かに言う。


『……今は、そう考えてください』


それ以上は語らなかった。

ミリアには、その沈黙の重さだけが分かった。


言えないのか。

言いたくないのか。

それとも、言えば何かが壊れてしまうのか。


けれど今は、問い詰めている時間はない。


ルナは光図の中央最上部を指し示す。


『王座中枢〈クラウン・コア〉』


そこへ伸びる一本の経路が、青白く浮かび上がった。


『そこに王統接続を通せば、都市制御権を奪還できます。敵機兵群の統制を乱し、王子とアーク・ギガントを支援できます』

「行けばいいの?」

『はい』

「どこへ?」

『上へ』


即答。

ミリアは少し黙る。


そして。


「……すごいざっくり!」


ルナが少し困ったように首を傾げる。


『細かく説明しましょうか?』

「ううん、大丈夫!」


ミリアは立ち上がる。

拳を握る。


「つまり、ノアを助けるにはそこに行けばいいんだよね」

『はい』

「なら行こう、ルナ!」


ルナが目を丸くした。


『……私も?』

「もちろん!」


即答。


「だって、私ひとりじゃ道分からないし。ルナもノアを助けたいんでしょ?」

『それは……』


ルナは胸元に手を添える。


『はい。私は、そのために待っていました』

「じゃあ一緒に行こう」


ミリアは笑った。


迷いのない笑顔だった。

その言葉に、ルナの表情が初めて大きく揺れる。

長い孤独の果てに差し伸べられた、あまりにも自然な「一緒に」という言葉。


命令ではない。

認証でもない。

権限でもない。


ただ、隣に立つという選択。


その一言が、閉ざされていた月の中枢に、小さな波紋を広げた。


壁面の青白い光が、少しだけ強くなる。

ルナは静かに目を伏せた。


そして――


微笑んだ。

月のように、優しく。


『行きましょう、ミリア様』


白い光が二人を包む。

王都の中枢が、静かに脈動を始める。


眠れる月が、目を覚ます。


反撃の時は近い。


――第27話へ続く

※おことわり

本作品は、設定の整理や本文草稿の作成補助・推敲に生成AI(ChatGPT等)を使用しています。使用用途・範囲の詳細については、作品概要ページをご確認ください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ