第20話「群体戦術」
「……船?」
ミリアの呟きに、ノアもアーク・ギガントの中からそちらを見やる。
砂丘の向こうから現れたのは、白亜の船影。
船底の浮遊機構が砂上に薄い白光を曳き、まるで海を滑る帆船のように進んでくる。
「浮いている……?」
「見てノア、上に何か乗ってる!」
ミリアが指を差したその直後。
甲板から次々と白き機兵が跳躍した。
二機。
三機。
いや、それ以上。
「機兵……!?」
アーク・ギガントより少し小柄にも見えるその機兵たちは、あっという間にノアたちの前に展開した。
すかさず飛びかかってきたスコルピオ級を一刀のもとに両断する。
「速い……っ!」
統一された動き。
迷いのない剣撃。
その一瞬の出来事に、ノアが目を見開く。
その直後、さらに搭乗席内に警告音が鳴り響く。
――新たな敵性反応接近。
――質量大。大型個体と推定。
アーク・ギガントの声に、ノアが再び身構える。
そして。
どくん――
地の底から響くような重い振動。
群れの動きが、一瞬だけ揃って止まる。
次の瞬間、周囲の個体が左右へ道を開いた。
現れたのは、小山ほどもある巨大な蠍型の機獣。
外殻は黒鉄に近い深い鈍色。
鋏はまるで断頭台の刃のごとく。
尾の針は破城槌さながらの巨大さを持っている。
「……大きい……」
ミリアの声が震える。
ノアの背筋にも冷たいものが走る。
アーク・ギガントが警告音と共に告げる。
――大型スコルピオ級、群れの統率個体と認定。
――危険度上昇。優先撃破を推奨。
「あいつが親玉か……!」
群れの頂点――統率個体が動いた。
巨尾が天を裂くように振り上がる。
空気を切り裂き突き出された尾部の針がアーク・ギガントの胸部を狙って直進する。
「アーク!」
ノアが叫ぶと同時にアーク・ギガントがとっさに跳躍し、一撃をかわす。
轟音。
衝撃。
爆音と共に吹き上がる砂塵をかき分け、アーク・ギガントが一直線に跳躍し距離を詰める。
「……そこだっ!」
勢いのままに繰り出した拳が統率個体の装甲を打ち据え、鈍い音を立てて鈍色の装甲がひしゃげる。
――ギィィィィィ!
不協和音のような奇声を上げ、猛り狂う統率個体。
報復のように振り上げた巨大な鋏をアーク・ギガントへ叩きつける。
再び轟音。
吹き上がる砂煙。
だが、そこにアーク・ギガントの姿はもうなかった。
後方に飛びすさり、構え直す。
「抜けない装甲じゃないけど、でかすぎる……!」
ノアが呻く。
他の通常個体も、放置することはできない。
どうする――?
「ノアー!」
こちらを呼ぶミリアの声。
振り返ると、サンドランナーを庇うように白い機兵たちが円陣を組んでいた。
「こっちは、この人たちがなんとかしてくれるかも!」
だからそいつをやっつけて! と続けるミリアに、ノアは逡巡する。
――任せても大丈夫だろうか?
少なくとも、あの機兵たちは敵ではなさそうだ。
だが万が一のことを思うと、ミリアのことが気がかりだった。
時間をかけることはできない。
――ノア。
アーク・ギガントの声。
いつもと変わらない機械音声のはずだが、それはまるで優しく語りかけるような声だった。
――優先護衛対象の動きは常に観測しています。
――それに。
アーク・ギガントが続ける。
――この程度の機獣。排除するのにわけはありません。
機械音声でありながら、まるで不敵に笑うかのような声色だった。
思いがけないその言葉に、ふっとノアは笑った。
「すごい自信だね」
――客観的な分析による戦力評価です。
いつも通りの事務的な言葉だった。
だがその言葉に、ノアの決心は固く定まった。
「行こう、アーク」
――了解。
――右腕格納式刀剣および背部推進機構、展開。
アーク・ギガントの右腕から白銀の切断刃が展開し、陽光に煌めく。
次いで背部推進機構が展開し、青白い噴光が砂塵を巻き上げる。
――腹部下方に敵装甲脆弱部を確認。
――斬撃による攻撃を推奨。
ノアがぐっと腕に力を込める。
「一気に飛び込む!」
激しい轟音とともに砂塵が吹き上がる。
次の瞬間、統率個体の視界からアーク・ギガントが消えていた。
――!?
目標を見失った統率個体の複眼が左右に揺れる。
その隙を逃さず、巨躯の背後に回り込むアーク・ギガント。
「そこだっ!」
高く持ち上げられた尾部の下に滑り込み、装甲の薄い腹部を中心に捉える。
右腕の切断刃を振りかぶり、一直線に繰り出す。
――ガキィィィィン!
激しい接触音と共に統率個体の腹部に刃が突き刺さる。
その中枢部まで刃が達する、確かな手応えがあった。
静寂。
――ギュィアアアアアァァァァァ……!
耳をつんざくような金属音と共に統率個体が崩れ落ちる。
下敷きになる前に抜け出たアーク・ギガントの前で、紅く睨む複眼が明滅し、やがて光を失った。
「ミリアたちは……!」
休む間もなく振り返り、サンドランナーと白い機兵たちの姿を探す。
「ノアー!こっちも終わったよー!」
声の方へ目を向けると、そこにはサンドランナーの操縦席から手を振るミリアと、その周囲で戦闘態勢を解く白い機兵たちの姿があった。
もうもうと巻き上がっていた砂塵が鎮まり、
砂漠は元の静けさを取り戻そうとしていた。
――第21話へ続く
※おことわり
本作品は、設定の整理や本文草稿の作成補助・推敲に生成AI(ChatGPT等)を使用しています。使用用途・範囲の詳細については、作品概要ページをご確認ください。




