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第1話「土の底で眠る巨人」

アルナ村の朝は、いつも土の匂いで始まる。


山々に囲まれたこの辺境の村では、畑を耕し、作物を育て、日が沈めば眠る。


ただそれだけの毎日だ。

豊かではないが、飢えるほどでもない。


だが今年は違った。

雨が、降らないのだ。


畑はひび割れ、井戸の水位は日に日に下がり、村人たちの顔から笑みが消えていく。

村長のガラムは、毎朝空を見上げては分厚い眉をしかめた。


「雲ひとつありゃしねえ」


その日もまた、乾いた風だけが村を吹き抜けていた。


「ミリア! 東の畑の見回りが終わったら広場へ来い!」

「はーい!」


元気よく返事をしたのは、小柄な少女――ミリアだった。

今年14歳になるミリアは、村長ガラムの孫娘。

無邪気な性格と人一倍の好奇心で村中を駆け回っている。

彼女は鍬を肩に担ぎ、ひび割れた畑を見渡してため息をついた。


「これじゃ芽も出ないよ……」


足元の土は、踏むたびにぱきぱきと乾いた音を立てる。

空を見上げれば、どこまでも青さばかりが広がる。

思うがままに外を駆け回ることを許してくれる眩い陽光は大好きだが、食べていけなくなるのは困る。


そのときだった。


――ゴゴゴゴゴ……!


地の底から、低いうなり声のような音が響いた。


「え?」


次の瞬間、畑の中央が大きく陥没した。


「わあっ!」


ミリアは尻もちをつき、舞い上がる土煙の中で目を見開いた。

地面が割れ、ぽっかりと巨大な穴が口を開けている。


異変に気づいた村人たちが駆け寄ってきた。


「なんだ今の揺れは!」

「地割れか!?」

「子どもは下がれ!」


ミリアも咳き込みながら穴の縁へにじり寄る。


穴の底は暗く陰っていてよく見えない。

だが、舞い落ちる土砂の隙間から――何かが見えた。

鈍く光る、硬い曲面。

石ではない。木でもない。鉄……それよりも滑らかで、見たこともない素材だった。


「あそこに何かある!」


ミリアが指を差して叫ぶと、ガラムが松明を持って駆けつけ、穴の中をのぞき込む。


「……こりゃ」


老いた顔が強張った。


「言い伝えの、“地の底の巨人”か……?」


その一言で、ざわめきが広がった。


アルナ村には、古くから伝わる昔話がある。


大昔、空から落ちてきた鋼鉄の巨人が山を砕き、この地に眠った――という、子どもを寝かしつけるためのおとぎ話だ。


誰も本気にはしていなかった。

だが、今、村人たちの目の前には確かに"何か"が埋まっている。


「掘るぞ」


ガラムが短く言った。


「だが慎重にな。崩れたら生き埋めだ」


男たちが縄と鍬を持ち寄り、穴の周囲を広げ始めた。

女たちは水と布を運び、子どもたちは遠巻きに騒いでいる。


ミリアは誰よりも早く穴へ降りようとして――ガラムに耳を引っ張られた。


「痛い痛い!」

「お前は上で待ってろ!」

「なんでよ!」

「一番危なっかしいからだ!」


結局、彼女は穴の縁で頬を膨らませながら見守ることになった。


日が傾く頃には、土砂の大半が取り除かれていた。

現れたのは、巨大な人の形をした何かだった。


頭、胴、腕、脚。

まるで甲冑を着た巨人が地中で眠っているようにも見える。

全身は銀色の金属に覆われ、表面には奇妙な紋様が刻まれていた。


「鋼鉄の巨人だ……」


誰かがつぶやいた。

ただの言い伝えでしかなかったものが、今まさに目の前にある。


村人たちは息を呑み、ただ立ち尽くすしかなかった。

その胸部中央に、扉のような継ぎ目があるのをミリアが見つけた。


「あそこ、なんか開きそう!」


「触るな!」とガラムが怒鳴るより早く、彼女は縄を伝って下へ降りていた。


「ミリア!戻ってこい!」


ガラムの怒声も気にせず胸部までよじ登ったミリアは、巨人の胸元に手を触れる。


ひんやりと冷たい感触。

その周囲の紋様が、かすかに蒼い光を帯びていた。


次の瞬間。


――カチリ。

内部で何かが動く音がした。


「えっ?」


その直後、重く軋んだ駆動音が響き、胸の装甲がゆっくりと開く。

中から蒼白い光の粒が舞い上がり、後ろから様子を窺っていた村人たちが悲鳴を上げて穴から逃げ出していった。


ミリアだけが、呆然とその中を見つめていた。

中には小さな部屋のような空間があり、その中央に一人の少年が眠っていた。


年は自分と同じくらいだろうか。

時折、蒼にも見える不思議な銀髪。

旅人のものとも違う見知らぬ服。

そして、まるで今しがた眠りについたばかりのような穏やかな寝顔。


「……男の子?」


ミリアが呟いた瞬間、少年の瞼がゆっくりと開いた。

透き通るような蒼い瞳が、真っ直ぐ彼女を見る。


「……ここ、は……?」


かすれた声だった。

ミリアは息を止めた。


「アルナ村。あなたは?」


少年はしばらく黙り、やがて小さく首を振った。


「わからない」

「名前は?」

「……それも」


その目には嘘も芝居もなかった。

ただ、本当に何もわからない者の空白だけがあった。


背後で様子を伺っていたガラムが近づいてくる。


「坊主、自分が誰か覚えてねえのか」


少年は苦しげに額を押さえた。


「何も……思い出せない」


その声を聞いたとき、ミリアはなぜか胸が締めつけられた。

巨大な鋼の棺の中で、たった一人眠っていた少年。

名前も、帰る場所も、何も持たずに。


「じゃあ、決まりだね」


ミリアはぱっと笑った。


「思い出すまで、うちの村にいればいいよ!」

「おい勝手に決めるな!」


ガラムが怒鳴るが、周囲の村人たちは顔を見合わせ、やがて苦笑した。

こんな少年を放り出せるほど、アルナ村は冷たくない。


「……そうだな」

「まずは飯だ」

「風呂にも入れなきゃ」


口々に声が上がる。

少年は戸惑ったように周囲を見回し、やがて小さく頭を下げた。


「……ありがとう」


その姿に、ミリアはにっと笑って手を差し出した。


「私はミリア。あなたは……そうだな」


少し考えて、空を見上げる。

夕焼けの向こうに、一番星が瞬いていた。


「ノア。なんとなく、そんな顔してる」


少年――ノアは、自分の名となった言葉を口の中で呟いた。


「ノア……」


どこか懐かしい響きのように聞こえた。


そのとき。

誰にも聞こえないほど小さく、地中の巨人の奥底で灯がともった。


――生体反応、確認。

――搭乗者認証を開始。

――再起動、待機態勢へと移行。


まだ、誰も知らない。

この出会いが村の運命を、世界の歴史を、大きく変えることになるなど。



――第2話につづく

※おことわり

本作品は、設定の整理や本文草稿の作成補助・推敲に生成AI(ChatGPT等)を使用しています。使用用途・範囲の詳細については、作品概要ページをご確認ください。

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