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8.噂というのは出回るのが早いものである。

「ネモ~、聞いたよ? エンデ先輩と森へ消えていったんだって~?」


「はっ!?」


寮の自室に帰るや否や、二段ベッドの上からカタリナがニヤニヤしながら話しかけてきた。


「こんな遅い時間まで……デート?」


「まったく違うから。というか、エンデ先輩とは三十分も一緒にいなかったし」


エンデ先輩が去っていったあと、クロを存分に可愛がっていたら、思いのほか時間が経ってしまっていた。


実家のクロも可愛いが、こっちのクロも相当に可愛いのだ。

課題さえなければ、夜になるまで遊んでいたかもしれない。


躓いていた課題については、十回中七回はうまくいき、残りの三回もほぼ魔力切れが原因での失敗だった。

おかげで、課題の魔法はほとんどマスターしたと言っていいだろう。


日が沈んで帰り道が真っ暗になる前にと、さっきようやく帰宅したところだ。


「え!? てことは、森に二人で行ったっていうのは本当なの!?」


「え、うん。なんか、いろいろあって……昨日できなかった課題の練習に付き合ってもらってたんだ」


「いろいろって、昨日までほぼ他人だったのに、どうやったらそんな短期間で仲が深まるの!?

魔法学科の生徒って怖いんだけど!」


「いや、仲は深まってないよ……」


疲れた身体を休めるように、ベッドへどすんと寝転ぶ。

カタリナは梯子を降りてきて、私の隣に座った。


「なんか……いつになくめっちゃ疲れてるね? どうしたの?」


「いや、それがさ……」


昼休みに演習室で先輩に再会したこと、クロと契約してしまったこと、先輩が放課後に迎えに来て、課題の練習に付き合ってくれたこと――すべてを順番に話していく。


(自分で話していてなんだけど、今日はやけに濃い一日じゃない?)


「わぉ。先輩の契約獣を横取り……」


「うん、そうなんだけどさ。私的には、それよりも……あんなに優しかった人が、とんでもなく尖った人になってたことのほうが衝撃で……。

二年でここまで人って変わる? 表情も含めて、まるで別人みたいだったよ……」


『魔法学科で待ってるね、ネモ』


そう言って、柔らかく笑った先輩。


『ああん? 誰だてめぇ』


対して、メンチを切りながら低く唸る先輩。


――あれ、一体誰。


「うーん……二年って、人を変えるには十分な時間だと思うよ~。

だってネモだってさ、二年前に魔法学科を目指すまでは、今みたいに根性論で突っ走るタイプじゃなかったんでしょ?」


「そう、だね。

まあ私の場合、根性でどうこうしたいって思えるようなことに、出会えてなかっただけかもしれないけど。

でも……そっか、二年って長いね」


二年前。先輩と出会う前は、自分が魔法学科に進学するなんて思ってもいなかった。

どちらかというと、努力せずに楽をしたいタイプだったと思う。


けれど、先輩の魔法に魅せられてからは、まるで別人になったみたいに、勉強にも魔法にも打ち込むようになった。

失敗してもへこたれず、ただ憧れに近づきたい一心で、がむしゃらに頑張るようになったのだ。


――カタリナの言う通りだ。

私だって、この二年で相当に変わった。


「ううん……仲良くなってるというか、師弟関係ができちゃったというか……」


というか、あの人、本当に明日も教室まで来るんだろうか?

面倒見が良すぎない?

何か裏がありそう……


と、そのとき。

お腹が「ぐ~」と盛大に音を立てた。


「今日は私もまだ療食取ってないんだ、ネモ。一緒に行こうよ」


「うん、早速行こう。あんまり食欲なかったけど、身体は正直だね」


感情の浮き沈みが激しかった上に、魔力も使い過ぎた。

今日は新たな課題も出ていなかったし、ぐっすり寝られそうな気がした。





「おはよう! 昨日私が帰ったあと、エンデ先輩がここに来てネモを攫っていったって本当!?」


「おはよう。キアラ……。それ誰が言ってた? 攫うってなにさ」


なんだか、噂に尾ひれが付いているような……。


「なにしらばっくれてんだよ! 攫われてったじゃねぇか! おまえ、エンデ先輩と知り合いだったのか!? 生き別れた兄弟とか!?」

「俺ら、ほんとびっくりしたよなぁ。あの有名人とネモが付き合ってたなんて」

「復学早々、見せつけられたよな!」


「待って待って待って、なんかめっちゃ盛られてない!?」


クラスの男子どもが言ってることは、どれもこれも的外れもいいところだ。

というか、それを信じてしまう人もいるだろうから、本当にやめてほしい。


「でも、なんで教室まで来たの?」

「課題を見てやれって、ある人から先輩が言われたから、仕方なくだよ」

「ある人って、誰よ?」

「シャノン・ラース先輩」


私の言葉に、周りにいた男子がまたしても騒ぎ出した。


「は!? ネモ、ラース先輩とも知り合いだったのか!?

おまえ、ただもんじゃねぇな!」

「ええ、あの人も有名人なの?」

「いまの第五学年って、チート集団の中でも突き抜けてチートな魔法を使うって有名だよ。

おまえ、中等部からの持ち上がりの癖に、名前も聞いたことなかったのか?」

「うーん……言われてみれば、すごいチートな人がいるって聞いたことはあったけど、名前までは知らなかったや」


学年も離れているし、自分のことで精いっぱいで、先輩方にそこまで興味がなかったのもある。

しかし、昨日一日でそんな有名人たちと一気に知り合ってしまったとは……。

この流れだと、もう一人いた召喚科の先輩もすごい人な気がするけど、ややこしいから黙っておこう。


勝手に騒ぎ立てる周囲の言葉を、必死で訂正しているうちに、朝の授業が始まってしまった。

昨日出しそびれた契約届を事務局に届けに行こうとしていたのだけど、次の休み時間まで持ち越しになってしまった。



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