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再会した先輩は心が壊れていました。~執着が止まらないなんて聞いてません~  作者: piyo
第七章 彼の失踪編

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65.秘匿にされた情報は、自ら手に入れなければなりません。

朝一番にクロに乗って二人で軍事施設へと移動する。


ぐるりと高い塀で囲まれた施設に着くと、まず始めに受付まで行き、事前にアポイントメントを取ってある旨を伝えた。

身分証の提示、それから武器の携帯が無いか身体チェックを受けた後、事務室のような場所へ通された。


その際、制御具の着用を強制され、ここが()()()()()()()なのだと嫌でも思い知らされた。




「あの、今、なんと?」


私たちの向かいに座る事務員に向かって、問いかける。

――なぜなら、彼女が告げた内容が何一つ理解できなかったから。


眼鏡をかけた冷たい印象の軍服の女性事務員は、先ほどから何一つ表情を変える様子はない。

彼女は何度繰り返しても同じだと、無表情に淡々と言った。


「ですから」


「ダリオ・エンデという受験者がいた記録はありません」


「試験地はここの敷地内で、今は焼け野原となっている"イリス平原"は、試験地とは何ら関係がありません」


まるで魔法で行動を強制されてるのかと思うくらい、目の前の彼女は先程と同じ内容を寸分違わず告げる。


「そ、そんなはずはありません!」


そんな馬鹿なと、椅子から立ち上がって声を張り上げた。


「彼は、学園の他の生徒とともにここへ来て、試験を受けていたはずです。

このことは、他の試験者からも確認が取れています……!」


(それなのに……そんな受験者はいない、だなんて、一体どういうこと?)


行きは先輩と一緒に列車で試験会場に向かったし、宿泊場所でも顔を合わしているとラース先輩伝いで他の受験者から話を聞いていた。


目撃者がいるのにも関わらず、なぜこんな堂々と嘘をつくのだろうか。


「僕からも追加で質問があります」


それまで私たちのやりとりを黙って聞いていたラース先輩が、ようやく口を開いた。


「他の志願者たちからも、確かにイリス平原で試験が行われたと聞きました。

それなのに、関係がないとは――入隊試験は二拠点で行われたんでしょうか?」


さすがラース先輩だ。感情を押さえ、突くべきところを冷静に突いた。


「いいえ、入隊試験はここ一箇所のみです。おそらく、その方たちが思い違いをなさっているのでしょう」

「そんなはず」

「――いいですか」


なおも食い下がろうとする私に、

事務員の冷たい声が響いた。


「思い違いをなさっているのです」


「思い違いを」


「――それが、事実です」


軍人ならではの圧と、有無を言わさない物言いに、思わずごくりと息を呑む。


これで話は終わったと思ったのだろう。

事務員は席を立ち、締めに入った。


「……では、お聞きしたかったことがそれだけなら、お引き取りを。ここは学生が長居するような場所ではありませんので」


彼女が扉を開け、私たちの退出を促す。

まったく納得がいかないが、私たちもこれ以上居座ることも出来ず、渋々立ち上がって扉へ続く。

ラース先輩が事務員の横を通り過ぎる際、彼は彼女に向かって静かに問いかけた。


「――ダリオ・エンデはイリス平原を施設ごと破壊でもしましたか?」


その瞬間。


ほんの僅かに、空気が震えた気がした。


「何のことかわかりかねます。お引き取りを」


抑揚の無い声で促され、今度こそ部屋を出ていく。

私たちに向かって「お疲れ様でした」という事務員に、私もひと言返した。


「私、彼を探します。私の一生をかけても――」


彼女は何も返事をせず、私の方を見もしなかった。

私も反応が返ってくることは期待してなかった。


けれども――今回、ここへ来て確信したことで、自分の中で決意表明をしたかったのだ。


(ダリオさんは――軍の中にいる)


おそらく、ラース先輩もそう思っていることだろう。

ただ、これ以上の情報を得られそうもなく、制御具も嵌められている今、私たちがここで出来ることは何もない。

確かな決意を胸に、私たちは施設を後にした。





軍施設からほど近い町に立ち寄り、飲み物を買って広場のベンチで二人休憩する。


「お疲れ様」

「お疲れさまです」


どちらからともなくジュースカップをこつんと突き合わせる。

お互いに収穫があったと思ったからこその乾杯だ。


「百パーセントではないけど……良かったね」


ラース先輩の言葉に、ふわりと頬が緩んだ。

何が、と言わなくても、言いたいことはちゃんと伝わっていた。


「はい。ダリオさんは――たぶん、生きてる」


ジュースを一口含み、身体中に水分を生き渡らせる。

さっきまでいた事務室ではお茶すら出なかったので、歓迎されていないのは明らかだった。


「でも、なんで"いないもの"扱いされてるのかが謎です」


「だよね。アイツ、なんかやらかして、いま牢屋にでも繋がれてるの?」


「それくらい大事だと、学園に連絡があったり、新聞沙汰になっていると思うんですけど……。

イリス平原の現状を含め、外には情報が一切漏れていないんですよね……」


試験地すら別の場所だったと見え見えの嘘までついて先輩の存在を隠そうとするなんて、果たして彼らの目的は何なんだろう。


(そこまでして、ダリオさんを軍で囲いたかった?)


意図が見えない。

見えないからこそ、言いしれない不安が全身を付き纏う。


「軍もだけど……間違いなく、ダリオも一枚噛んでるよね。早期卒業なんて、本人が必死こいて準備しないと、普通できるものでもないし」


「確かに、そうですよね……」


謎は深まるばかり。

ただ、一つ言えるのは――


「でも、良かった」


手に持っているジュースカップを見つめ、ぐっと両手で握り込む。


「――生きてる」


改めて口にすると、余計に実感が籠った。

今まで張り詰めていた緊張がゆるゆるとほどけ、全身の力が抜けていくのを感じる。


ラース先輩を見ると、彼も安堵している様子で「うん」と言葉少なに喜びを噛み締めていた。



ジュースを飲み干したところで、時間が許す限り二人で町の中の情報収集に向かう。

最初に聞き込みをしたのは、さっき立ち寄ったジューススタンドのおじさんだ。


「え、入隊試験? ああ、近くの基地でやってたやつね」

「そこが筆記や面接の試験会場で、実技はイリス平原で実施されたはずなんです。志願者たちがそっちへ移動してる姿とか見かけたりしました? つい一カ月前ほどのことなんですが……」

「うーん、どうだろう。イリス平原までここから離れてるから、移動するとしたら軍の魔導バスなんだろうけど、そんな何台も同じ方向へ向かう姿は見てないかなぁ」

「そうですか……。わかりました、ありがとうございます」


別の場所でも同じように、次々と聞き込みをしていく。

けれど、返ってくるのは似たり寄ったりな返答ばかり。


ただ唯一、夜は酒場として経営している食堂の店員の反応だけは違った。


「イリス平原って今は焼け野原のあそこでしょ? ほんの少し前までは、花が咲いてるのどかな場所だったのに……あそこの残党が出てから、ねぇ……」

「残党? それって何のですか?」

「何のって、もちろん、ガラナの兵士の生き残りよ。まさか軍の施設が近いこんな場所に現れるなんて! 幸い、軍の人たちが一掃してくれたらしいけど、本当物騒だわ」

「あ、あの……あなたはどこでその情報を」

「ああ、お客さんから聞いたのよ。ここ、軍の人たちがよく夜に飲みにくるから」


その後も聞き込みを続けたが、食堂の店員ほどの情報は得ることが出来なかった。

再度広場に戻り、聞き込みで得た情報をまとめていく。


「入隊試験はイリス平原で実施されたかどうかはわからない。けど、ガラナの生き残りが現れて、それをイリス平原で一掃した」


ラース先輩が淡々と続ける。


「一掃したときに、ダリオが偶然居合わせたのか、

それとも、そのこととは関係なく、ダリオがあそこで魔法を使ったのか」


うーんと頭を悩ませるラース先輩に、自分の意見をぶつけた。


「経緯はわかりませんが……。

私は、ダリオさんがイリス平原を丸ごと焼け野原にするくらいの威力で、ガラナの残党を殲滅した可能性が高いと思いました」


遠征授業では最前線に放り込まれていた火力の持ち主だ。

実際、イリス平原には先輩の魔力痕跡ばかりが残っていた。


「ねえ、ラース先輩」

「ん、なんだい?」

「私が――軍に入ったら、ダリオさんにまた会えるかな」


「え」


私の言葉に、ラース先輩は口をぽかんと開け、心底びっくりした顔を私に向けた。


(そこまで驚くこと!?)


「え、ってなんですか」

「いや、誰よりもめちゃくちゃ向いてないのに、何言い出すんだろうと思って」

「そこまではっきり言わなくても!」


私だって、向いてないということは十分わかってる。

これまで軍の就職だけは、絶対に有り得ないと思ってきたのだ。


「でも、たとえ向いてなくても――内部事情を調べるためには必要ですよね?」


私が不貞腐れつつ問うと、ラース先輩は顔を顰める。


「軍に潜り込んだとしても、内部事情がわかるとは限らないよ。しかも、大規模な嘘までついて隠そうとしてることに辿り着くには、それ相応の立場や地位、それから運も必要になる。それは砂漠で小石を見つけるようなもんだ。

それでも、――君は自分の将来を曲げてまで軍に入りたいと思う?」


「……はい」


はっきりとした声で告げた。


「将来を曲げてでも、可能性に賭けたい」


もう、迷いはなかった。


「私、へっぽこだし、たぶん入隊したところで戦力外の部門に配属になると思うんですが……、

それでも。

何もしないより、マシだと思うんです」


(ダリオさんにもう一度会えるなら、全力で頑張れる)


まるで、中等部のとき、頭の片隅にもなかった魔法学科に進路を決めたときのようだ。

今はそれが、考えもしなかった軍への入隊に燃えている。


両方とも――あの人がきっかけで。


「ネモは、すごいよね……。他人のためにそこまで決意を固められるなんて」


ラース先輩の言い方に嫌味な感じは含まれておらず、純粋にそう思っているように聞こえた。


「ただ、これは俺の勘だけど――」


彼は目を伏せて続ける。


「戦力外の配属だと、ダリオからは遠ざかると思う。

もし本当にダリオが軍にいるとなると、間違いなくアイツがいるのは最前線の戦闘部隊になると思うから」


「た、確かに……」


「そこで、だ。将来を賭けた博打になると思うけど、

――聞く?」


ラース先輩はほんの少しばかり喜色を浮かべ、こちらへ提案を持ちかけてきた。


(うわっ、めちゃくちゃ怪しい……)


けれども、気になる。

うまいこと彼に誘導されている気もしたけど、ここは素直に頷いた。


「はい、聞かせて下さい」


私の返事に「いいね」と言って、彼は一つの案を提示した。


「異学年交流授業しか見てないけど……

はっきり言って、ネモの性質は、根本的に攻撃系には向いてない」


「……知ってます」


そんなこと、本人が一番わかっている。

どれだけマシになろうと、やはり炎属性の魔法は苦手だし、攻撃に欠かせない風魔法との合成はもっとも苦手としている分野だ。


「だけど、防御に関しては目を見張るものがある」

「え」

「クロの手助けがあったとはいえ、ダリオの灼熱を防いだくらいだ。あれは誇っていいレベル」


(あれ、もしかして褒められてる?)


チート先輩から誇っていいとまで言われたら、多少盛っていたとしてもその気になってくる。


「それに、君にはクロがいる。フェンリルが契約獣なのはかなりデカい。君が苦手な攻撃を、彼で補うことが出来るんだから」

「なるほど」

「そこで、俺がネモの立場ならこうする」


先輩が人差し指を立て、くるくると回して告げる。


「まず、ひたすら防御魔法を伸ばす。それから、」


指を二本に変え、続きを話す。


「フェンリルを自在に扱えるよう魔力貯蔵量を増やす、もしくは魔力を節約する方法に力を注ぐ」


最後に指を下ろし、両手をパンっと叩く。


「すると、なんということでしょう!」


それから大げさにくるりと私の方へ両手のひらを向けた。


「攻守最強の軍人の出来上がりだ。戦闘部隊では驚くほど重宝されるだろうね」


「おお……!」


思わず感嘆の声が漏れる。

ただ――聞くだけでは素晴らしいのだけど、それを自分が、となると別の話だ。


(私、そんな人目指せる?)


「出来るかどうかじゃなくて、やるんだよ」

「だから、人の考えを読まないで下さい」


どいつもこいつも、私の頭の中を勝手に覗かないで欲しい。


「俺も、在学中は協力を惜しまないよ」

「卒業後は?」

「自分で頑張れ」

「ですよね……」


項垂れる私に、ラース先輩が笑いを漏らす。


「嘘だよ。ちゃんと卒業しても付き合う」


彼はほんの少し眉を下げて言った。


「――俺もまた、ダリオに会いたいんだ」


その声音には切実さが滲んでいて。


(ああ、――私たちは同志だ)


心の中で、そう理解した。



このあともう一話更新します。

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