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再会した先輩は心が壊れていました。~執着が止まらないなんて聞いてません~  作者: piyo
第五章 すれ違い編

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44.距離の近い後輩オーレリア(2)

「ネモ、俺が食堂まで連れて行ってあげるよ」


「え? いや、悪いよ」


昼休みになり、売店に向かおうとしていたところで、ユリシスに呼び止められた。


午前中に捻った足首は痛いけれど、歩けないこともない。

だから売店でさっさと買って、教室で食べようと思ってたところだ。

キアラはハイマー先生の雑用を押し付けられ、昼は別でとろうと言っていた。


「でも、今日の日替わりランチ楽しみにしてたでしょう? 鶏の唐揚げ」

「それはそうだけど」


今日の日替わりランチを前々から楽しみにしてたのは事実だ。

ただ……食堂に行って、列に並んで、席を見つけて――と、足に負担がかかりそうだと思い諦めていたところだった。


「遠慮しないで。身体強化使ったらまったく疲れないし、あれそんなに魔力も消費しないし、ね?

一緒に唐揚げにありつこうよ。今日逃したら、次にお目にかかれるのは一か月くらい先になっちゃうよ」


「うーん……じゃあ、お願いしようかな」


食べ物の誘惑にあっさり負けた。

やっぱり、売店のご飯より、食堂の温かいご飯のほうが断然美味しい。

日替わりでしか出てこないジューシーな唐揚げを思い浮かべると、口の中がもうそれしか考えられなくなっていた。


じゃあ早速肩を貸してもらうかと席を立つと、なぜかユリシスが目の前に背を向けて屈んだ。


「? 何やってるの?」

「何って、おんぶ待ち」

「えぇっ!? いや、ちょっと肩貸してくれるだけでいいから!」


(おんぶって、そんな大怪我したわけじゃないんだし、いまはちゃんと包帯で固定されてるからなんとか歩けるのに)


大袈裟すぎると断るも、なぜか近くにいたクラスメイトはユリシスの味方だった。


「捻挫のときってあんま動かさないほうがいいから、素直におぶさっとけよ」

「それな。俺の兄ちゃん、無理に歩いた結果、複雑骨折みたいになってたことあったわ」

「ユリシスの好意無駄にすんな。ここは甘えとけ」

「えー……」


ユリシスを見ると「ほら」と催促されてしまう。


(これ、断ることできないやつじゃん……)


「じゃ、じゃあお言葉に甘えます……」


躊躇いつつ、そっとユリシスの背中に身体をつけ、後ろから首へと腕を回す。


「いくよ」


膝の後ろを掴まれ、身体が持ち上がった。

長いローブを着てるから、肌に直接ユリシスの手があたることはないけど、それでも身体の密着具合に嫌でもドキドキしてしまう。触れている背中は、見た目よりもガッシリしている。


(今日お姫様抱っこされたときも思ったけど……しっかり筋肉ついてるなぁ)


ユリシスが顔を後ろに向けると、その距離の近さにさらに心臓が跳ねた。


「ちゃんと掴まっててね」

「う、うん」


私の返事にユリシスは足を進め、食堂までの道をゆるく駆けていく。

道行く人は、何してんだコイツら?という目を向けてくる。


(ああ、ユリシスに申し訳ないのと同時に、めちゃくちゃ恥ずかしい……)


思わずユリシスの背中に顔をピタリとくっつけて顔を伏せると、一瞬彼の身体がビクンと跳ねた。


「ネ、ネモ。どうしたの?」

「え……えと、恥ずかしくて。めっちゃ見られてるから」

「もうすぐ着くから大丈夫だよ」


一年の教室から食堂まではわりと近いはずなのに、今日は二倍以上の距離に感じる。


幸い、自分はまだクラスメイト以外の知り合いは少ない。

だから、ちょっと恥ずかしいくらいで今は済んでるけど――


(エンデ先輩には見られたくないな……)


変な誤解をされそうだし、きっと呆れた目を向けてくるに違いない。同級生に何させてんだと。




――こういうとき、全くついてないのが私だったりする。


「あれ、エンデ先輩?」


食堂に入って、空いてる席を探そうとしたところで、ユリシスの口から先輩の名前が溢れた。


(うそ!? まさか……)


「ノルティマット」


でも、この低い声の主は、間違いなく――


このまま背中に隠れてやり過ごしたいと思ったけれども、そうもいかないだろう。

おずおずとユリシスの肩越しから顔を覗かせる。


すると案の定、呆れた目をこちらに向ける先輩の姿があった。

そして――先輩の隣にいる人を見て、身体が固まった。



ストロベリーブロンドの長い髪をしたスレンダー美人の女子が、エンデ先輩の身体に密着してこっちを見ている。


(誰? 腕……組んでる。しかも寄りかかって――先輩も嫌がってないし)


突然のことに、頭が真っ白になる。


その人が私たちのことを紹介して、とエンデ先輩に言い出し、先輩はそれぞれの名前を呼んで互いに顔合わせする。


「ふふ、異学年交流授業で会えるのを楽しみにしてるねー。それじゃあおんぶのままだとツライと思うから、私たちは行くね。さ、ダリオ先輩、テラス席をゲットしますよ」


(ダリオ先輩って、名前で呼んでる)


二人は腕を組んだまま、テラスの方へと去ってしまった。

あまりの二人の距離の近さに見ていられなくなり。彼らから視線をはずした。


「ネモ、この席に一回降ろすね」


ユリシスに言われ、ハッとする。


「ありがとう」


やっと床に足がつき、椅子へ腰かけた。

すると、ユリシスが「詰めて」と言うので席をずらすと、彼は私の横に腰を掛ける。

いつもだと向かいの席に座るから、あれ?と思ってしまった。


「ちょっと休憩」

「いくら身体強化使ってても重かったでしょ。ごめんね」

「うん、重かった。肩凝ったー」

「もー! 正直過ぎる! そこは綿のように軽かったでしょ!」

「普通そこは、"羽根のように"じゃないの?」


ははっとからかうように笑うユリシスをぽかぽかと小突く。

彼は私のぽかぽか攻撃を受け入れつつ、そのまま立ち上がった。


「いまからネモの分まで日替わりランチ買ってくるから、ここで待ってて」

「ユリシスが優し過ぎる……じゃあ、今日は甘えまくります」

「はは、任せて」


日替わりの列に向かうユリシスの背を見送ると――無意識のうちにテラスへ目線を向けた。

日差しの差す席に、オーレリア先輩だけが席についていて、エンデ先輩の姿は見えなかった。


(先輩も、オーレリア先輩のためにランチを並びに行ったのかな……)


膝の上でぐっと手を握る。


――なんだ、支えになる人はちゃんといるじゃないか。


クロでも、私でもない。

彼にとっての身近な人。


ここ数日、呼び出しがなかったのも……もしかしたら、オーレリアさんという彼女ができたから?


「……」


胃の中に砂が入ったようにザラザラする感じがする。


せっかくの日替わりランチは食べ切れないかもしれない。

――それくらいに、変な気分になっていた。



と、下を向いていた視界の中に、誰かの足が入り込む。



「ネモ」


(え……?)


突然、名前を呼ばれドキンと心臓が跳ねた。

聞き覚えのある声に、まさかと期待で上に顔を上げると――


目の前に立っていたのは、

無表情にこちらを見降ろすエンデ先輩で。


「足、見せてみろ」


「え、あ、はい」


言われるがまま包帯を巻いている足をさっと差し出す。


先輩はじっと私の足を見たあと、「どの辺?」と聞いてきたので、痛みの場所を指差した。


「わかった」


(あ、制御具……)


先輩は指に嵌めいた制御具を全て外し、テーブルの上に置いていく。

それから、身をかがめて私の足に手を添えた。


先輩の低い声の詠唱が耳に届く。

それとともに、触れている部分にじんわりした温かさが伝わっていく。


フワッと一瞬淡い光が漏れたあと「ん」と先輩が呟きを漏らして立ち上がった。


「あの、今の……」


「これで立てるし、歩けるはずだ。治療室の連中は自然治癒がいいとか言ってたらしいけど、それだと帰りが困るだろ」


「それは、確かに……」


帰れないこともないが、着いた頃には確実に負荷がかかって痛みが増していたことだろう。

ぽかんとしながら治してくれた足首を見ていると、先輩は机に置いていた指輪を再度嵌めながら言った。


「俺も早く日替わりの列に並ばないと――売り切れたらオーレリアにシバかれる」


先輩は指輪を全部嵌め終わると、手を振って私の前を去っていく。


「あ……」


私は何も言葉を返すことができなかった。

足首を上下させてみるが、ずきんとくる痛みがない。


(足、治してくれた――)


もはや彼がなんで治癒魔法を使えるかなんて気にならなかった。

触れられた部分が、熱い。


そして一番大事なことに気付いた。


(げ、私、お礼言うの忘れてるじゃん!!!)


ああ、とテーブルの上に項垂れる。


――でも、おかげで口実ができた。


(今はオーレリア先輩の邪魔になる。放課後……私から呼び出して、お礼を言おう)


もし二人が付き合ってるなら、断られるだろう。

それならそれでよかった。

気持ちに区切りができるから。


(よし)


さっきまで落ちていた気分がみるみるうちに上昇していく。


(日替わりランチ、完食できそう!)


その後、ユリシスに買ってきてもらったランチは思ったとおり全て完食し、なんなら大盛りにしてた一つユリシスからお裾分けも貰って、嬉々とした気分で教室へ戻っていった。



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