第81話 え、パパが勇者!? 森の奥で五メートルの巨獣と密談!? 百匹の猿に包囲されて絶体絶命かと思いきや大歓声ー!?
温泉宿の廊下に、場違いなほど明るい声が響いた。
亮「よーし! お猿さんとお話しだー!」
あんな「パパ、正気? 相手は動物だよ? どうやって言葉を交わすつもり?」
亮「言葉はなくても、気持ちが通じれば大丈夫さ。ほら、もっふるとだって仲良しだろ?」
あんな「それはもっふるが特別なの! 」
みゆ「理解不能。でもそれがパパ」
ベアトリス「さすがでございますわ!魂の共鳴ですわね!」
もっふる「ピィー♪」
あんな「で、とりあえず何するの?説得? それとも餌付け?」
亮「温泉に入る!」
あんなとみゆが、同時に顔を見合わせた。
あんな「……え?」
みゆ「……意味不明。思考停止」
亮は鼻歌まじりに宿の浴場へと向かった。
湯船に浸かると、そこにはすでに十数匹の猿が、人間と同じように肩まで浸かって寛いでいる。
亮はその中心にどっかりと座り、隣にいた小猿の頭を優しく撫でた。
亮「お猿さん、なんで温泉に来るんだ?」
猿「キィ、キィ、キィー!」
猿「ウキー、キィ!」
亮「うーん、何言ってるか分からん!」
だが、一匹の年老いた猿が亮の正面に立ち、その長い腕で窓の向こう、鬱蒼と茂る森の深部を指差した。
猿「キィ、キ、キィー!」
亮「お! なんか知らないが、あっちに何かあるんだな!」
猿「キィー!」
亮「よし、待ってろ!」
湯から飛び出した亮は、濡れた体のまま着替えを済ませ、部屋へと駆け込んだ。
あんな「パパ、出かけるの?」
亮「おぉー、お猿さんとな!」
あんな「え? お猿さん?」
みゆ「……異常事態」
もっふる「ピィー?」
あんな「もう、着いていくよ」
みゆ「ですね」
ベアトリス「なら、私もですわ!」
もっふる「ピィー!」
玄関を出ると、
猿が二匹、まるで案内役のように待っていた。
猿「キィー!」
亮「こっちだな!」
二匹の猿が歩き出す。亮がその後ろを迷いなくついていく。
神崎家はそれぞれ顔を見合わせながら、最後尾を歩いた。
森へ足を踏み入れると、その異様さはさらに増した。
木々の枝、岩の陰、道端。至る所に猿が静かに佇んでいる。
あんな「……ねぇ、お猿さんの数、さっきより増えてない? 完全に囲まれてるんだけど」
亮「こんなにたくさんいたんだなー! 歓迎されてるみたいで嬉しいぞ」
あんな「パパ、本当に大丈夫なの?」
亮「大丈夫だよー!」
みゆ「……現在の平穏が維持される確率、わずか5%。あとの95%はパパ特有の『結果オーライ』に依存」
ベアトリス「さすがですわ!」
もっふる「ピィー!」
森の奥に、巨大な岩山がそびえていた。
その上に――
身長五メートル級の巨猿が、どっしりと腰を下ろしていた。
亮「おおー、デカい! あれがお前たちのボスか? 案内ありがとう♪」
みゆ「……鑑定。グラニット・コング。Bランク。知性あり」
あんな「ちょっと待って、あれを相手に『話せばわかる』なんて本気で言ってるの?」
ベアトリス「心配ご無用ですわ! 私がまとめて倒して差し上げますわ!」
亮「いや、話せば分かる。今でも攻撃してこないのが証拠だよ」
みゆ「……戦闘意思なし。パパを見てる感じも、敵意じゃない」
あんな「……じゃあ、見守るしかないか」
そう言って、亮は岩山を登り始めた。
周囲の猿たちが道を開ける中、ボス猿の隣に友人のように腰を下ろした。
しばらく、二者は黙ったままだった。
風が吹いて、木々がざわめく。
その時、岩の隙間から、怪我をした一匹の子猿がひょこっと顔を出した。
亮「そっかー……お猿さんも温泉に入って、怪我を治したいのかー」
気づけば、岩山の周りは猿だらけ。
数十匹、いや百匹はいる。
亮「これだけの数のお猿さんを束ねるボスはすごいな!みんなのこと、ちゃんと見てるんだな」
ボス猿「ウホ!」
ボス猿はゆっくりと、枯れ果てた大地の一角を指差した。
そこには、かつては滾々と湯が湧き出ていたであろう、岩風呂の跡地があった。
みゆ「……推定。この村に温泉を掘り当てた際、水脈が移動。その影響でこちらの源泉が完全に遮断された可能性大」
亮「そっか! 俺の責任だな。村に温泉ができたせいで、ここの温泉が枯れてしまったんだな!」
ボス猿「ウホォォォォォ!!」
その叫びは、
怒りでも威嚇でもなく――
悲しみと訴えの混じった声だった。
亮「よし! 安心しろ! もう一回、この山にも温泉、作ってやるからな!」
ボス猿「ウホォォォォォ!!」
その声に、森中の猿たちが一斉に叫び返した。
ウキーーー!!
キィーーー!!
ウホーーー!!
亮の言葉に応えるように、森全体が揺れるほどの歓声が上がった。
あんな「……パパ、本当に話通じてるの?」
みゆ「……解析不能。でも……通じてる、としか思えない」
ベアトリス「さすがパパですわ!」
もっふる「ピィー♪」
こうして――
亮の無鉄砲な優しさが、ボス猿との間に言葉なき約束を生んだ。
温泉を失った猿たちのために、種族を越えた空前絶後の大工事に、
ツッコミどころ満載な、家族の異世界スローライフ(?)の、
名のもとに、今まさに幕を開けようとしていた――。
前代未聞の「大名行列」が森を練り歩く!? なんと、亮の適当すぎるダウジング(?)が、枯れた源泉を奇跡的に呼び覚ました!
猿たちの狂喜乱舞が響き渡る中、パパがボス猿に担ぎ上げられ「猿の王」に即位!?
次回、第83話 え、パパが勇者!? 娘たちの超高度な水脈調整をスルー!? 結局『ただの温泉好き』で押し通す無自覚無双ー!?
家族全員が岩山の頂へ! 異種族間のわだかまりを溶かす、パパの規格外な交渉術(?)が炸裂する!




