第313話 え、パパが勇者!? 村が近代的!? 見知らぬ住民の正体は!?
神崎家は、青々とした大草原の中をまっすぐに歩き続けていた。
爽やかな風が草の波を揺らし、果てしなく続く緑の絨毯を踏みしめて進んでいく。
遠くに見えていた小さな村が、歩を進めるごとに少しずつ近づいてくる。
やがて、建てられている建物の形や道路の様子まで、はっきりと肉眼で捉えられる距離になった。
亮「おお、確かに今までの村と雰囲気が違うな」
亮は眩しそうに目を丸くしながら、街道の先を見渡した。
あんな「うん。建物もずいぶん整っているね。なんだかカチッとしてるというか……」
みゆ「道路の幅も一定ですし、建物の配置にも規則性がありますね。計画的に作られた街並みです」
ベアトリス「村というより、小さな街のように見えますわ!」
もっふる「ピィー♪」
村の入り口へ近づくにつれて、神崎家の面々は驚きを隠せなくなっていった。
それもそのはず、村へと続く道は、中世風の石畳でもなければ、よくある泥や土が露出した未舗装の悪路でもなかった。
亮「それにしてもこの道、すごく綺麗だな……」
あんな「えっ……待って、これって……!? 今までと全然ちがうよ。なんだか日本の道路みたいじゃない!?」
目の前に伸びているのは、凹凸や継ぎ目がほとんど見当たらない、滑らかに整えられた舗装路だった。
黒みがかった頑丈な路面が、吸い込まれるように村の中へと一直線に続いている。
みゆ「驚異的です。どのような技術と材質で舗装されているのでしょうか。硬度や摩擦係数も、アスファルトに酷似しています」
あんな「あっちに並んでる柱……もしかして街灯かな……? 電柱みたいに見えるんだけど……」
亮「すごいな……。まさか異世界でこんな道路を歩くことになるとは思わなかったぞ」
やがて、神崎家は村の整然とした入り口へと完全に足を踏み入れた。
綺麗に舗装された道路の左右には、モダンで清潔感のある建物が整然と立ち並んでいる。
中世ヨーロッパ風のファンタジー世界を旅してきた神崎家にとって、その光景はあまりにも異質だった。
亮「……ここ、本当に同じ異世界なのか?」
あんな「私もそう思っちゃった。あの地下通路を抜けたら、全然別の世界に着いた感覚だよ」
みゆ「少なくとも、私たちがこれまで訪れた王国や獣人国、ドワーフ国とは、生活環境や文明レベルが大きく異なるようです」
ベアトリス「一体どこの国なのでしょう? わたくしもこんな街並みは見たことがありませんわ!」
みゆ「少なくとも、今まで訪れた国ではないということだけは明確です」
亮「これだけの近代国家だ。これは絶対に……」
亮は拳をギュッと握りしめ、力強く頷いた。
あんな「絶対に……何?」
あんなは唾を呑み込み、父の真剣な横顔を見つめた。
亮「お米があるはずだー!」
あんな「あ……そっちなのね」
みゆ「完全に意表をつかれました」
あんな「パパのことだから、スローライフだーと叫ぶと思ったよ」
亮「ふふふ、あまいな。ワンパターンな男と思われるのもしゃくだからな」
あんな「……」
みゆ「……」
ベアトリス「お米ですわ! パパがよく語っておられた、あのツヤツヤした白いご飯ですわ! わたくしも食べてみたいですわ!」
もっふる「ピィー♪」
もっふるはベアトリスの言葉に賛同するように可愛らしく鳴いた。
あんな「でもまあ、この文明レベルなら、美味しい料理があるのは期待できるかもね」
呆れつつも、あんなは肩の力を抜いてクスリと笑った。
綺麗に整備された村の中へ進んでいくと、やがて通りを行き交う住民たちの姿が見えてきた。
その姿を目にした瞬間、神崎家は思わずピタリと足を止めた。
あんな「えっ……?」
亮「ん? どうしたあんな?」
あんな「パパ、あの人たち……」
あんなが指さした先にいる住民たちは、これまでに会った人間とは明らかに異なる姿をしていた。
頭部から小さな角が生えていたり、肌の色がかすかに青みががかっていたり、背中に小さな翼を有していたりと、一目で人間ではないと分かる特徴を備えている。
みゆ「人間ではないようです」
あんな「そうだね……。それに、獣人さんやドワーフさんたちとも全然違うよ」
みゆ「以前、王国の図書館で読んだ文献の記述と照合しますと……魔人、あるいは魔族の可能性があります」
あんな「魔族って……じゃあここって、魔王の国なの!?」
みゆ「その可能性は十分に考えられます。ただ、まだ詳しいことは分かりません」
亮「魔王国か……」
あんな「でもさ、こんなに静かで近代的な村が魔王国なんて、ちょっと信じられないよ。もっとドクロとか刺々しいお城があるような場所だと思ってたのに……」
亮「そうだよな。思っていたイメージとはずいぶん違うなあ」
みゆ「肯定です。こちらの世界でこのような近代文明が存在しているとは、私も想像していませんでした。まずは、この国について直接話を聞いてみましょう」
神崎家は顔を見合わせると、意を決して近くを歩いていた一人の住民へ向かって歩み寄った。
角を生やした落ち着いた雰囲気の住民に対し、亮がいつも通りの気さくさで声をかける。
亮「あの、ちょっといいですか?」
亮が声をかけると、その住民は足を止め、ゆっくりと神崎家の方を振り向いた。
神崎家の顔ぶれをじっと見つめた住民は、目を見開き、信じられないものを見るような表情を浮かべた。
住民「……あなたたちは、もしかして……」
その声には、単なる旅人に対する驚きとは明らかに異なる、特別な響きが含まれていた。
こうして――
神崎家は、これまで訪れた国とはまったく異なる文明を持つ魔王国で、最初の出会いを迎えた。
ツッコミどころ満載な、家族の異世界スローライフ(?)が
新たな国で幕を開ける!
人間だと判明した瞬間、大勢の住民が一気に集まり周囲を完全包囲。
緊迫した空気のなか、パパの規格外のマイペースさと娘たちの団結力が炸裂する。
次回、第314話 え、パパが勇者!? 住民に囲まれ大パニック!? 襲撃の恐怖がまさかの大歓迎!?




