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The Alter Story  作者: 水落護
第十章『夜になった日』
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第八十六話『夜になった日』

「起きて」「うわっ!!」ブランクはいきなり吹き飛ばされた。ごろごろ転がり、寝ていた場所から床へと落下する。何が起きたのかと状況を確認すると、すでに朝日が昇って久しいらしく、外はいつの間にか明るくなっていた。


「そろそろ起きてくれないと困るわ」

「お、おはよ……」


 おはよう、と毅然と応える彼女の姿があまりにもいつも通り過ぎて。服装もいつもの礼服に戻っているので、よもや昨日のことは夢だったのでは、とも思うのだが──。


(あっ……)


 ベッドには二人分のシーツがあり、それが夢でなかったと気がついた。


「昨日はお邪魔したわね。……お世話になった?」


 違うわね……とブツブツ何度も自分で確認してる姿に、ブランクは思わず笑ってしまった。


「……何がおかしいのよ」


 むすうっとふくれっ面でむくれるものだから、ブランクはすかさず「いや、違うんだ」と間髪入れずの否定をする。


「嬉しくてさ」

「……何が?」


 愛らしく首を傾げる少女。ブランクの胸には、言い知れぬ満足感があった。昨晩の彼女は明らかに限界だった。擦り切れそうな布のようなボロボロの精神で、いつ泡を吹いて倒れてもおかしくはなかった。


「あなた……ニヤニヤしてて気持ち悪いわね」

「ふふっ、そうだね」

「……あなた、やっぱりとんだ変態だわ」


 彼女は闇を乗り越えた。深い眠りに落ちて、その傷を癒して朝を迎えた。それは、自分が彼女の夜になることができた証であるからだ。


「さっさと理由を言いなさいよ、ご主人様の命令よ?」

「やだよ、それに僕は形だけの召使いなんでしょ?」


 ブランクが意地悪く口角を釣り上げると、エレノアはむむむと口を尖らせた。


「あなた、とってもいい性格してるわね。尊敬しちゃう。しないけど」

「どっちなの?」


 ブランクがそうやってからかうと、エレノアはいいから、とずいと歩み寄る。


「教えなさいよ、早く」

「んー。あっ」


 ブランクは寝る前の出来事を思い出した。


「確か……僕の名前を呼んでたかな」

「なっ……!!」


 エレノアの顔が一気に真っ赤になった。それはもう熟れた果実のように。そして次の瞬間、対照的にブランクの顔が真っ青になった。大気が悲鳴をあげて避けた正拳が、顔面めがけてやってきたからだ。ブランクは鼓動を猛ダッシュさせながら、冷や汗かいた。


「な、何すんのさ!」

「忘れなさい、今すぐ。いいえ、忘れさせてあげる!」


 エレノアはずんずんとブランクに歩み寄ってくる。ブランクはぞっとした。巨大な魔物も殴り飛ばせる彼女の拳を受けるなど、自分の頭など卵の殻のように容易く割れるだろう。


「ちょ、ちょっと水汲んでくる!!」

「待ちなさいッ!!」


 扉を蹴破った少年と少女は、たちまち屋敷の中で追いかけっこを始めた。それを見届けたグエンがぽかんと大口開けて固まる。それから、一言。


「まあ、なんだ。一件落着ってやつか?」


 屋敷の中はしばらく賑やかだった。

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