入学式の朝
入学式の朝、慌ただしい二つの家
広島の旅から数日。4月の空気はまだ少し冷たいが、街路樹の桜は七分咲き。新学期の匂いを孕んだ朝がやってきた。
――温也の家。
台所ではお母さんが慌ただしく弁当を詰めている。炊き立てのご飯の湯気が立ち上り、時計の針がせわしなく音を刻む。
「温也、ワイシャツの襟、曲がっとるよ!」
「うわ、ホンマや。お母さん、アイロン頼む!」
廊下の奥から、制服に着替えた妹・泉が緊張の面持ちで現れる。
「お母さん、リボン結びがうまくできん……」
「貸してごらん。はい、これで大丈夫。胸張って歩きんさい」
今日は温也の高校入学式と、泉の第一中学校入学式が重なる日。お父さんは泉の式へ、お母さんは温也の式へ向かうことになった。玄関にはカメラと式次第が二通。靴を履く音が重なり、家族は笑い合いながら二手に分かれた。
――郷子の家。
姿見の前で、郷子がブレザーの肩を指で整える。お母さんはコサージュを手渡し、望が胸ポケットの校章の向きを直してやる。桜は新しいヘアピンを差し出した。
「これ、春らしいやろ。似合っとるよ」
「ありがとう。昨日の広島のことも思い出して、しっかり胸張っていくね」
食卓には味噌汁の湯気。テーブルの端には両親からの小さな手紙が置かれていた。
《おめでとう。深呼吸して、一歩ずつ。》
郷子はその手紙を胸ポケットに入れ、力強く「いってきます」と声を上げた。
二つの入学式、同じ春の空
――山口農林高校。
校門には白い看板が立ち、桜の花びらがひらりひらりと舞う。体育館の壇上には校旗が掲げられ、吹奏楽部のファンファーレが新入生を迎える。
温也は新しい制服の袖口を握りしめながら、校長の言葉に耳を傾ける。
「地域とともに歩み、土とともに学びなさい」
その瞬間、彼の脳裏には広島で見た平和記念公園の静けさと、ピースウィングの芝生の緑が浮かんでいた。
(遠い世界の平和を願うことと、足元の土地を守ること。繋がっとるんやな)
出席番号が後ろの方の温也は、体育館の後方に座っていた。前方に見える郷子の背中は、いつもより硬く見えた。
(郷子も、緊張しとるんやろなぁ)
――山口第一中学校。
校庭の桜は満開に近く、真新しい制服の群れが朝の光に輝いている。講堂では在校生の吹奏楽部が入場行進を奏で、会場に張り詰めた空気が流れる。
泉は誓いの言葉を聞きながら、小さく息をのんだ。
「学び合い、助け合い、いじめを許さない」
昨日、郷子が話してくれた広島での祈りが胸の奥で響く。
(わたしも、中学で誰かをさりげなく助けられる人になりたい)
――同じ時刻、二つの体育館。
異なる言葉を受けながら、温也も郷子も泉も、それぞれの胸に未来への決意を抱いて背筋を伸ばしていた。
春の教室、始まりの出会い
入学式が閉じられ、教室へと移動する。
――第一中学校。
泉は列に並びながら、胸を押さえて名簿を覗き込んだ。
(ひろ君……同じクラスかな……)
そしてその名を見つけた瞬間、思わず声をあげそうになる。
(いた! 一緒じゃ!)
頬がふわっと熱を帯び、自然に笑みがこぼれた。スカートの裾をぎゅっと握りしめる手に力が入る。
「よかったね、泉」
隣の席の 香川美琴 が小声でささやいた。
泉は小さくうなずき、胸の奥で叫んだ。
(ヤッタ! ひろ君と同じクラス!)
二人は以前から「同じクラスになったらバドミントン部に入ろう」と約束していた。窓から吹き込む春風がひとひらの桜を舞い込ませる。泉はそれを見つめながら、未来の景色を思い描いた。
(ひろ君と、美琴と……一緒にラケットを並べて打ち合うんじゃ)
――農林高校。
「新入生起立」の声が響き、体育館に一斉に椅子の音が鳴った。温也も郷子も、それぞれの未来を胸に秘めて立ち上がる。
桜の下の合流、家族アルバムの一頁
式を終え、スマホに連絡が飛び交う。
《第一中、無事終了!》――お父さんからのメッセージ。添付された写真には、校門の看板の横で笑顔を見せる泉の姿。
《農林も終わった!》――お母さんからの報告。温也の背中が少し緊張して写っている。
《合流は湯田温泉の足湯前で》と郷子が返信する。
桜の花びらが風に舞う商店街。足湯前で「おめでとう!」と声を掛け合い、家族は再会した。写真タイムが始まり、笑い声が飛び交う。
望が小袋を差し出す。
「入学祝いに、桜のクッキー買うといたよ」
「おお、式のあとに甘いもんは最高やな」温也が笑う。
湯気がゆらゆらと立ち昇る足湯の縁に腰をかけ、桜の下で並ぶ家族の姿がカメラに収まる。紅白幕、制服、そして笑顔。
お母さんがふと、柔らかく言った。
「昨日の広島で祈った気持ち、今日からの毎日に生かしていこうね。平和って遠いことやなくて、身近な優しさで守れるんやから」
「うん」温也は短く頷いた。「まずは身の回りで」
泉も力強く続ける。「わたしも、隣の子を助けられる人になる」
郷子が笑いながら締めくくる。
「平和の第一歩は、落ちそうな体操服を拾うことかもしれんね」
一同が笑い、シャッターが切られた。桜の下の一枚は、家族アルバムの大切な1頁となった。
お祝いの食事会、春のひととき
湯田温泉の足湯前で記念撮影を終えた一行は、そのまま近くの和食処へ向かった。暖簾をくぐると、畳の香りと出汁の匂いがほっとするように迎えてくれる。
「今日は入学式やけん、ちょっと奮発してな」
お父さんが笑いながら座敷の奥へ案内する。
テーブルには祝い膳が並び、色とりどりの小鉢や刺身、ちらし寿司、そして桜色の和菓子が用意されていた。
「わぁ、すごい!」
泉の瞳がきらきらと輝く。温也も思わず口笛を鳴らした。
お母さんが杯を掲げる。
「それじゃあ、三人の新しい門出に――乾杯!」
グラス同士が軽やかに触れ合い、笑い声が広がる。
「温也、これから高校生活やな。部活はどうするん?」
お父さんが尋ねると、温也は少し考えてから答える。
「農林のサッカー部、ちょっと見てみたいなって思ってる」
郷子は箸を置いて、にっこり笑う。
「わたしは吹奏楽部にしようかな。広島で感じたことを、音にして伝えたい気がするんよ」
泉は待ってましたとばかりに声を上げた。
「わたしは美琴と一緒にバドミントン部に入るんよ! ひろ君も一緒に」
その言葉に家族はどっと笑い、泉の頬は桜のように赤く染まった。
「それぞれの春が始まるんやなぁ」
お母さんがしみじみとつぶやき、お父さんも深くうなずく。
祝い膳の湯気と桜の花びらの残り香に包まれながら、三人の入学を祝う食事会は和やかに続いていった。
新しい教室、新しい仲間たち
――山口第一中学校・泉のクラス
男子
仁保宇宙
「小学校からバドミントンをやっていて、ジュニアの大会にも出てました。中学でも続けて頑張ります。よろしくお願いします」
小郡拓真
「野球部に入ります。ピッチャーやりたいです!」
宇部大輝
「サッカー部に入りたいです。ポジションはフォワードで、得点王を目指します!」
厚狭健人
「ゲームが好きです。運動は苦手やけど、パソコン部に興味があります」
徳佐亮太
「吹奏楽部に入りたいです。小学校ではトロンボーンを吹いてました」
嘉川翔
「バスケ部に入ります! 身長をもっと伸ばしたいです」
防府直樹
「釣りが好きです。部活は科学部に入ろうかなと思っています」
長門悠真
「サッカー部希望です。小学校の時はキャプテンしてました」
岩国智也
「歴史が好きです。将来は先生になりたいです」
萩真一
「剣道をやっていました。中学でも剣道部に入ります」
女子
湯田泉
「運動するのが好きなので、バドミントン部に入ります。よろしくお願いします」
香川美琴
「泉と一緒にバドミントン部に入る予定です。よろしくお願いします」
厚狭由里
「吹奏楽部に入りたいです。クラリネットをやってみたいです」
徳山彩花
「陸上部に入ります! 長距離が得意です」
新山千佳
「読書が好きで、図書委員をやりたいです」
柳井琴音
「ピアノを習っているので、合唱部に興味があります」
防府真帆
「美術部に入りたいです。絵を描くのが好きです」
宇部里奈
「テニス部を考えています。スポーツ大好きです!」
長門美咲
「将来は看護師になりたいです。部活はまだ迷っています」
岩国美月
「ダンスが好きなので、ダンス同好会を作れたらいいなと思っています」
――山口農林高校・1年3組 自己紹介
担任は理科担当の 河村先生。眼鏡越しの鋭さと、時折見せるお茶目さで知られる先生だ。
「三年間一緒に過ごす仲間や。今日はまず、お互いのことを知ろう。前の席から順に自己紹介してな」
男子(15名)
湯田温也
「湯田温也です。中学から吹奏楽部でトランペットを吹いてました。高校でも続けて、全国大会に出場するのが目標です。よろしくお願いします」
長門悠真
「サッカー部に入ります。走るのが得意です!」
宇部翔太
「野球部希望です。ピッチャーとして試合に出たいです」
小郡拓海
「農業に興味があって入学しました。部活はこれから考えます」
厚狭健吾
「バスケ部希望です。得点をいっぱい取りたいです」
萩真一
「剣道部に入ります。小学校から続けています」
徳山直哉
「吹奏楽部に入りたいです。打楽器をやりたいと思ってます」
岩国智也
「歴史が好きです。歴史研究同好会があったら入りたいです」
防府大和
「サッカー部希望です。ディフェンスが得意です」
厚東亮介
「科学部に入りたいです。ロボットを作るのが夢です」
新山大樹
「陸上部に入ります。短距離が得意です」
嘉川悠斗
「美術部に入りたいです。漫画を描くのが好きです」
徳佐健太
「農業部で畑をやりたいです。家でも野菜を育ててます」
柳井海斗
「水泳部に入ります。クロールが得意です」
厚狭大輔
「柔道部に入りたいです。体力には自信があります」
女子(15名)
上田郷子
「上田郷子です。中学から吹奏楽部でサックスを担当していました。高校ではさらに技術を磨いて、全国を目指したいです」
徳佐麻衣
「美術部希望です。油絵を描くのが好きです」
嘉川涼子
「バレー部に入りたいです。アタッカーを目指します」
防府奈々(ほうふ なな)
「合唱部希望です。歌うことが大好きです」
岩国真理
「調理部に入りたいです。将来は栄養士を目指しています」
厚狭由里
「吹奏楽部でクラリネットを吹きたいです」
萩美和
「陸上部希望です。ハードルが得意です」
長門美咲
「看護師を目指しています。部活はまだ考え中です」
宇部里奈
「テニス部に入ります。ダブルスで頑張りたいです」
小郡沙耶
「吹奏楽部希望です。フルートを吹きたいです」
徳山彩花
「演劇部に入りたいです。舞台で演じるのが夢です」
厚東莉子
「科学部に入りたいです。天文が好きです」
柳井琴音
「ピアノを習っているので、合唱部にも興味があります」
新山千佳
「読書が好きで、図書委員をやってみたいです」
防府真帆
「美術部希望です。イラストを描くのが好きです」
吹奏楽部との出会い
――山口農林高校・音楽室。
放課後の廊下を歩き、温也と郷子は少し緊張した面持ちで扉を開けた。途端に、金管や木管、打楽器の明るい音色とにぎやかな笑い声が飛び込んでくる。
ずらりと並んだ楽器の輝きに、二人は思わず息をのんだ。
「おぉ、新入生! こっち来て!」
呼びかけたのは、トランペットを手にした男子――3年生の 田中宏樹。吹奏楽部の部長だ。
その隣でフルートを抱えた女子が柔らかく微笑む。
「私は副部長の 井上美咲 です。緊張せんでいいからね」
音楽室には3年・2年の先輩たち、男女あわせて30人ほどが並んでいた。
(田中宏樹〔トランペット〕、佐々木翔太〔トロンボーン〕、中村亮介〔チューバ〕、藤井健吾〔ホルン〕、岡本大地〔ユーフォニアム〕、山本和也〔トランペット〕、石井拓真〔トロンボーン〕、木村祐介〔パーカッション〕、高橋俊介〔パーカッション〕、松田恭平〔コントラバス〕、井上美咲〔フルート〕、河野彩花〔フルート〕、宮本玲奈〔オーボエ〕、西村朋子〔クラリネット〕、長谷川結衣〔クラリネット〕、木下沙羅〔バスクラリネット〕、川口千佳〔サックス・アルト〕、藤原優奈〔サックス・テナー〕、三浦佳代〔サックス・バリトン〕、大野真帆〔ホルン〕、原田菜摘〔トランペット〕、吉川真衣〔トロンボーン〕、村上里緒〔ユーフォニアム〕、小林友里〔チューバ〕、山崎夏海〔パーカッション〕、杉本理香〔パーカッション〕、平田望〔フルート〕、安藤優花〔クラリネット〕、岡崎理央〔サックス・アルト〕、中川梨奈〔トランペット〕…)
顧問の 佐々木雅人先生 が黒縁メガネを押し上げ、声を響かせた。
「今日は新入生が来てくれたな。せっかくやし、自己紹介をお願いしようか。名前と学科、希望の楽器も伝えてな」
新入部員 自己紹介
湯田温也/バイオ研究科/トロンボーン
「湯田温也です。中学からずっとトロンボーンを吹いてきました。高校でも続けて、もっと上手くなって全国を目指したいです。よろしくお願いします!」
「おぉ、頼もしいな!」田中部長が笑顔で拍手を送る。
上田郷子/バイオ研究科/トロンボーン
「上田郷子です。中学でもトロンボーンを担当してました。高校でも続けて、力をつけていきたいです。全国に行けるように頑張ります!」
トロンボーンの先輩たちが「仲間やな、よろしく!」とニヤリと笑った。
防府俊介/機械科/チューバ
「防府俊介です。でっかい音が好きで、チューバに挑戦したいと思いました。よろしくお願いします!」
徳山美咲/普通科/クラリネット
「徳山美咲です。小学校からピアノをやってました。クラリネットに憧れていて、ここで挑戦したいです!」
厚狭玲奈/バイオ研究科/フルート
「厚狭玲奈です。フルートの柔らかい音色が大好きで、この楽器を吹いてみたくて入部しました。よろしくお願いします!」
萩真帆/普通科/パーカッション
「萩真帆です。小さい頃からドラムを叩いてきました。打楽器で部を盛り上げたいです!」
自己紹介が終わると、音楽室いっぱいに拍手と笑い声が広がった。
佐々木先生がうなずきながら、最後に言葉を添える。
「ええ自己紹介やったな。今日からみんな仲間や。音を合わせる喜びを大切に、一緒に全国を目指そう」
温也と郷子は顔を見合わせ、胸の高鳴りを抑えきれなかった。
(ここから始まるんや――新しい吹奏楽の毎日が)
バドミントン部との出会い
――山口第一中学校・体育館。
シャトルの軽快な音と、シューズが床を擦る音が体育館に響く。
整列した先輩たちの前に、新入部員たちが並び、自己紹介が始まった。
先輩部員(男女あわせて20人)
村田翔真/3年/男子キャプテン・シングルス主力
小学4年からクラブチームに所属。県大会ベスト4の実力者。
大谷裕斗/3年/男子副キャプテン・ダブルス専門
パワータイプ。強烈なスマッシュが持ち味。
西川智也/3年/男子
守備が堅く、試合展開を読むのが得意。
黒田慧/3年/男子
中学から始めたが、努力家でレギュラー入り。
佐伯亜美/3年/女子キャプテン・シングルス主力
全国中学生大会出場経験あり。女子の憧れの存在。
松浦玲奈/3年/女子副キャプテン・ダブルス専門
小学校時代はソフトボール経験者。反射神経の良さが強み。
永井理沙/3年/女子
ドロップショットが得意。試合巧者。
岡野真帆/3年/女子
バランス型。後輩の面倒見もよい。
井口悠斗/2年/男子
スマッシュの初速は部内トップ。将来有望株。
高田隼/2年/男子
体力自慢。粘り強いラリーが得意。
山岸和哉/2年/男子
ダブルスの前衛で光る存在。俊敏さが武器。
堀川敦/2年/男子
冷静沈着。戦術理解度が高い。
市川美優/2年/女子
小学生時代に県大会優勝。華やかなプレーで人気。
藤田実咲/2年/女子
俊敏さを活かしたネット前の攻撃が得意。
原口菜々(はらぐち なな)/2年/女子
集中力が高く、崩れにくい選手。
小西涼香/2年/女子
バックハンドが強み。試合では冷静。
柏木誠/2年/男子マネージャー
怪我でプレーは断念したが、用具や記録管理を担当。
田島里美/2年/女子マネージャー
先輩後輩に慕われるまとめ役。
新入部員(男女あわせて10人)
仁保宇宙/1年/男子
小学校からバドミントン経験あり。ジュニア大会出場歴もある実力者。
湯田泉/1年/女子
中学から本格的に挑戦。運動神経がよく、ひろ君と「バド部に入ろう」と約束していた。
香川美琴/1年/女子
泉の親友。小学生の頃はバレーボールをしており、レシーブの反応が速い。
白石直哉/1年/男子
小学生時代は野球部。俊敏なフットワークを買われて入部。
森田悠斗/1年/男子
兄が高校でバドミントンをしており、その影響で入部。体力に自信あり。
坂本拓海/1年/男子
小学時代は水泳選手。持久力を武器にコートを駆け回る。
新井陽菜/1年/女子
ダンス経験者。身のこなしの柔らかさが強み。
岸本絵里/1年/女子
小学生の頃にバドを少しかじった経験あり。冷静な性格で試合に強そう。
竹内彩乃/1年/女子
卓球経験者。ラケットさばきのセンスが光る。
今井美月/1年/女子
未経験ながら「スポーツを続けたい」と思い立ち入部。笑顔が魅力。
体育館に緊張と期待が混ざり合った空気が流れる。
「これから一緒に頑張っていこう!」
キャプテン村田の声に、拍手とシャトルの音が重なった。
泉の胸も自然と高鳴り、隣のひろ君を見ると、彼も真剣な表情で前を見つめていた。
デモンストレーションマッチ
――山口第一中学校・体育館。
「じゃあ、新入生のみんなに、俺たちのバドミントンを見てもらおうか!」
キャプテンの 村田翔真 がラケットを掲げると、先輩たちから「おー!」と声があがり、体育館の空気が一気に熱を帯びた。
最初に行われたのは男子シングルスのエキシビション。
コートに立つのは、村田と副キャプテンの 大谷裕斗。
「はじめ!」
小気味よい掛け声とともにラリーが始まる。
村田のスマッシュが床を叩くように炸裂すれば、大谷はそれを鋭いレシーブで拾い上げる。
シャトルが天井近くまで舞い上がり、再び勢いよく打ち込まれるたびに、新入部員たちから歓声が漏れた。
「すごい……!あんな速いスマッシュ、返せるんじゃね」
泉が思わず声を上げる。隣のひろ君は真剣な眼差しで試合を追いながら、
「うん。あの返し方、めっちゃ参考になる……」と低くつぶやいた。
次に行われた女子のダブルスは、女子キャプテンの 佐伯亜美 と副キャプテンの 松浦玲奈 が登場。
対戦相手は2年の 市川美優 と 藤田実咲。
「レディー、プレイ!」
ネット際の攻防が続く。佐伯の鋭いドロップショットが決まれば、市川が華やかなスマッシュで応酬。
観客席の新入生たちは思わず体を乗り出した。
「は、速すぎる……!」
「動きが全然止まらん……」
シャトルの音が体育館にリズムを刻み、4人の先輩の足さばきがまるで舞うように交錯していく。
最後は混合ダブルス。
2年の 井口悠斗 と 原口菜々 のペアが、パワーと粘り強さを見せつけた。
井口のスマッシュに合わせ、原口が素早い前衛プレーで連携。
新入生たちの前で「バドミントンの面白さ」を存分に示してみせた。
試合が終わると、体育館には自然と拍手が広がる。
村田キャプテンが汗を拭いながらラケットを掲げた。
「これが俺たちのバドミントンや! みんなも一緒に汗を流して、強くなろう!」
泉の胸は高鳴りっぱなしだった。
(わたしも、いつかあんな風にプレーできるんじゃろうか……)
視線を横に向けると、ひろ君も口元にうっすら笑みを浮かべながら、強く握りしめた拳を下ろしていた。
(ひろ君と一緒なら、絶対やれる。そう思う)
――こうして泉とひろ君の新しい部活動の日々が、拍手とシャトルの音に包まれて幕を開けた。




