1-4 魔狼と魔銃と魔銃剣
「そもそもこの世界レヴェルトは、九つの国によって成り立っているんだ。僕達が出会ったアシュグレイ王国と今目指しているネテルワルツ王国の他にあと七つの国が存在している。それぞれの国が持つ国土や軍事力に差はあれど、どの国も圧倒的な力を有していてお互いに牽制し合ってるんだ」
「へーーー。あんなにデカイ国がまだそんなにあるのか。アシュグレイですら俺の村の一万倍くらい広かったイメージだけど……人も酔うほど多かったし」
「実際はさらにその何倍も広大だし、人口も多いだろうね。国とはそういうものなんだ。ただ、その国家という一つの巨大な組織が、一部の権力者によって掌握、支配されている。法が、経済が、人々の思想でさえもアイツらに都合のいいように定義され、成り立ってしまっている」
「確かに、貧富の差も感じたし、怯えてるようなヤツまでいたけど、どいつもこいつも自ら望んで国に身を置いてるんだろ?そんなに嫌なら多少の危険を承知で国から離れればいいのに」
「そんなに簡単な話じゃないんだ。国からしてみれば国民は貴重な労働力だからね……一人一人が国を維持していく為の小さな歯車なんだよ。王族の許可が下りなければ自由に出入りすることも出来ない」
「なんだか本当に牢獄みたいだな……にしてもグラスはやけに国の制度に否定的だけど、何かあったのか?」
俺は思ったことをそのまま口に出してしまい、そのことをすぐに後悔した。
「そう……だね……少しあの国で嫌な経験があってね」
悲しそうな顔でグラスは言う。俺だって自分の過去について気安く聞かれたら気分は良くない。ましてや、出会って時間もそれほど経っていないのだ。自分がここまで無神経な人間だとは思わず嫌になる。
「その……わるい……」
「なんで謝るのさ。アルメラって意外と繊細なんだね!」
気不味そうにする俺にグラスは笑いかけてきた。
「意外ってなんだよ!」
「だって、ほら!第一印象が野蛮なヤツ、だったからね。危ない人だと思ってたけど、そんなことはなかったね」
「誰だってあんな風に接近されてたら警戒するだろ!ましてやその前に変なヤツらにも絡まれてわけだしな」
「実はあの時、安心して同行できる人かどうか見極める為にしばらく後をつけてたんだよね。森を抜けてネテルワルツ王国に行くのに一人だと厳しいからさ。でも本当に出会えたのがアルメラで良かったよ。ありがとう」
「だからって一日中ストーカー行為するのは怖すぎるだろ……やっぱりこの距離を一人では無謀だったのか。だったら結果的に俺も助かったわけだ。礼なんていらねーよ、お互い様だ」
素っ気なく返事をするとグラスは口元を押さえて小さく笑う。何が可笑しいんだよ!と思いながら顔を背けた。それからしばらく歩き続けると開けた場所に出る。気付くと日も落ちてきていて、辺りが暗くなり始めていた。
「そろそろこの森も抜けそうだけど、もう日が落ちるね。ここら辺で今日は休もうか」
「そうだな。野営の準備でもするか。お前の分の食事も用意してやるよ」
「あれあれ〜〜?アルメラ君、だいぶ心開いてくれたみたいだね〜〜?そんなこと言ってくれるなんて嬉しいなー!」
憎たらしい顔でグラスがこちらを見つめる。
「うるせえ。早く準備しろ。作らねーぞ」
悪態をつきながらポーチから調理道具などを次々と取り出しグラスに投げつける。しかし、言われてみればそうだ。村の人間以外と接してこなかった俺が、今日会ったばかりの人間にここまで警戒を解くとは思わなかった。良くないとは思いつつも、グラスには何かそういう力があるのではないかと思ってしまうほどに。
「ちょっと待ったーーー!少し前から思ってたんだけど、これ今どっから出したの⁉︎そのポーチ⁉︎絶対おかしいでしょ!」
「いちいち騒いでないで早く準備しろって。水は予備があるけど、食糧はある程度調達しなきゃ心許ない。腹減って眠れないと疲れも取れないしな」
早速周辺を散策する。幸いにも食材に恵まれていて、鳥やキノコ、果実や香草など様々なものを入手することができた。
「ふぅーー。結構集まったね!さすが森!食材の宝庫!」
「よし!調理に取り掛かるか」
自然の恵の思わぬ大量収穫に二人とも思わずテンションが上がってしまう。そのテンション冷めやらぬまま、グラスが準備した簡易調理場で夕食の支度を始める。
まずはメインとなる鶏肉を開き、中に香草とニンニクを詰めて串で閉じる。調味料を振りかけて、表面をじっくり焼き、蓋をして中までしっかりと火を通す。ハーブの良い香りが辺りに広がっていく。肉を焼いている間に、たくさん採れた数種類のキノコとバター、スライスしたレモンを炒める。酒を入れ、塩、胡椒で味を調えてパセリを散りばめればキノコのソテーがあっという間に出来上がった。ちょうどいいタイミングで肉の方も焼きあがる。
「うわ!すごい美味しそう!手際良いね……びっくりした」
後ろで覗き見しているグラスを無視して出来上がった料理をそれぞれ皿に盛り付ける。
「冷める前に食べよう。これグラスの分置いとくぞ。いただきます!」
「ありがとう!いただきます!うわ!美味し!!!まさか森の中でこんなに暖かい料理が食べれるとは思わなかった。やっぱりアルメラと会えて良かった」
「お口に合ったようで何よりですよおぼっちゃま」
「本当に人は見かけによらないね……」
「おい、どういう意味だよ」
暗い森の中で少しだけ幸福な食事の時間を終えて片付けを済ませる。
「すっかり暗くなっちゃったね。明日に備えて休もうか」
「そうだな。また明日も長距離移動すると思うと今から憂鬱だよ……早く寝よう」
明かりを最小限にとどめて二人で横になる。
かなりの距離を一日で歩いてきたからか、二人揃って深い眠りに落ちるのは早かった。その後、数時間ほど眠っていたが、俺達はほぼ同じタイミングで目を覚ました。
「アルメラ。気付いた?」
「ああ。昼間よりもだいぶ多いな。いけるか?」
「いけるかって……いくしかないでしょ。それに、君もいるしね!昼間のは僕のが一体多く倒してるんだから今回はアルメラ頑張ってよね〜〜!」
「んな⁉︎お前意外と細かいな……。数しっかり数えとけよ?後で比べて黙らせてやる」
「ハイハイ。そっちこそ誤魔化さないでね!じゃあ僕こっちで」
「だれが誤魔化すかよ。んじゃ俺こっちで。いくぞ!」
一斉に飛び出す。予め暗闇に目を慣らしていたこともあって、月明かりのおかげで予想以上に敵の姿が見える。またもや魔狼の群れに囲まれてしまったらしい。数はざっと二十といったところだろう。
――――――――――――――――――――――――
グラスはテントを飛び出すと、自身の近くにいた影の固まりに突撃していく。すると、待ち構えていた魔狼達は数体を残して森に散開した。
『ガァルルルルルァ』
『アオーーーーーーーン』
「悪いね。僕は……こんなところでやられるわけにはいかないんだ」
魔狼達が唸り声と遠吠えを上げて飛びかかってくる。
「獣如きじゃ、僕は止められない」
グラスは右手に魔力を集中させる。青い光の粒子が集い剣を形作る。
『グルゥアァ!!!』
三体の魔狼が三角形を描くようにグラスに襲いかかる。しかしグラスはそれを物ともせずいなして避ける。魔狼達の背後を取ると、剣に魔力を溜め始めた。
「解き放て!魔銃剣!」
そう叫ぶとグラスが振った刀剣から、青い光の斬撃が飛んでいき、森の木々ごと魔狼達を斬り裂いた。剣を振り抜いたグラスの後方上空から、さらに三体の魔狼が襲いかかる。
『ガァ!!!!』
それに気付いたグラスは自身の足元へ剣の切先を向ける。そこから魔力を放出すると、その勢いで前方へ飛び込み、そのまま前転をして受け身をとる。すかさず魔狼達の方向へ向き直り、再度剣の切先を向けるように構えた。
「バイバーイ……弾けて、ぶっ飛べ!!!」
三発の青い魔力の塊が切先から放たれ、それぞれが三体の魔狼達に直撃した。
『ギャオゥ!!!』
「ナーイスヒット!さっすが僕!」
当たった衝撃で地面に叩きつけられた魔狼達は全身から血を流し、そのままグッタリと倒れて動かない。
魔力を放った反動で剣を構え直しているグラスの左右と後方から、さらに五体の魔狼達が爪を振りかざしながら飛びかかる。
「っと!それはまずいでしょ!」
攻撃の直後を狙われたグラスは後方へ退いていくつかの爪撃を躱すも、両肩に軽傷を負ってしまう。
「ぐぅっ!いったぁ〜掠っちゃったか。数が多い……少し時間が欲しいな………」
バックステップを繰り返しながら爪と牙の乱舞を紙一重で躱しているグラス。すると、少し離れた位置にいる魔狼が吠えるように衝撃波を飛ばしてくる。
「グァバァ!」
衝撃波をギリギリのところで上空へと回避するが、さらに上空から二体の魔狼が爪を叩きつけてきた。
ガキンッ!!
「っく!あっぶないなーホント。……っぐぅ」
剣を横に構えて二つの爪を凌ぎきる。しかし、その勢いで思い切り地面に叩きつけられてしまう。
痛みに浸る余裕などあるはずもなく、周囲の魔狼が一斉に四方から襲いかかってくる。
素早く体勢を立て直して魔狼達の壮絶な連撃をなんとか剣で防ぎながら一考した後、銃声の鳴り響く方へ大声で叫んだ。
「アルメラーーーー!ちょっとだけ時間稼いでーーーー!」
――――――――――――――――――――――――
ダンダンダンダンダンダンッ
ダンダンダンッ
ダンダンダンダンダンダンッ
鳴り響く銃声が夜の静寂を切り裂く。
数を見誤ったのか?二十くらいだと思ったが、森の奥からどんどん湧いて出て来やがる。撃ち殺しても撃ち殺しても数が減ってる気がしない。
『グルルル………グルゥア!!!!!!!!』
叫びながら怒り狂ったように、大量の魔狼が雪崩れ込んでくる。
「さすがにこれは……」
俺は思わず冷や汗を垂らしながら弱音を吐く。銃でヤツらの牙を受け止めるも衝撃で後方まで吹き飛ばされる。
ーーーこいつら絶対昼間のやつより強いだろ……!
木に激突してしまいそうなところを、吹き飛ばされた衝撃を利用して、タイミングよく後方宙返りで地面を蹴り飛ばし、上空へと逃げる。そのまま木へと着地した。
「グラスに強がったはいいけど数がやばいな……。距離詰められたらきつい」
木から魔狼達を見下ろしていると、数体の魔狼が口を開けて構え始めた。
『グァバァ!!!』
叫び声に合わせて衝撃波が三方向から飛んでくる。
すぐさま木を飛び下り攻撃を躱すと、後方でさっきまで身を預けていた木が粉々に砕け散った。
「おいおい……あんなの喰らえないぞ」
後ろを確認していると、前方から衝撃波を撃っていなかった五体の魔狼が突進してきたので慌てて飛んで躱すも、爪が胸元を掠めて出血する。
「クッソ!!!!いてーなクソ犬ども!喰らえ!」
傷を抑えながら着地と同時に弾丸を連射する。
『ギッギャウ!!!!!』
全弾命中するも致命傷には至らないのか、血を垂れ流しながら俺を取り囲むような陣形を取る魔狼達。全部で八体の魔狼に囲まれる形となってしまった。逃げ場はないようだ。
「………………………………仕方ない、か」
唸り声を上げて俺の周りを徘徊する魔狼達は、襲いかかるタイミングを慎重に探っている。このままだと、いずれやられる。俺はフードを深くかぶり、もう一丁の銃を抜いた。二丁の銃を左右に広げるように構える。
「いくぞ犬ども……………後悔しながら狂い散れ」
両手の銃に魔力を込めると、赤い光が銃を包んでいく。何かを察知したかのように取り囲んでいた魔狼の群れも、歩みを止めて一斉に飛びかかってきた。
『グルゥアアァァァ!!!!!!!!』
「おせーよ、もう。真紅掃射‼︎‼︎」
二丁の魔銃から放たれた数え切れない真紅の魔力弾が空中にいる魔狼達の身体を何度も撃ち抜いた。高速で全方位に弾丸を放つこの技は使うとひどく疲れる。
飛び囲んで襲いかかってきた魔狼達の爪は俺に届くことはなく、周囲の地面は死体と血にまみれていた。
ピキッ
嫌な音がする。案の定、銃が魔力の出力に耐えられなかったらしい。ひび割れが起こっている。
武器を損傷させてしまったものの、一先ず魔狼の団体を退けた俺は反対側で戦っているグラスの方へ視線を向けようとした、その時、振り向いた先から叫び声が聞こえる。
「アルメラーーーー!ちょっとだけ時間稼いでーーーー!」
魔狼の群れに襲われながらグラスが逃げるようにこちらに走ってきた。
「おいおい、マジかよ……」
「ごっめーーーん!ちょっと数多すぎ!うわ!なにこれ、アルメラこわ!」
「今丁度こっち片付いたからいいけどよ。そっちのが数多そうだしな。でも俺魔力もうあんま残ってねーぞ?」
「魔力少ないところ申し訳ないんですが……二十秒!二十秒だけ時間稼いで!頼んだ!」
そう言うとグラスは俺の後ろで剣に魔力を込め始めた。
「はぁ⁉︎お前、マジか⁉︎」
驚愕する俺を無視して剣に集中しているグラス。魔狼の群れが突っ込んでくる。全部で九体。時間を稼ぐ為、少ない魔力を振り絞り弾丸を乱射する。
「二十秒って結構だぞ!クッソ!」
「グラァ!!!」
被弾した魔狼を盾にしてその後方から他の魔狼が飛びかかってくる。グラスに近付けるわけにはいかない……不覚にも任されてしまったからだ。出会って間もない俺を信用して託したというのなら、二十秒程度凌いでみせよう。期待に応えてやろうじゃないか。
「オラァ!!!」
近付いてきた魔狼を銃を使って殴り飛ばす。距離を飛び越えてこようとするヤツは弾丸をぶち込んだ。数が多くて捌ききるのがやっとだ。それでも……
「お待たせ!アルメラ!僕の後ろに!」
それでもなんとか間に合った。グラスの声とともに、後方へと大きく飛び上がり退く。
グラスは剣を振りかぶり勢いよく振り下ろした。
「真空斬波‼︎‼︎」
剣に溜めた魔力が斬撃となり凄い勢いで周囲に放たれていく。飛ぶ斬撃と言ったところだろうか。放たれた斬撃は前方にいた魔狼全てを斬り刻み一瞬にして空間から生命を消し飛ばした。




