魔王の調教は完了する
「領民に酷いことをしないでくださいっ」
「ふわぁ……」
ミレーヌが私の股間へ頭を押し付けて喋るので、声が震動となってお粗末様の芯を揺さぶる。
動きを同調させていた魔人も中腰となり快感に震えてしまっているが、私もあんな情けない表情をしていたのかと思うと非常に興奮してきてしまう。
「め、目を覚ましたかミレーヌ。だがそこはまずい、すぐに離れるのだ」
股間に頭を押し付けられていることで足腰が震えてしまい、立っていることが奇跡と言えるような状態であった。この強烈な快感には角を現し魔力を高めていなければ耐えることは叶わなかっただろう。
「私が離れればピエール様はみなを殺してしまいます、だから絶対に離れません」
ミレーヌは意固地になっているというわけではなく、単純に不器用者なのだ。
何と罵られようともミレーヌが村民を守ろうとするのはだからなのかもしれない。
「領主様がかばってくれているのか?」
「そう見えるだけでわからんぞ……」
「あの性悪姫のことだ、また何かを企んでいるんじゃ――」
まだそのような事を言うか。
「貴様らはこの期に及んでも尚、ミレーヌを信じれぬかはぁぁぁあんっ!!」
「駄目ですピエール様っ、落ち着いてください!」
「わかった、落ち着く! まずは私が落ち着くからミレーヌも落ち着くのだ!」
風を操り村民どもに今度こそ放とうかというところで、またしてもミレーヌがきつく抱きついてくる。私の股間へミレーヌの顔が押し付けられ、得も言えぬ快感が稲妻が如く股間へと走り抜けた。
風の魔人も虚空に手を伸ばしたまま情けない表情をしているのが何とも言えぬ。
ミレーヌは性の知識に疎い。疎いが全く知らぬというわけでもない。今していることも後になれば赤面して悶えることだろう。つまり、今は自分の痴態に気付かぬほど必死になっているのだ。
「本当ですか?」
ミレーヌは上目使いでそんなことを言う。
これはこれでありだ。私の腕を縛っていてくれれば尚良しなのだが。
「本当だから一度離れるのだ」
恐る恐る離れて立ち上がるミレーヌ。だが次は袖を掴んで離さず、じっとこちらの様子を窺っている。
視力も回復したのか、以前の鋭い目付きではなくなってはいるが、自然な眼差しも心地のよいものであった。
「ところで胸が見えているようだがいいのか。私は構わんが、淑女としてはどうなのだろうな」
「えっ――きゃぁぁあ!」
剣で貫かれた胸の穴は塞がれているが、服は破れたままである。それに気付かなかったミレーヌは、慌ててふくよかな胸を手で隠す。
「……恥ずかしいですっ」
片手で胸を隠しながらも、袖を離さず赤面したまま私を見張っているのは大したものである。
「あっ、でもどうして私は生きて……確か勇者様に殺されたはずでは――」
「すまぬが勇者ヒデのことも含めて事情はあとで説明する。その前に今はこの村人達の処罰が先……わかっているっ! 私はもう何もせぬからお前のしたいようにするがいい! だから腰を落とすな!」
また抱きついて止めようとするミレーヌを制し、なんとか抱きつかせない様にとどめる。ミレーヌの膝は泥だらけになっているが、それは貴族としてはあるまじき姿だ。
そうまでして私を止めて村民を助けようとする想いに心打たれ、よりミレーヌを愛しいと感じてしまっている。次同じことをやられてしまえば、私は村民たちの前で乱れた姿をさらしながら、本来ならば段階を踏んで到達するはずの場所へと連れ去られてしまうだろう。
愚かな者達の前で痴態をさらし、それを快感になるよう刷り込まれてしまう……いかん、既に想像しただけでお粗末様がうずいている。やはりミレーヌは私の運命のご主人様なのだな。
「本当だ、私は何もせぬ。これが証拠だ」
ミレーヌを安心させるため、村民達を拘束していた風の拘束を解く。
同調が完全ではなかったのか、私が落ち着いても未だに蕩け顔となっていた風の魔人も空へと散らす。
『わかりました』
胸を隠しながらダイアリーにペンを走らせているので、言葉は歪み、文字も多く書けていない。どうやらミレーヌは自分が問題なく喋れることにまだ気付いていないようである。
「今一度貴様らに問うが、貴様らはミレーヌの本当の声が聴けなかったのか」
「本当の声?」
「いえ暴言や罵倒しか……」
なるほどやはりそういう事か。魔力を持たぬ者ではミレーヌのかかった呪いを打ち消せぬようだ。勇者どもがミレーヌの真の言葉を聞き取れていたかまではわからぬが、少なくとも魔力を持たぬ村民では不可能だ。
「今更分かったところで遅きに失しているのだがな……」
私は勇者を三人殺し、そしてミレーヌの書いたダイアリーは王都へと運ばれている。あの紙だけでシズタニアが動くとは思えないが、勇者が三人死んだことで、ミレーヌの謀反に現実味を与えてしまっている。
となれば、いずれミレーヌは無実の罪から汚名を着させられ、辺境伯謀反のため大罪人として処すと、シズタニア全土に布告されることだろう。
「やはり早まったか。せめて最初の二人はまだ殺すべきではなかったかもしれぬな」
だがミレーヌは人としての死を迎えている。これが好都合だと言えばミレーヌは怒るだろうか。叱られるのは歓迎だが怒らせるのは違う。言葉は慎重に選ぶべきである。
「ミレーヌ、ダイアリーは必要ない。気付かぬか? 呪いの効果がなくなっていることに」
「へ? ピーエル様? ええっ!?」
ピーエルとは誰のことだ、私はピエールだ。
くっ、名を間違えられただけで足が震えてしまう程気持ちいいではないか。それに自分の言葉を確認するために、最初に口にした言葉が間違っていたとはいえ私の名前だと……愛しい、愛しすぎるぞミレーヌ。どうか尻を強めに叩いてはくれないか、そうすることで私のお前の愛は更に満たされるっ!
「なんだ、どういうことだ……」
「お、俺に聞かれてもわかんねぇよ」
「無知な貴様らにに私が教えてやろう。ミレーヌは魔女の呪いによって自分の心にはない言葉を喋らせられていたのだ」
まさか本当に暴言の奥にある、真実の言葉が聴こえていなかったとはな。
「えっ、それじゃあ……」
一人の壮年の村人が立ち上がる。
「貴様たちが言われていた暴言は全てミレーヌの真意でも本意でもない、ただの呪いだ」
困ったことにミレーヌは、うっかり喋ってしまう。元はよく喋る娘だったのだ、癖などそうそう治るものではないので仕方がない。
「そ、それは本当ですかい……」
よろよろと歩み寄る男。こちらに何かをしようという意思はないように見える。仮にあったとしても、二度とミレーヌは傷付けさせぬ。
「はい、私は魔女の呪いを受けていました。喋ってしまうと、私の意思とは無関係な暴言を口にしてしまう、そんな呪いでした。ですがそれは村長様には相談してあったので――」
「申し訳ありませんでしたっ!」
壮年の男は泥水がひたった地に額を叩きつけるようにしてミレーヌに平伏す。
「我々はそうとも知らずに勝手な事を散々言っちまったんです!」
「あっ、いえ、そんな、頭を上げてください。元はと言えば私が悪いのですから」
「死んじまいやがったから文句も言えねぇが、あの村長はいつも領主様を悪し様に語り――」
「戯言をっ! 貴様らがミレーヌにした仕打ちを忘れたか!」
「ひぃっ!」
私はミレーヌのために抑えていた殺意を先程にも増して壮年の男へ向ける。
そんなことをすればミレーヌにまた抱きつかれてしまうが、少しだけ抱きつかれて叱られたいという下心もあった。
現にミレーヌは私の袖を強く引いている。あと少し、あと少しだ。
「立場が危うくなれば手のひらを容易く返し、自分達は謝ればそれで済むとでも思っているのだろう。貴様らがいくら頭を下げようともミレーヌの傷付いた心は癒えぬ。もし貴様らにミレーヌを真に敬う気持ちがあるというのならば、今このばで死をもって証明してみせよ」
「そ、それだけはご勘弁を……」
「ふんっ、見たかミレーヌ、これがお前の守ってきた者の姿だ。お前が命を捧げようとも、この者たちの心は変わりはしないのだ」
残酷な事をしているという自覚はある。だがいつまでもこの醜悪な者どもを救おうとするミレーヌの目を覚まさせるにはこれぐらいのことをしなくてはならない。
「私は領主です……この土地を任された辺境伯なのです」
「……」
どこまでも救えぬ愚か者だ。
ミレーヌも、この領民たちも、そしてそんなミレーヌに心を奪われてしまっている私もだ。
「ミレーヌよ、この土地はお前の領地ではなくなる。だからもうよいのだ」
「あっ……」
ミレーヌを抱くと、おずおずと手を胸に寄せる。私を止めるときは迷わず体をぶつけてくるというのに、ちぐはぐな娘である。
「それでも……たとえ爵位を返上することになるとしても、私は最後のその時まで領民を守りたいのです。それがお爺様と、お父様と交わした約束でしたから」
優しさだけではなく、私の知らぬ事情があったというわけか。
今それを知ろうとするのは野暮というもの、いつか鞭を背に打たれながら聞いてみるとしよう。
だが待てよ、背に打たれた鞭の軌道がそれて、誤って尻の谷間に……或いは宝玉を打ったならば私はどうなるのであろうか。
「んっふ……」
想像しただけで腰が震えてきてしまった。落ち着け、今はいかんぞショスピエール。今はそういう時ではない。股間を大魔王にしてしまってはかっこがつかんぞ。
「いいか、貴様らを罰するのは私ではない、この国シズタニアだ。ミレーヌ・ラヴュロンスという偉大なる領主を失った事によりこの領地はどこぞの馬の骨とも知れぬ異世界から来た『勇者』を名乗る道化師が治めることになるだろう。運がよければ善政を敷くだろう――だが勇者は卑怯で狡猾で臆病で、そして陰湿な者ばかりだ。先程の勇者ヒデのように我欲に満ちた愚か者がこの領地を担い、貴様らは今以上の困窮と貧困を味わうだろう」
一人の魔王を倒すのに千人で襲ってきたのだ、それの何が勇気ある者か。
「そんな俺たちが何をしたっていうんだ……」
何もせず、ミレーヌに害をなしただろうに。
だがそれは言うまい。もうこの者達には何を言っても無駄だ……ハッ閃いたぞ、聞き分けのない豚になって、ミレーヌに叱られるというのも悪くないのではないか。
「これ以上は本当に死んでしまいます! どうか情けを!」
「……いいか、ミレーヌは屋敷に住んでいても贅沢などは何一つしていなかった。ラヴュロンス家の蓄えのみで生活していたのだぞ。金はとうに尽き、屋敷の美術品から備品、価値のある物を売り払い、貴族としての矜持など捨てて糊口を凌いでいたのだ」
これは全てが真実と言うわけではないが、全てが嘘というわけでもない。ミレーヌは茶とハチミツを好んでいたのだ、それが唯一の贅沢であった。
「ピエール様……」
「貴族でありながらハーブや食物は極力自身の手で栽培していた。そして私の様な素性の知れぬ者を登用している余裕など本来ないはずであったのに手厚く遇してくれた」
真実ラヴュロンス家の財産は底をついていた。
元々多くはない税収が、勇者ヒデ達が現れた時期から明らかに減っていたのだ。
「貴様らの選択は誤りであった」
「じゃ、じゃあどうすればよかったのですか……」
「最初から信じ、支えればよかったのだ。森に魔女がいることなど貴様らは知っていたはずだ。或いはミレーヌが魔女の呪いにかけられていたことも気付いていたのではないか?」
「それは……」
村長がミレーヌの呪いを隠していたのは確かなことだろう。
だがこの者達も気付いていたはずだ。
「勇者などというまやかしに惑わされて誤ったのだ。貴様らは進むべき道と、仰ぐべく君主を誤ったのだ。愚かという言葉は貴様らにこそ相応しく、貴様らの為に生まれた言葉だと私は確信している」
「もうやめてくださいピエール様……」
「貴様らが今生きているのはミレーヌがあったからだ――」
「ピエール様っ、お、怒りますよ!」
怒ってください!
いやいかん、怒らせてはいかんのだった。
「ミレーヌ、私と共に来い。お前は私が責任を持って守り抜く」
契約は既に完了している。
私はミレーヌに私と同じ能力を与えることで契約し、その体を魔族に変えてしまった。
契約など、本来は異世界に魔族が召喚された際に、異世界との結びを作るためにするものだ。私はそれをミレーヌに施した。
その責任を取るというのは言い訳じみており、あまりにも身勝手な話かもしれない。だがそうするほかなかったのも事実だ。
「お前に涙は似合わぬ。二度とお前のような娘が泣かぬ世を見せてやる。お前の涙も笑顔もこれより私だけのものとなるが、悲しみの涙だけはいらぬ――それはここへ置いていけ」
困ったような顔で笑おうとするミレーヌだったが、それを見るつもりはない。
抱いていたミレーヌを、更に強く抱き寄せる。
「本当に私でいいのでしょうか。私の様な無力な女がピエール様のお隣にいてもいいのでしょうか」
「ミレーヌでなければ駄目なのだ。お前が心の底から笑える世を私が作ってみせる、それを見届けてくれ」
「ピエール様……うぅっうわぁぁあ!」
ミレーヌは声を出して泣いた。私の胸に顔を埋め、子供の様に泣き続けた。
それはミレーヌが私以外の者の前で見せる最後の涙であった。
――――
屋敷から持ち出す物は少なく、僅かな着替えのみを持って領地を出た。
金はいいのかと聞けば、「これはこの領地の為に使うお金ですから」と、ミレーヌは金貨は愚か銅貨すら持たずに出てきてしまった。
「豚は豚らしく養豚場へと行くのかしら。お似合いの豚小屋が見つかるといいわね。(私はピエール様とならどこへでも行けます。どこへでもついていきますから)」
「う、うむっ!!」
ミレーヌは私と契約したことで魔族となった。
だが魔力は未だ安定しておらず、体の治癒と呪いを抑えることに魔力を使い果たし、半日も経たずに元の暴言と鋭い目つきを取り戻している。
呪いは呪いだ。解呪などとという便利な物があればよいが、それは空想の世界のもの。今後ミレーヌが呪いに打ち勝つには自身の魔力量を増やすしかない。
「そうだな、まずはシズタニアの国都を目指すのはどうか」
「無軌道で計画性のない豚ね(大丈夫なのですか?)」
ミレーヌの顔を知る者がいれば騒ぎになるだろうが、辺境で引きこもっていた小娘の顔を知る者など街にはおるまい。
「安心しろ、何があろうとも愛するミレーヌを守ってみせる」
「口だけの性欲豚が……一生奴隷として可愛がってあげるわ(ピエール様……私もあなたを愛しています)」
「お願いしますっ……」
まずは勇者たちの動向を調べよう。出来ることならば幾人かそこで倒せればいい。問題はあの女王気質の勇者だが、今の私が恐れるものではない。
私はミレーヌの豚だ。例えそこに甘い鞭があったとしても、私はその鞭を必ず乗り越えて見せよう。
そしていつの日かミレーヌを連れて魔王城へと戻り、再び魔王として君臨しようではないか。
「豚は私のどこに欲情しているか答えなさいな(あのピエール様は私のどこが……)」
今にも消えてしまいそうな声でミレーヌがそんなことを問う。
「そうだな、挙げればきりがなく、際限なく答えを出せてしまうが――」
ミレーヌは固唾を飲んで私の答えを待っている。
「強いて言えば真に喜んでいるときの表情、つまり笑顔だなぁぁぁああんっ!!」
横を歩いていたミレーヌが急に腕を絡めて寄り添ってくる。
私がミレーヌを愛した理由など本当は聞くつもりはなかったのだろう。ただ私に縋り付く切っ掛けが欲しかったのだ。
私にはそれがわかっていたので聞こえの良い答えを用意したのだが、その際足を踏まれて悦びの嬌声をあげてしまった。しかしそれだけならば耐えられた。
問題はミレーヌの頭部に生え始めている小さな二本の角である。
その角の片方が私の腕に突き刺さっているのだ。
「豚の癖に生意気ね!(もうピエール様ったら!)」
「あっ、腕、おっおぉふっ、ふあぁああ!」
調教完了
読んでいただきありがとうございます。




