最強の魔術士
「ルシエル様。焦らさないで教えてください。私は、夕刻より任務があるんです」
「それは大変だね。帰るかい?」
「ルシエル様!」
私は思わず声を荒げた。何のためにスタリーまで来たのか……これでは、無駄足無駄骨の他ならない。
ルシエル様は、何故かとても嬉しそうにしているのだ。何がそう、嬉しいのか。私には皆目見当がつかない。そのせいで、苛立ちばかりが募ってしまう。
「そう怒ることないじゃないか。カガリ。短気は損気。頭、禿げるよ?」
「禿げません!」
「カガリの家系は、そういうひとは居ないからね」
「…………えっ?」
私は、一瞬言葉を見失った。
ルシエル様は、私の家族を知らないはずだ。
それなのに……ルシエル様は、知っている?
「ルシエル様。私と出会ったのは、城……ですよね?」
「言葉のあやだよ」
「はぐらかさないでください!」
「スタリーでは、怪盗の存在を知りに来たんだろう? 主旨を変えるのは、よくない」
ルシエル様は、特別焦っている様子ではない。しかし、話題を明らかに拒んでいる。知られたくない、「何か」が、必ずあるのだと確信した。
私は、最悪な過去の事実を考えた。私の村を焼き滅ぼしたのは、今のフロート王率いる、兵士である。その兵士が、魔術士部隊「レイアス」だったならば……その中に、すでにルシエル様が、所属していたとしたら。
村を焼いたひとりは、ルシエル様……?
「私じゃないよ」
「…………」
「さぁ、種明かししてあげるから、顔をあげなさい」
「……分かりました。きちんと教えてください」
ルシエル様は、口元に笑みを浮かべたまま、目を細めた。
「まず、言葉が聞き取りにくいと言っただろう? そこに、仕掛けが隠されているんだ」
「どのような?」
「これは、偽体だよ」
「……偽体?」
ルシエル様は、満足気に頷く。
おそらくは、魔術の成せる姿のひとつなのだろうが、いまひとつピンとは来ない。どう見ても、いつものルシエル様である。
「この身体は、実体ではないんだ。実体は、今もフロート城にてレイアスの会合に出ている」
「えっ?」
驚く私の顔を見て、ルシエル様は更に笑みを浮かべた。この反応を期待していたとでもいいたげな、上機嫌さを見せる。こういうとき、ルシエル様の中に「子どもっぽさ」を感じてしまう。悪戯こころというものを、持っていた。私には無い感情だ。
「レイアスの会合で、私が意見を求められることはないし……話の内容も、気を引くような議案は出ないからね。こうして、集中して魔術を編める。ただ……」
「ただ?」
「幾ら私が万能に近いとはいえ、やはり魔術の構成を編み、そこに魔力を流し続けることは、疲れるね」
「スタリーに居る、この、ルシエル様は偽物ということなんですか?」
「まぁ、それに近いかな。偽物といっても、私が術者なのだから、私であることに違いはない」
「そうですか」
私はふと、この「偽体」というルシエル様からの「死角」になるところから、手を伸ばして、ルシエル様に触れてみようとした。その結果は、温かい感触がある。
「触れますよ? 少し……やわらかい気がしますが」
「熱の集合体みたいなものだからね。それに、本にあったものを改良し、より緻密な構成に作り替えている。見た目や、触るだけでは、見破れないだろう」
私は腕を組んでルシエル様「もどき」を見つめた。この青い目からは、私を捕らえていないのだろうか。魔術士ではない私には、やはり感覚がつかめない。そして、どれだけこの術がすごいものなのかも、分かることが出来ない。
「これは、ルシエル様の術だということは分かりました」
私は強引に事を飲み込むことにした。
「では、結局のところ、スタリーでの怪盗騒ぎは何だったのですか? ルシエル様の偽体が、ウロウロとしていたということなのですか?」
「いや。結局、私ではないのだよ」
「は?」
ここへ来て、話が振出しに戻る。
「私を、義賊としたい者が居るのだろうね」
「賊に? 何のためにですか」
「それは、私の知ることではないよ。その者に聞いて欲しいものだね」
「心当たり、あるのですか?」
ルシエル様は口の端を上げた。笑みを浮かべて、私に背を向ける。
「もしかしたら、私よりも魔術も教養も、上回っている誰か……の、陰謀かもしれないね」
「ルシエル様より……上?」
私は思わず、眉を寄せた。
「ありえません」
「何故? 何故、言い切れるんだい?」
「ルシエル様は、神子魔術士です。それに、絶対……最強です」
「さぁ、どうだろうね。神子魔術士といったら、レイアスは皆そうだろう? 絶対なんていうものは、ありえない言葉だしね。誰もが皆、可能性を持っている」
そこまで言い切ると、ルシエル様は一拍置いて後を続けた。
「魔力を持たずに生まれてきて、魔術士になるなんていうことは、絶対ありえないけれどもね。そういう点を除けば、原則として絶対とはないことだ」
ルシエル様「もどき」の身体が、ふわっと軽くなったように見えた。魔術の抽出をやめ、術を解こうとしているのかもしれない。
「最強の魔術士は、現在イコールで私を示すようになっている。しかし、それを快いと思わない魔術士が、存在するのかもしれない」
「敵、ですか?」
「会ってみないと、分からないね」
それだけ言い残すと、ルシエル様は姿を消した。
取り残された私は、しばらくスタリーでルシエル様「もどき」の幻影を見つめ続けていた。
(ルシエル様より、強い存在……)
本当に、居るのかどうか。私としては、ルシエル様最強説を信じきっている身のため、真っ向から否定したい。それに、ルシエル様を陥れようとして、このような行為を行っているということは、許しがたい。
(……待て)
私は、何故ルシエル様が、そういう「説」を唱えたのかを考えた。
ルシエル様は、自分自身のいわば分身を作ったということになる。しかし、このスタリーで怪盗被害を出していた術者は、容姿は「ルシエル」様ではないはずなのだ。
それなのに関わらず、ルシエル様の容姿を完璧にコピーしてしまっているということは、それなりの術者レベルであることは、間違いないのだ。
世界は、広い。
世界中を飛び回っているとはいえ、まだ、すべてを把握するには至らない。
いや、すべてを把握するなどきっと……不可能なんだ。
すべての中に、「可能性」がある。
最強の魔術士。
それが、ルシエル様なのか、他者なのかも分からない。
ただし……いずれは分かることなのだと、第六感が訴えてくる。
そのときにはまた、波乱が待ち受けているのだろうと、私は覚悟し、任務へと向かった。
こんにちは、はじめまして。小田虹里と申します。
今回は、「COMRADE」シリーズの大人組。魔術士「ルシエルさま」と、その弟子「カガリ」の物語でした。
最初に考えた話は、今回とはまったく違っていて。ただの「息抜き」として、描いていました。結論は、「最強の魔術士」はルシエル様であり、スタリーのひとたちに、ルシエル様の人となりを知ってもらい、「仁徳者」であるということを、伝える物語でした。
しかし、いざ進めていると……新しい魔術だの、古い魔術だの。魔術の仕組みの方向に話がずれていきました。そして、ルシエル様は新たなる術を、会得するのでした。
そういう話に転換になり、「怪盗」と「魔術士」を繋ぐことは出来ましたが、ルシエル様の位置づけが、変わってしまいました。
「最強の魔術士」
これが、新たに出てくるというような、展開ですね。
その点は、困っていません。前々から考えている話に、接続するための踏み台ストーリーといいますか、布石といいますか。そういう存在の作品となりました。
接続できる物語を、進めても実現できそうになったことはうれしいのですが、ここまで展開が変わるとは……結構、この「なろう」は、行き当たりばったりで書いているので、その粗が見えてしまいました。
私は、「設計図」というものを作るのが、苦手です。何の設計図にせよ、とにかく苦手です。なんでもかんでも、まず「行動」することを主としてしまいます。よく言えば、行動力がある。喧嘩でも、口より先に手が……ということはありませんが、結構、なんだかんだでイラっとしたら、イジメに対して黙ってはいない。そういう人間です。これ、また余分な話になっていますけど。
そう。
小田は、「平和主義」を掲げている癖に、「目には目を」みたいなことは、してはいけないと言う癖に、実際の自分の人生振り返ると、報復しているんですよね。やられたら「倍返し!」は、鉄則でした。そうでもしないと、イジメられたし。なくならなかったんですよね。
高校のときには、男が男に陰湿なイジメをしていました。それを見た小田は、やはり放ってはおけず、そのイジメをいかに潰すか策略を考えました。
あ、設計図を描くのは苦手なのに、そういうときだけ冴えるんですね。
そんなわけでして、「戦争」をなくす方法。それって、とても難しいことだと思うんです。こうして、「喧嘩」や「イジメ」は、身近で起きている小さな「戦争」ですよね。でも、幾ら小さくても、最悪の場合それを苦に「自殺」してしまうのですから。ひとの「命」がかかっているとなると、やっぱり「戦争」とあらわすべきなのでしょう。
小田は、どんなに小さな「戦争」も、認めたくはありません。正当化していいとは、絶対思いません。
世界は広くて、色々な人種が居て。肌の色も違えば、目の色も違って。言語も違えば、宗教も信じる「神」も違って。
そりゃあ……共存は、難しいですよ。
同じ「日本」の中でも、たくさんの「党」があって、ぶつかってます。
同じ「家族」の中でも、自分の思い通りにいかなかったら、ぶつかりますよね。
だから、諦めた方がいい。
とは、思えません!
小田、諦めること……大っ嫌いです。
絶対に、平和で安泰な世界にしてみせる。小田は、この時代、この日本……「平和憲法」で守られた国で生まれたのだから。そんな自分にしか出来ないことを、成し遂げたい。
小説というのは、ひとつのツールです。手段です。
小田は、「ライトノベル」という中の「ファンタジー」にこだわっていますが、結局伝えたいことは、いつも「同じ」なんです。「平和」そして「自由」に生きられる「平等」な世界。
その信念を貫き続ける作家でありたいと、思っております。 2016.10.24




