77話:集まった調律者
俺は、マリアを含め、七人を連れ、朱野宮の家にたどり着いた。大きな門や指紋、声紋、網膜、様々な認証に驚きながらも、何とか入れてもらえた。
「着たか?お前等で最後だ」
信也の言葉。その奥には、ゾワッとする感覚で分かる。姫夜だ。
「何度会っても、不気味なものね」
「しょうがないッスよ。【死染眼】と【血染眼】。どちらも【四】の眼の派生系。似た力は反発するんスから」
今は、刃奈が起きているようだ。初妃の気配は微塵もない。
「まあ、それに関しては諦めよう。俺も似た感覚を味わってるんだ。文句はいいっこなしだぜ」
俺は、鳥肌を摩りながら、何とか話をつける。
「とりあえず、この世界を正常に戻すためだ。仕方がない」
「ええ、そこが妥協のしどころね」
俺と姫夜は軽く視線を交えると、俺が信也に話しかけた。
「おい、信也。祠ってのは?」
「こちらだ。付いてこい」
信也に続いて、後ろを行く。
「結局よく分からないまま、こうなったけど、どう言うことなの?雨月くん?」
紀乃は、どうやら、信也からあまり説明を受けていないようだ。
「事情はあとだ。今は、行動が最優先だ」
俺は、紀乃を諭す。しかし、信也は、
「いや、謳。お前から姉さんや他の奴等への最終説明を頼む」
「チッ」
俺は舌打ちすると、紀乃の方を向き、説明を始める。
「まず、この世界に異能が出現しだしたのは、二十数年前。【死の結晶】の話が出だしたのもそのころらしい」
「まあ、それは【PP】の奥にあった情報が元なんだけどね」
匡子さんの補足。
「朱野宮の地下にある祠は、それよりも随分前から放置された状態だったらしいが、そこが世界の特異点だと分かった【焉】は、そこで【死の結晶】の活動を始めた。そのころから、【焉】に影響され、特異点が異質になりだした」
俺は、ここで一区切りつける。
「異能が、世界に現れだしたのも、このころだ」
信也の補足。
「ああ、その通り。そして、数年前の信也たちと【焉】との一戦で、【焉】が倒された時、半壊状態だった歯車がはずれ、一部が、欠片として日本中に散り、【穹】を【機関】が。それ以外を不知火家が保持した。そして、これが完成した歯車だ。これと、鍵が八つがあれば、どうにかなるはずだ」
そしてそれが、
「そうすれば、この狂った世界が元に戻る。実験や収容されていた異能使いも全員自由になれる」
そう、そうなるはず。だから、俺は、一刻でも早く、この世界を正したい。
「じゃあ、なるべく早く、この世界を元に戻さないとね。てゆーか、早く直してもらわないと、私たち【PP】も異能事件忙しくなっちゃうのよね」
紀乃の冗談めいた言葉に、匡子さんが
「まったくよ。でも、紀乃は関わってないでしょ!あたしか、信也の仕事になるじゃないの!」
などと憤慨していた。
「ついたぞ」
信也が、ふと、足を止める。そこは、
「小屋?」
「ああ、この奥だ」
小屋にカモフラージュした階段などではなく、本当の小屋だ。
「本?」
「朱野宮関係の歴史書だ。高価なものもあるから気をつけろよ」
そうは言うが、あちらこちら、足の踏み場もないくらい散乱していたりするので困る。
「あら、これは、懐かしい名前が……」
いつもの「~っス」口調ではない、おそらく初妃になっていると思われる刃奈が歴史書を取り、呟いていた。
「おい、刃奈、どうした?」
匡子さんの言葉もガン無視の初妃。
「こ、これは。……バレテル」
ポトっと落とした本を見る限り、家系図のようだが、「蒼刃家家系図」とあることから、その蒼刃家に何かあるのだろう。と、上から眼をやってみると、すぐに、「篠宮初妃」の文字を見つけた。しかし、彼女からは、二方向に線が引っ張ってあり、「蒼刃蒼天」なる人物が主軸だが、もう一方に「天海空李」と引かれている。そういえば、「不倫」とか言ってたか。
「おい、お前等、何やってんだよ」
「ああ、悪い」
ボーっとする初妃を置いて、信也の下へと向かった。




