71話:願望
――思いよ、届け。彼だけに……
【願望】
珍しく長い夢だった。そう、実感できるわけで、それは、夢を夢だと認識できていたということでもある。私が今日見たのは、二人の恋愛から何から何まで描いた人生ドラマのような長い夢。私のご先祖様、と言わんばかりの名前の二人の夢。
「桐谷夫妻、ね。まったく、イチャコラしちゃって……」
凄くリアルな夢だけに初夜から何から何まで、勝手に見させられたこちらとしては、頬を紅く染めざるをえない。経験がないだけに余計に。
「それで、私にどうしろと言うのかしら」
私が、希咲と言う一族と雪織と言う一族の末裔であることは分かったけれど、確か、【氷の女王】と言う女も言っていたわね。希咲霧愛、と。
「それに、夢の中でも【氷の女王】の単語が出てきたし……」
これは、希咲哀子と言う人間を探してみたほうがいいかもしれないわね。私の半身らしいし。それに、私とその哀子と言う人間が、三つの扉の鍵らしいじゃない。鍵。それは、何を意味するのだろうか。分からないけれど、何か、とても大事なことな気がする。
「【氷の女王】の血族だからなのか、それとも、希咲と雪織の……桐谷の人間だからなのかしら」
私の髪が銀に染まる。眼は紫。【氷奏】……、いいえ、【氷天奏々】。それを体現する能力。
「私は、桐谷キリエ。希咲霧愛。雪織桐柄。三つの名前を持つ女」
そう、だから、私は、――
自分の心の中の【氷の女王】に問う。
「私は、これから何をすればいいのかしら」
(何を、ね。とりあえず、運命の子……。唄姫の子に会ったほうがいいと思うわ)
「唄姫の子?」
聞き覚えのない単語に眉を顰める。
(雨月家。三人目の――の家系の子よ。確か、名は謳)
雨月謳。その名に、私は、思わず、顔をしかめた。
「雨月くんが運命の子?」
(ええ。彼こそが、扉の一つを壊す役割を担う少年。もう一人の扉の破壊者の元には哀子がいるから平気よ)
つまり、私が、雨月の持つ鍵の一つと言うわけね。
(鍵穴である第一典、その娘が彼の手元にあるわ。そして、武神の血族八人。これで揃ったわ。あとは、歯車を見つけるだけ)
「歯車?」
(世界に整合性を持たせるためのパーツ)
それを私たちが見つけるの?
(まあ、これに関しては、初妃が一番詳しいんだけど……)
口調と声質が変わった?
(ちょっと、無双さん。出てこないでください。今は、私の番ですので……。コホン)
わざとらしい咳払いが入る。
(ええ。歯車を見つけるのは、貴方達の役目です。ですが、まあ、鈴蘭の少女が、)
鈴蘭?
(持って現れますよ)
持ってくるということは、その鈴蘭の少女は、
「雨月くんの知り合いなのね。その鈴蘭の少女は」
そうとしか考えられない。
(そう。彼が全ての中心にいる二人のうちの一人よ)
そう。だから、私は、願う。彼が、――であるように。
――願わくば、この望みが彼に届くことを祈って……




