63話:回想Ⅱ
【回想Ⅱ】
最初に札束を贈ったのは、私のいた孤児院。私は、あの日以来、孤児院から出ました。そして、まず、【血の走狗】名義で【祷村孤児院】にまとめてダンボールに詰められるだけお金を詰めて送りました。
「さて、と。巻き上げるぜ」
「おう、大将!」
私たち【血の走狗】は、十人で活動します。どんなところへ行くのも。作戦会議も。楽しい時間は、あっという間。謳くんが十三歳になったころ。私が十九を過ぎたころとも言える、この時期、郡上さんが、いなくなりました。
それが事件の始まり。崩壊の始まり。終わりの始まりでした。
「と、言うわけで、郡上さんは、我等の仲間になっていただきました」
銀縁の眼鏡を掛けた七三わけの男でした。
「【死の結晶】の【影】と申します」
男は、礼儀正しそうにお辞儀をしますが、私たちの態度は、見て明らかなように、礼儀を欠いていました。
「へぇ~、郡上が、そっちの仲間、ね。詳しく聞こうじゃないか。【影】さん、とやら」
謳くんが大きな態度で質問、と言うより詰問します。
「詳しくも何も、彼は、復讐のために我等の仲間になっただけのことですよ」
「復讐だ?何やらかす気だよ」
復讐。それは、前に聞いたことに繋がっていました。
「政治家の中でも権力を持つ人間が幾人かいます。その中の一人に、境出と言う名の議員がいます。その議員と郡上さんは、なにやら縁がある様でして……」
そのとき不意に、前に聞いた「郡上は、まあ、馬鹿だからね、騙されたんだよ、政治家にさ」と言う言葉が脳裏を過ぎったのは、言うまでもありません。政治家に騙された。詳細は分かりませんが、状況から判断すれば、その「境出」と言う議員が郡上さんを騙した張本人だと思われます。
「それで、あいつは、その議員に復讐するために、あんた等の軍門に下る……つーか、組織に鞍替えしたのか?」
「ええ、そう言うことです」
そして、その【影】と名乗る男は、私たちの秘密基地を去りました。
一報が入ったのは、それから少し後のことでした。季節は春。丁度入学式を終えたあたりの頃合いでしょう。
「おい、郡上の奴、捕まったぞ!」
その悲報に、私たちの顔は、驚愕に染まります。
「ぐ、郡上さんが……。どうして!」
私の問いに、一報を持ってきた大石さんが答えてくれました。
「郡上の奴、あの、なんたらって議員の娘を誘拐して失敗しやがった。このままじゃ、俺らもまずいかもしれない」
なぜ?と思ったのは、私だけではなかったようでした。
「よく考えてみろよ。あいつ等、【死の結晶】とやらは、わざわざ郡上を引き入れた。それは、もう、俺達をまき沿い……いや、身代わりに使う気しかないだろうぜ」
なるほど。すぐに納得できました。
「じゃあ、ここを出るか。悪いが、大石」
「分かってるよ、大将!任せてくれぃ!」
大石さんは、笑いながら、ソファに腰掛けました。どうやら一緒に出る気は無いようです。
「じゃあ行くが、長谷場、厳島!」
「りょ~かい!」
「了解した。撒けばいいのだろう」
なるほど、ここまでも分担をしているんだ、と思いましたが、私への指示はきません。
「北島、倉持。二人は、」
「どうせ、壁役だろ」
「理解はしていたさ」
この息の会いようは、凄いと感じます。
「波條は、向こうへ。鉄島は、下だ」
「うん、オッケー」
「わ、分かった」
駆けながらの指示に従い、皆さん、散り散りになります。
「爛。お前は、俺と着てくれ」
「え、あ。うん」
二人で道を駆け抜けます。
「大丈夫、大丈夫だ」
ひたすら呟く謳くん。このとき、いえ、これより前から、私は、彼に特別な感情を抱いていました。それが恋慕か、と問われると、簡単には肯定できません。
どちらかと言うと、母性。親子感情でしょうか。守ってあげたくなる。そこで、「可憐」と言う言葉につながります。「守ってあげたくなる」や「可愛らしい」と言う意味です。彼に私が抱くイメージそのものなのです。少し女々しい見た目。あれで髪を伸ばし、笑顔で笑っていたなら、令嬢のイメージそのものになります。
「……謳くん。謳くんは、このまま先に逃げて」
私は、彼に逃げ切って欲しかった。だから、突き放します。




