56話:謳の香り
Scene透
謳(未だ呼びなれない)がシャワーを浴びにいってから、あたしは、ベッドに顔を埋めた。
「あいつの匂いがする……」
いい匂い。
「……………………ハッ!あたしは、何を!」
思わず、しばらくの間顔を埋めてにおいを嗅いでしまったが、あたしはいったい何を。でも、いい匂いだなぁ。
何故か体温が向上してきている。身体の奥で何かが疼くような、ジュクジュクと湧くような。
「はぁ、はぁ……」
呼吸が早まっている。
「んんぁっ」
熱い。身体が熱い。手が、自然に、自分の身体に向かい、
「ん?どうした」
「ひゃああああああああ!」
突然の声に悲鳴を上げる。
「うおっ!何だよ」
「ななななっ、何だよは、こ、ここっ、こっちの台詞よ!」
意味わかんねぇ、みたいな顔すんな!
「あ、あた、あたしもフロは入ってくる!」
あたしは、駆け出した。
シャワーを浴びながら考える。すっかり火照った体。汗やらなんやらでベタベタしている。それを洗い流すように少し冷たいシャワーを浴びる。
沸騰した頭には、これくらいが丁度いい。
「ああ、もう、あたしは」
気分は、酷く落ち込んでいた。壁に頭を打ちつけたい気分だけど、そんなことして、あいつがやってきたら、余計酷いことになるから止めておくわ。
「まったく、う、謳は……」
体と心が熱い。なんだろう、この感覚。
「やっぱり、好き、なのかな」
などと乙女チックに呟くが、自分でも既に分かっているのだ。心の内なんてものは。
「しっかしなぁ~」
あたしは、自分の慎ましやかな胸を触る。そして、青く染めた長めの髪。普段は、大きな三つ編みにしている髪はほどくと、腰の長さほどになる。顔は、自分でも悪くないほうだと思う。
いやいや、控えめな反応で、普通より可愛いであって、自分の気分としては、世界一可愛い女の子気分なんだけど。
フロから上がり、いつものシャツとパンツ(下着の意味のパンツではなくズボンの意味のパンツ)を着て、フロをあがった。
キャラの安定しない透と出番の安定しない黒羽……
は、さて置き、蓮条崇音の話だったはず、なんですが……




