54話:新しい趣味
俺は、今までの人生で、漫画を読んだことがない。急な話である。
ただ、俺は、今、漫画を読んでいる。
「で?何であんたがあたしの部屋にいるわけ?」
前にその質問を俺がした気がするが、
「あ?漫画読んでるからに決まってるだろ?」
「自分の部屋で読みなさいよ!」
前に逆のやり取りをした気がしないでもないが、俺は、透のベッドに寝転びながら、漫画を読みふける。
「ここ、居心地がいい」
「えっ、ああ、そう?」
何故かモジモジしだす。
「どうした?トイレか?」
拳が飛んでくる。それを寝ながら避ける。
「デリカシーのない奴ね!」
「なんだよ、別にいいだろ?」
「にしても、あんた、漫画なんて読んで面白いの?」
漫画の持ち主に、漫画が面白いのか、と聞かれてしまった。
「お前のだろ?」
「え?だって、それ、少女漫画だし」
少女漫画?
「いや、何漫画かは知らんが、人間の心理描写が丁寧に書かれていて面白いと思うぞ。まあ、恋愛感情の描写に関しては文句がないわけでもないが」
あれはないだろ。
「え?何?」
「簡単に恋に落ちすぎだろ」
俺の言葉に、透は、
「いやいや、それが少女漫画の本質。恋心、愛情、恋愛。それを見せるための漫画で、リアルみたく延々、片思いやら好きなのに向こう全然気づかねぇとかなっても困るじゃん!」
なんだコイツ。後半、何か自分のことを語るみたいに語ってなかったか?
「あ!そうだ。そういや、兄ちゃんの読み古しの少年漫画がダンボールに入ってて、入寮んとき間違えて持ってきちゃったんだっけ……。少年漫画も読みなさいよ」
そう言って、部屋の奥の収納スペースからダンボールを二箱取り出した。
「面白そうだな」
「じゃあ、部屋に持っていって」
「ん?何か言ったか?」
俺は漫画に読みふけっていて透の言葉を聞いていなかった。
「だから、自分の部屋で読めっての!」
「いいじゃねぇか」
そのとき、来客の知らせが鳴った。
「ああ、もう、こんな時に!」
そう言って、駆け足で玄関に向かう透。俺は、ベッドでゴロゴロしていた。
「誰?」
「やっほ!とおるん!」
「もな!」
友だちが着たらしい。
「ちょっと、とおるんの部屋見せてよ!」
「え?いや、無理無理!」
五月蝿いな。
「いや、今、ちょっと、む……」
「うるせぇ」
話しに俺が口を挟んだ。
「え?あっ、もしかして邪魔しちゃった?」
「い、いや、邪魔とかじゃないけど……」
「いや、邪魔だろ」
俺が漫画読む(邪魔だろ)。
「何か、ゴメンね。とおるん。じゃ、じゃあ、また」
よく分からんが、透の知り合いは退散した。




