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狂った世界で  作者: 桃姫
睡蓮編
46/82

46話:出会いの記憶

Scene崇音

 これは、思い出の物語。


 流れる雲。

「おいしそうですね」

 私は、雲を眺める。

「お嬢様。あまり日の光を浴びると肌が……」

 侍女の七峰さんが注意をしてくださいます。

「はい、そうですね。そろそろ、部屋に戻りましょう」

「ええ、そのほうがいいですね。クレア様はもう、帰ってきていらしてますよ」

 そう、お姉さまが帰ってきているのね。それにしても、優秀な姉に非才の妹、まるでどこかの物語の令嬢のようではありませんか。

 私は物語が大好きです。あれは、必ず、誰かが報われるから。現実とは違って。

 だから、私は、白馬に乗った王子様が迎えに来ることもあこがれています。いえ、王子様でなくともいいのです。平凡な少年でも、空から落ちてきた少年でも。

「あら、」

 宙から一枚の羽が落ちてきました。落ち葉、ならぬ、落ち羽(おちば)ですね。

「お嬢様、私は、先に戻りますが、くれぐれも、日を浴びすぎないように」

 七峰さんはそう言って、屋敷へと入っていきます。私は、七峰さんを見送ると、空を再び見上げます。

「あっ、そこ危ないよ」

 そんな声が聞こえ、私は、ぎょっとします。どこからの声なのでしょう。

「よっと」

 私の横に着地したのは、私と同い年ほど、つまり中学一年生ほどの少年でした。

「え~っと、君、誰?」

 黒髪と黒眼で、品のある顔立ちの少年。彼は、一体……

「私は蓮条の人間ですが、貴方は……?」

「俺は、【血の走狗】のリーダー、謳だ」

 ウタイと名乗る少年。【血の走狗】と言う組織の人間のようですが……

「おっと、もう、追手が来たか。厄介だな【PP】」

 【PP】……。武装軍隊、【PP】のことでしょうか。この少年、この若さで、あの人たちに追われるなんて。

「まったく、懲りない奴等」

 少年は、笑う。酷く冷たい笑みを浮かべる。

「消え……」

 私は、気づいたら、彼の手を取っていた。何故か、今の「なにか」は、彼に使わせえてはいけなかった気がしたから。

「お、おい」

「こちらです」

 私は、気づけば、彼の手を引き、走っていました。

「あの女性、貴方を追っておられるのですか?」

 私の言葉に、彼は、

「そうそう。何なんだ?あの女。死神かよ」

 彼女は、なおも、私たちのほうへ向かってきています。

――シャッ

 その音と共に、私の横を、一本のナイフが横切ります。

「チェッ、【殺戮】の眼を使う隙すら、ありゃしねぇ」

 【殺戮】の眼?それが彼の何らかの力。まさか、お姉さまと同じ、【異質状態(いのう)】を持っているのでしょうか。

「ったく、ちょこまかと逃げちゃって、もう。そっちは、ここの家の子、よね」

「あっ、はい」

 女性が声をかけてきた。

「あ~、言っとくが、こいつは【血の走狗】には無関係の一般市民だ」

「分かってるわよ。さ~て、ボウヤ。君は、ここでとっとと潰させてもらおうかしら」

 すちゃっとナイフを八本出す。全てを指と指の間に挟んで、構えています。

 瞬きした、一瞬。ほんの一瞬で、女性は、ウタイと言う少年の横にいました。

――ドサッ

「あんたの力は、視界に入らなきゃ意味無いでしょ……。まったく、何で、あたしが信也の件の尻拭いに奔走しなきゃなんないんだか……」

 女性はブツブツと呟きながら、ウタイと言う少年を連行していきました。

「あ、あの……」

 声をかけようとする。しかし、相手は、とっくに声の届かない距離にいた。

 私は、彼に運命を感じてしまった。物語の中の、王子様のような、そんな運命を……。


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