46話:出会いの記憶
Scene崇音
これは、思い出の物語。
流れる雲。
「おいしそうですね」
私は、雲を眺める。
「お嬢様。あまり日の光を浴びると肌が……」
侍女の七峰さんが注意をしてくださいます。
「はい、そうですね。そろそろ、部屋に戻りましょう」
「ええ、そのほうがいいですね。クレア様はもう、帰ってきていらしてますよ」
そう、お姉さまが帰ってきているのね。それにしても、優秀な姉に非才の妹、まるでどこかの物語の令嬢のようではありませんか。
私は物語が大好きです。あれは、必ず、誰かが報われるから。現実とは違って。
だから、私は、白馬に乗った王子様が迎えに来ることもあこがれています。いえ、王子様でなくともいいのです。平凡な少年でも、空から落ちてきた少年でも。
「あら、」
宙から一枚の羽が落ちてきました。落ち葉、ならぬ、落ち羽ですね。
「お嬢様、私は、先に戻りますが、くれぐれも、日を浴びすぎないように」
七峰さんはそう言って、屋敷へと入っていきます。私は、七峰さんを見送ると、空を再び見上げます。
「あっ、そこ危ないよ」
そんな声が聞こえ、私は、ぎょっとします。どこからの声なのでしょう。
「よっと」
私の横に着地したのは、私と同い年ほど、つまり中学一年生ほどの少年でした。
「え~っと、君、誰?」
黒髪と黒眼で、品のある顔立ちの少年。彼は、一体……
「私は蓮条の人間ですが、貴方は……?」
「俺は、【血の走狗】のリーダー、謳だ」
ウタイと名乗る少年。【血の走狗】と言う組織の人間のようですが……
「おっと、もう、追手が来たか。厄介だな【PP】」
【PP】……。武装軍隊、【PP】のことでしょうか。この少年、この若さで、あの人たちに追われるなんて。
「まったく、懲りない奴等」
少年は、笑う。酷く冷たい笑みを浮かべる。
「消え……」
私は、気づいたら、彼の手を取っていた。何故か、今の「なにか」は、彼に使わせえてはいけなかった気がしたから。
「お、おい」
「こちらです」
私は、気づけば、彼の手を引き、走っていました。
「あの女性、貴方を追っておられるのですか?」
私の言葉に、彼は、
「そうそう。何なんだ?あの女。死神かよ」
彼女は、なおも、私たちのほうへ向かってきています。
――シャッ
その音と共に、私の横を、一本のナイフが横切ります。
「チェッ、【殺戮】の眼を使う隙すら、ありゃしねぇ」
【殺戮】の眼?それが彼の何らかの力。まさか、お姉さまと同じ、【異質状態】を持っているのでしょうか。
「ったく、ちょこまかと逃げちゃって、もう。そっちは、ここの家の子、よね」
「あっ、はい」
女性が声をかけてきた。
「あ~、言っとくが、こいつは【血の走狗】には無関係の一般市民だ」
「分かってるわよ。さ~て、ボウヤ。君は、ここでとっとと潰させてもらおうかしら」
すちゃっとナイフを八本出す。全てを指と指の間に挟んで、構えています。
瞬きした、一瞬。ほんの一瞬で、女性は、ウタイと言う少年の横にいました。
――ドサッ
「あんたの力は、視界に入らなきゃ意味無いでしょ……。まったく、何で、あたしが信也の件の尻拭いに奔走しなきゃなんないんだか……」
女性はブツブツと呟きながら、ウタイと言う少年を連行していきました。
「あ、あの……」
声をかけようとする。しかし、相手は、とっくに声の届かない距離にいた。
私は、彼に運命を感じてしまった。物語の中の、王子様のような、そんな運命を……。




