32話:解らぬ者
人間の未知を満たそうとする欲求は、時として、己の命すら顧みないことがある。典型的な科学者や探検家、冒険家のような人間だ。自己満足のために命を危険にさらす。
この勇音も、そう言った、未知を求める人間なのだろう。
「で、でも、私、謳さんの眼を見ても何ともなかったし、異能と関わったからといって……」
「お前に関しては特別な例だと思うぜ。そもそも、お前は、何らかの異能を持っているはずだ。それも、かなり強力な」
そうでなくては、俺の「眼」が効かない説明がつかない。
「ですが、私にそのような力があるのならば、何か起きてなくてはおかしくありませんか?」
それも確かにそうだ。しかし、
「常時展開か、それとも、見えないものか」
「どちらにしろ、何らかの異常が感知されるものですよね」
そう言われるとそうなのだが。
「だったら、何で、お前には、【殺戮】の眼がきかねぇんだよ。俺の眼が見たら、そこは、消えるはずなんだぜ」
「……ブラッティ・アイ。ラクスヴァの軌跡の」
そんな言葉が、俺の耳に入る。何故か、すっと、頭に沁み込むように「ブラッティ・アイ」と言う言葉が馴染む。
「勇音、今のは、」
「えっ、あっ、うん。確か、昔に読んだ本に、ラクスヴァの軌跡ってのがあって、その中にそのブラッティ・アイってのがあったの。確か、【血染眼】と書かれてたはず。【ブラッティ・アイ】や【ちぞめ】、【けっせんがん】ていろんな読みかたあったはずだけど」
馴染む。馴染みすぎて恐いくらいに【血染眼】と言う言葉が沁み込む。俺の中に元からあったかのような。
そう、聞き取れなかった、あの言葉が、今では聞き取れる気がする。【血染眼】。
「その力は、人の血を喰らい、物を壊す。その色は、赤く、紅く、朱く、赫い、血の色」
それは、やはり、
「俺の、『眼』」
「いや、でも、そりゃ、あたしが昔読んだ本の話っしょ?記憶違いかもしんないし」
「いや、間違いない」
それだけは、断言できた。
「俺の『眼』の正式な名前は、【血染眼】だ。それは、絶対だ。それが、何故か分かる」
「いや、そんな感覚だけの証拠のない話をされても」
「俺の感覚が証拠じゃ、不満か?」
俺の言葉に勇音が黙る。
「はあ、ったく、何で、そんな自信満々なのよ。まあいいけど。そんで、それがわかっても、マリアたんの秘密はわからんでしょーに」
「た、たん……?」
マリアが何か言っているが、気にせず勇音と会話を続ける。
「そう、それが一番の疑問だ」
「漫画やアニメ、ゲームの定番だと【魔眼殺し】だの【魔法無効化能力】だの【無敵】だの【上位存在】だのあるんだけどね」
魔眼殺し……。確か、【機関】に魔眼殺しの能力者がいたはずだった。そのほかに関しては、よく分からないが、しかし、魔眼殺しか。
「魔眼殺しを持ってるんだとしたら、あれだな。廿楽の【縛鎖】が効かなかった理由も説明がつくが……、納得いかんな」
「まっ、わかんないもんは置いといて、先、【青空の噂】とやらを解読しようじゃないの」




