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狂った世界で  作者: 桃姫
蒼空編
29/82

29話:影薄き者

 勇音透。一年五組所属。特徴、影が薄い。気配がない。

 特技、影が薄いため、情報収集に長ける。

 と、自称していた。屋上からの帰りに軽い自己紹介をされたが、そんなことしか分からなかった。あと、姉がいるらしい。

 それで、だ。その勇音透がなぜか、俺の部屋にいる。

 座敷童子のように、俺の部屋の端で棒付のキャンディをなめながら携帯ゲーム機をいじっている。使っているのではなく、分解しているほうの「いじっている」だ。

「ってゆーか、何で、お前は、人の部屋で機械分解してんだよ!」

「え?暇だし?調子悪くてディスク読み込まないし?」

 何で、全部語尾に「?」ついてんだよ。

「よし、直った」

 そう言って、手早く、組み立てなおすと、ディスクを入れた。キュルルルと小さな音が鳴る。

「読み込み長いな~」

 そう言いながらゲームを進める。

「って、だから、自分の部屋でやれよ!」

 俺の怒声に、勇音は、

「いや、ね。あたしの部屋だと集中できんのよ。修理に」

 コイツ、何なんだ。

 と、そのとき、急に、来客のベルがなった。

「はい、どちらさん?」

 俺がドアを開けると、見知ったクラスメイト、良介だった。

「よぉ~、ちょっと、暇だから話さないか!」

 ドアを勢いよく閉め、られなかった。止められた。

「おい、待て待て!」

「何故待たねばならん。つーか、足ではさむな。とっとと帰れ」

 無理矢理入ってこようとする良介。

「なんだよ。どうせ一人だろ。ちょっとくらいいいだろ!」

 そして、無理矢理入ってきた。

「へぇ~、荷物すくねぇな」

 そう言って部屋を見回す良介。そして、良介の目先には、思いっきりゲームやってる勇音が……。

「それにしても飾り気ねぇな。まあ、男の部屋で飾り気も何もねぇか」

 良介は、勇音に気づいていないらしい。超スルーだ。

「それで、何のようだ?」

「いや、特にねぇ」

 マジで追い出してやろうかと思った。

「それにしても、雨月。お前って、モテるよな」

「は?」

 意味不明の言葉に、俺は思わず、変な声を出してしまった。

「いや、だってよ!お前、マリアさんとも仲いいし、生徒会だから生徒会長や七夜さんとも仲いいんだろ?」

「確かに、知り合いだが、仲がいいわけじゃねえ」

「いや、仲いいって!あれか、どうせ、みんな部屋に呼ぶくらい仲がいいんだろ!」

 部屋に呼ぶくらいって、部屋に呼んだ奴なんていねぇぞ。向こうが俺の部屋を知ってて尋ねてくることとかあるが、部屋の中には入れないし。そう考えると、部屋に入ったことがあるのは、勇音だけ。

「今挙げた三人とも、部屋に入ったことねぇぞ」

「え?マジで。もしかして、雨月って」

「なんだよ?」

 まあ、ろくでもないことを言いそう。

「ヘタレ?」

「死にさらせ」

 無理矢理追い出した。


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