29話:影薄き者
勇音透。一年五組所属。特徴、影が薄い。気配がない。
特技、影が薄いため、情報収集に長ける。
と、自称していた。屋上からの帰りに軽い自己紹介をされたが、そんなことしか分からなかった。あと、姉がいるらしい。
それで、だ。その勇音透がなぜか、俺の部屋にいる。
座敷童子のように、俺の部屋の端で棒付のキャンディをなめながら携帯ゲーム機をいじっている。使っているのではなく、分解しているほうの「いじっている」だ。
「ってゆーか、何で、お前は、人の部屋で機械分解してんだよ!」
「え?暇だし?調子悪くてディスク読み込まないし?」
何で、全部語尾に「?」ついてんだよ。
「よし、直った」
そう言って、手早く、組み立てなおすと、ディスクを入れた。キュルルルと小さな音が鳴る。
「読み込み長いな~」
そう言いながらゲームを進める。
「って、だから、自分の部屋でやれよ!」
俺の怒声に、勇音は、
「いや、ね。あたしの部屋だと集中できんのよ。修理に」
コイツ、何なんだ。
と、そのとき、急に、来客のベルがなった。
「はい、どちらさん?」
俺がドアを開けると、見知ったクラスメイト、良介だった。
「よぉ~、ちょっと、暇だから話さないか!」
ドアを勢いよく閉め、られなかった。止められた。
「おい、待て待て!」
「何故待たねばならん。つーか、足ではさむな。とっとと帰れ」
無理矢理入ってこようとする良介。
「なんだよ。どうせ一人だろ。ちょっとくらいいいだろ!」
そして、無理矢理入ってきた。
「へぇ~、荷物すくねぇな」
そう言って部屋を見回す良介。そして、良介の目先には、思いっきりゲームやってる勇音が……。
「それにしても飾り気ねぇな。まあ、男の部屋で飾り気も何もねぇか」
良介は、勇音に気づいていないらしい。超スルーだ。
「それで、何のようだ?」
「いや、特にねぇ」
マジで追い出してやろうかと思った。
「それにしても、雨月。お前って、モテるよな」
「は?」
意味不明の言葉に、俺は思わず、変な声を出してしまった。
「いや、だってよ!お前、マリアさんとも仲いいし、生徒会だから生徒会長や七夜さんとも仲いいんだろ?」
「確かに、知り合いだが、仲がいいわけじゃねえ」
「いや、仲いいって!あれか、どうせ、みんな部屋に呼ぶくらい仲がいいんだろ!」
部屋に呼ぶくらいって、部屋に呼んだ奴なんていねぇぞ。向こうが俺の部屋を知ってて尋ねてくることとかあるが、部屋の中には入れないし。そう考えると、部屋に入ったことがあるのは、勇音だけ。
「今挙げた三人とも、部屋に入ったことねぇぞ」
「え?マジで。もしかして、雨月って」
「なんだよ?」
まあ、ろくでもないことを言いそう。
「ヘタレ?」
「死にさらせ」
無理矢理追い出した。




