28話:気配なき者
俺の言葉に、勇音は、驚く。
「うっわ~、何あんた。あたしのこと知ってんの?こわっ!ストーカー?」
俺は溜息をつく。
「お前、人か?」
「いや、青い髪してっけど、これ、染めてんのよ。人間、あたし人間だから」
俺が聞いたのはそういう意味ではない。
「お前、気配がない」
そう、気配が存在しないのだ。人間、極限まで薄めることはできても、消しきることはできない。
「いやっ、これ、生まれつきの体質だっつの。姉さんもあたしも、気配が薄すぎて、クラスで空気なんだから」
そう、彼女の見た目は、普通に可愛い。それこそ、廿楽や沙綾なんかより可愛いと思う。華奢、と言うより、小柄な見た目。そして、喋らなければ、令嬢のような、触ったら壊れてしまいそうな美しさが、愛らしさがある。ただし、喋らなければ、であるが。
それなのに、良介が、話をしているのを聞いたことはない。あいつ、美少女の情報をいりもしないのに、どんどん教えてくる。その良介が知らないというのは、よほどだろう。
「ちなみ、あたしと君も何度か会ってんだけどね。雨月謳くん」
どうやら、俺のことを知っていたらしい。これは、常時異能を発動しているのだろうか。いや、違う。彼女が異能を使っているとは思えない。
「念のために聞くが【幻影】や【透化】の異能を持っているわけじゃないよな?」
どちらも身体強化に分類される異能だ。
「なにそれ?あんたらが言う異能ってやつ?」
「そうだ。常時展開していれば、気配を消せるだろうが……」
俺は、濁った青色の髪を見る。
「お前、先天性の異常者か?」
稀に、ありえないほどの長い時間、異能を転じても力尽きない奴がいると聞くが、それだったら、常時展開していてもおかしくはない。
その異常者の特徴は、透通るような色の髪している。そこで、勇音を見る。濁った青い髪だ。違うな。
「異常者ってなに?まあ、いいけど。それよりも、君、兄弟はいんの?」
兄弟?知らないな。
「何でだ?」
「いや、姉さんの学校に、君と同じ苗字で、変な力の女の子がいるって言ってたから」
同じ苗字……。「雨月」ね。俺は、沙綾にこの名を貰ったわけで、これが本名かどうか知らないんだが……。
「少なくとも、俺に兄弟姉妹はいねぇよ」
そのはずだ。
「ふぅん、じゃあ、親戚?まっ、いっか。そういえば、君もあたしも生徒会だったっけ?影薄くて出席してないんだけど。まあいてもいなくても一緒だからいっかみたいな感じで」
結局、来てなかったのかよ。
「じゃあ、明日からは来いよ」
「いや、明日日曜だし。休まなきゃ、ね」
「生徒会は、日曜も活動あるんだ」
俺と勇音がそんなやり取りをしてると、キリエは、無表情に、
「じゃあ、私は、帰るわ。それじゃあね。愚図で鈍間な雨月くんとその辺の石ころみたいに、誰にも気にされない勇音さん」
屋上から飛び降りたのだった。
勇音が、
「誰が常に石ころぼーしかぶってるんだよ、こんチクショー!」
と、よく分からないことを叫んでいた。




