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狂った世界で  作者: 桃姫
七夜編
27/82

27話:屋上の少女

 屋上には、銀色の髪の神々しい女子がまた、いた。

「あら、また会ったわね。雨月くん」

 何事もなかったかのような、無表情に近い顔。

「ああ、そうだな。また会ったな」

「先ほどの奔流。光の波状は、貴方のもの?」

 やはり、あのときには、ここにいたらしい。

「いや、俺じゃない。俺は、それを止めたほうだ」

「そう」

 無関心といった感じか。

「そういえば、俺は、名乗ったが、お前の名前、聞いてなかったな」

 俺は、聞いていなかった彼女の名前を聞いた。

「名乗るほどのなじゃないわね。と言うか、下賎な下民如きに名乗る名はないわ」

 急に高圧的だな、おい!

「それで、下衆で、貧民で、貧困な発想しかできない雨月くんが、高貴で傲慢な私に名前を聞くとは、いったいどう言うつもりかしら?」

 無表情で淡々と悪口を言われた。

「つーか、傲慢は、自分に対する褒め言葉じゃねぇと思うけど」

「そうね」

 何なんだ、コイツは。

「まあ、名乗りたくないなら名乗らないでもいいんだが……」

「ええ、あなたに名乗る名などないわ。私の名前は、桐谷キリエよ」

 名乗らねぇのか、名乗るのか、どっちなんだよ!

「って、お前、あの【響乃四大美女】の桐谷キリエか」

「あら、知らなかったの?この美貌。この美しさは、まさしく美女でしょう?」

 なんて言うか、変な奴だな。

「確かに美人だな」

 俺は、率直な感想を述べた。

「綺麗だと思うぜ。肌も白いし。俺が知る限り、お前ほど綺麗な女は、数人しか知らない」

「数人?貴方は、お世辞を知らないの?」

 いや、お世辞とか使わん。施設では使うことがない。科学者に世辞言って何になんだよ。

「そういう時は、お前が世界一美しいとか、そういう風に言うものよ」

 俺がげんなりした顔をすると、

「いえ、それではお世辞にならないわね。本当のことだもの」

 コイツ、ウゼェ……。口調や言葉だけならまだしも、それを無表情に淡々と語ることでウザさが膨れ上がる。

「それで、雨月くん。貴方に聞くわ。貴方は、」

「いや、その話は、後にしよう。それより、あそこのネズミを狩るほうが優先かな?」

 俺の言葉に、キリエは、給水タンクのほうを見上げる。

「あれのことかしら?」

「ああ。そうだ。あれのことだ」

 俺とキリエが見る先で、濁った青色が見えた。それは、

「あ~、ちょい待ち。あたしは、その、別に盗み聞きしていたわけじゃないって!偶然、偶然だって!」

 青く染めた髪を長い三つ網にし、マフラーのように首元を覆っている少女。おそらく、勇音透だろう。

「勇音、だな」


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